南カリフォルニア沖に投棄された化学物質の樽 周囲に広がる白い輪の正体が明らかに
アメリカ、南カリフォルニア沖の海底には、50年以上前に化学物質を詰めた樽が大量に投棄されている。その周囲には、長年にわたって原因不明とされてきた白い沈殿物の輪が広がっていた。
今回、カリフォルニア州のスクリップス海洋研究所が行った調査で、この奇妙な輪の正体が有毒な強アルカリ性物質であることが判明した。
半世紀を経ても影響が消えず、海底環境に深刻な影響を与えていることが明らかになっている。
この研究成果は『PNAS Nexus』誌(2025年9月9日付け)に発表された。
南カリフォルニアにあるロサンゼルスとサンタ・カタリナ島の間の沖合の海底には、1930年代から1970年代初頭にかけて化学物質や産業廃棄物を詰めた樽が沈められた。
アメリカ環境保護庁によれば、この海域には放射性廃棄物、石油精製の残渣、化学薬品、石油掘削の副産物、軍事用の爆発物までもが投棄されていたという。
この「海底の墓場」が注目を集めたのは2020年のこと。
ロサンゼルス・タイムズ紙の報道で、調査用ロボットが多数の樽を発見したことがきっかけだった。
さらに2021年と2023年の調査で、スクリップス海洋研究所(Scripps Institution of Oceanography)は約2万7000個の樽らしき形状と10万を超える廃棄物を確認。その多くの周囲には白い沈殿物の輪が広がっていた。
この画像を大きなサイズで見る南カリフォルニア沖に設定されていた14か所の深海投棄場所のおおよその位置。水色の番号は廃棄物の投棄場所を示している。 U.S. Environmental Protection Agency当初、これらの投棄された樽には殺虫剤DDTが入っていると疑われていた。
だが、スクリップス海洋研究所の微生物学者ヨハンナ・グートレーベン博士らが2021年に行った調査では、5つの樽の周囲から採取した堆積物でDDTの濃度上昇は確認されなかった。
このことから、少なくとも調査対象となった樽の中身がDDTであった可能性は否定された。
代わりに検出されたのはpH12前後という非常に強いアルカリ性の物質だった。
これはDDTの性質(水に溶けにくく、pHを変動させない)とは明らかに異なり、研究チームは、中身が有毒な強アルカリ性物質であると結論づけている。
このような環境では微生物の多くが生息できず、樽の周囲は「生命が途絶えた海底」となっていた。
この画像を大きなサイズで見る調査対象の樽からはDDTそのものは検出されなかったが、この海域全体の堆積物には大量のDDTが含まれていることが過去の研究で確認されている。
これは、アメリカの化学・農業関連企業モンサント社などの製造工場が、排水管を通じてDDTを直接海に流していたためと考えられている。
DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は、かつて世界的に広く使われた殺虫剤である。
第二次世界大戦中にはマラリアやシラミの防除に用いられたが、その後、生態系や人体に深刻な悪影響を及ぼすことが判明し、1970年代以降、多くの国で使用が禁止された。
ただし近年では、適切に使用すれば毒性は比較的低いことや、使用禁止によるマラリアの再拡大が問題視されるなど、再評価の動きもある。
一方で、今回樽から確認された強アルカリ性物質の起源はまだ特定されていない。
候補のひとつとしてDDTそのものではなく、その製造の過程で生じる副産物が挙げられるが、石油精製の過程でも同様の物質が発生するため、いずれに由来するのかは今後の研究を待つ必要がある。
この画像を大きなサイズで見る樽の周囲に広がる白い沈殿物の輪ができる仕組みも解明された。
漏れ出した強アルカリ性物質は海水中のマグネシウムと反応し、水滑石(ブルーサイト:水酸化マグネシウムが主成分の鉱物)を生成していたのだ。
ブルーサイトはコンクリートのような殻となり、ゆっくり溶けながら堆積物を高アルカリ性に保つ。その結果、周囲の海水では炭酸カルシウムが沈着し、白い粉のように積もって輪がつくられたのだ。
研究チームのポール・ジェンセン氏は「50年以上たってもこれほどの影響が残っているのは衝撃的だ」と述べ、強アルカリ性物質をDDTと同じく長期的な環境汚染物質として扱うべきだと警鐘を鳴らしている。
研究者たちは、白い沈殿物の輪を手がかりに強アルカリ性物質を含む樽を特定すれば、汚染の範囲を把握できると考えている。
これまでの調査で確認された樽のおよそ3分の1に輪が見られているが、今後さらに調査が進めば、その割合は変わる可能性がある。
追記(2025/09/16)一部わかりづらい部分を訂正して再送します。
References: Eurekalert / Academic.oup.com
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。
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