1日1時間以上、スマホを触る人は要注意…脳科学者が警鐘「スマホが大人から奪っている大事な能力」 「電子機器を使う」から「電子機器に使われる」フェーズに
3つ目の問題点は、コミュニケーションへの影響です。わからないことがあったとき、今までなら「身近な人に聞く」「どこかに出向いて相談する」という具合に、そこには対人コミュニケーションが存在していました。
ところがスマホで調べ物をすると、「実際に人に会って対話する」という機会がなくなってしまいます。脳をいきいきと働かせるには脳トレのような脳の刺激だけでなく、社会に関わる生活習慣も非常に大切です。
人は直接会ってこそ心が通じ合うということが、科学的に立証された実験があります。コロナ禍の2020年、オンラインコミュニケーションが増えてきたときに、私は東北大学の学生たちに協力してもらい、「対面」と「オンライン」のコミュニケーションに違いはないか、緊急実験を実施しました。
同じ学部、同じ性別の5人でひとつのグループをつくってもらい、対面会話とオンライン会話の両方を行いました。話題は盛り上がるものならなんでもよし。この際、他者の気持ちを理解するときに活動する前頭前野の背内側面の活動を測りました。
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他者に共感しているように見えても…
実験の結果、対面で会話したときにはグループのメンバー全員の脳の活動が、同じところで高まったり、下降したりしていました。他者の感情を理解し、共感して5人の脳が明らかに「同期」したのです。
一方、オンラインでは表面的には対面会話のときと同様に、笑い声も上がり、共感を示す言葉が聞かれ、和気藹々あいあいとしているように見えたにもかかわらず、脳の活動に同期は起こりませんでした。
異なる個人の間で背内側前頭前野の活動が同期するのは、共感状態にあるときだということがほかの研究(※)で明らかになっています。対面では脳は共感状態にあることが示されていましたが、オンラインではまったくその兆候が見られませんでした。
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第2の問題は、記憶力の低下です。脳の前頭前野は「ちょっと難しい」「ちょっと面倒」というときに活性化します。例えば何かわからないことがあったときに、辞書で調べると前頭前野が働きますが、スマホで調べ物をしても、ちっとも活性化しません。
これは、すぐに答えがわかる、覚えられなくてもまたすぐ調べられるということで、脳が怠けてしまい、覚えたり、理解したりするのをやめてしまうのです。この「スマホで調べたけれど、忘れちゃった」という状態は、皆さんも経験があるのではないでしょうか。
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この脳活動が上がらない状態は、調べ物だけでなく、SNSツールでのメッセージのやり取りでも起こります。
予測変換機能が言語能力を奪っている
スマホやパソコンの、文字の予測変換機能も脳のためにはよくありません。言語能力を衰えさせてしまいます。
私は以前、手書きで手紙を書く場合と、パソコンや携帯電話で文字を打つ場合の脳活動を比較する実験を行いました。すると、手書きの場合は前頭前野が活性化しましたが、キーボードや携帯電話で文字を入力しても前頭前野はほぼ反応しませんでした。
文字を手書きで書くときには漢字をイメージする、イメージしたものを書いて再現する、という2段階の脳の使い方をするのに対し、キーボード入力ではこうした過程が不要になります。さらに予測変換機能を使えば、その語句を思い出したり、理解したりしていなくても文章が書けてしまうのです。
前頭前野が働かなければ言語能力は高まりませんし、新たに触れた言葉を覚え、語彙を獲得することもないのです。
語句の調べ物だけでなく、スマホの地図のナビゲーションシステムも同様です。自分のいる位置をイメージしながら把握する、目的の場所を調べてそこに至る道を探す、といった脳の活動が不要になるのですから、こうしたことを繰り返しているうちに当然脳の力が衰えます。
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スマホを中心とした電子機器の浸透は、未知の大きな変化をもたらしました。日常生活では「不便」と感じられていたことの多くがデジタルデバイスのおかげで解消しましたが、果たして本当に、これは「便利」なのでしょうか。
川島隆太『脳を鍛える! 人生は65歳からが面白い』(扶桑社)
ヒトは脳を使い、脳を活性化することで知識を得て、新たな技術を生み出してきましたが、ここにきて私たちは電子機器に依存するあまり、「電子機器を使う」のではなく、「電子機器に使われる」フェーズに足を踏み入れてしまったのかもしれません。
こうした暮らしを続けていくことで、脳にはどれほどのダメージになるか。それはまだ、人類が経験していないことで、影響の度合いはわかりません。
デジタル機器への依存の弊害は子どもたちに顕著ですが、65歳前後の人たちもまた、パソコンに触れることが多くなった世代で、じつは依存度が高いのです。電子機器のネガティブな性質に無自覚なまま、機器を使いこなしているので注意が必要です。
スマホ依存かどうかを見分ける基準
調べものをしたり、SNSを確認したり、動画を視聴したり、スマホの使い方はひとつではないので使用時間を決めることが難しいのですが、まずは自分がどれくらい、スマホ漬けになっているかを確認してみましょう。
スマホには「スクリーンタイム機能」といって、使ったアプリやアクセス時間が記録されています。1週間ほどスクリーンタイムをチェックしてみて、平均して1日に1時間以上スマホを使っている場合は、スマホ依存度が高いといえます。脱スマホに向けて、使い方を見直してみてください。
わからないことがあれば、紙の辞書で調べる。人とコミュニケーションをとるときは、スマホのメッセージではなく、電話をかけて話をする。電話をするより、実際に会いに行く。ちょっと不便、ちょっと面倒な方法を選んで脳の老化を食い止めましょう。