海図なき世界 北朝鮮の核問題 戦略の再構築を図らねば

北京・天安門広場で開かれた中国の「抗日戦争勝利80年」記念式典で軍事パレードを観覧する(前列右から)北朝鮮の金正恩総書記と中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領=2025年9月3日、朝鮮中央通信・朝鮮通信

 北東アジアの安全保障にとって最大の不安定要因である。放置することはできない。

 北朝鮮の核・ミサイル問題が深刻さの度合いを増している。ストックホルム国際平和研究所の推定によると、保有する核弾頭はいまや60発に上る。昨年だけで10発増えたという。北朝鮮はさらなる増産を公言している。

 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は核の先制使用もありうると強硬な姿勢を示し、戦術核をちらつかせて韓国を脅すようになった。

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 ロシアによるウクライナ攻撃では、北朝鮮製のミサイルが大量に使用されている。実戦を通じて得たデータによって改良され、精度が大幅に高まったとされる。意味するのは、日本や韓国を射程に収める中短距離ミサイルの性能向上である。

失敗の歴史直視が必要

 北朝鮮が核開発に本腰を入れた背景には、冷戦終結に伴う国際的孤立があった。安保面で依存していたソ連と中国が相次いで韓国と国交を樹立し、北朝鮮と距離を置くようになった。

 このため、朝鮮戦争で戦火を交えた米国に対する独自の抑止力として核兵器を位置付けた。

 対話に応じた米国は1994年、開発凍結の見返りに軽水炉2基を供与することで北朝鮮と合意した。関係正常化へ歩みを進めることも確認された。

 東欧の社会主義体制が相次いで崩壊した直後だった。北朝鮮の体制も長続きしないという甘い見通しが、米国側にあったとされる。

 合意では、当時進められていたプルトニウムを使う核計画の凍結が定められた。ところが北朝鮮はその後、裏をかいて濃縮ウランによる核開発を進めた。

 2002年に発覚した後、米朝に日本と韓国、中国、ロシアを加えた6カ国協議で解決策が探られた。一定の進展はあったものの解決には至らず、北朝鮮は06年に核実験を強行した。

北京で開かれた第2回6カ国協議を前に握手する(左から)米国、韓国、北朝鮮、中国、日本、ロシアの代表=北京の釣魚台迎賓館で2004年2月25日(代表撮影)

 核実験を繰り返すようになって以降、国連安全保障理事会は厳しい経済制裁で譲歩を引き出そうとしたが、期待した効果は上がらなかった。

 さらに近年の国際情勢の緊迫化が北朝鮮に有利な環境を生んだ。

 ウクライナ戦争で支援を受けるロシアは、軍事同盟を復活させた。安保理制裁を無視して、経済的な見返りも与えている。

 かつては北朝鮮の核開発に否定的だった中国も関係改善を積極的に進めており、非核化に言及しなくなった。

 中露は、安保理での追加制裁決議案にも拒否権を行使した。

 憂慮されるのは、北朝鮮を「核保有国」と呼ぶトランプ米大統領の動きである。

 第1次政権時に会談を重ねた金氏との「良好な関係」を理由に、米韓合同軍事演習の規模を大幅に縮小するよう開始直前に指示した。かねて金氏との会談に意欲を見せてきた。

 11月の米中間選挙を過ぎれば、残り任期が意識され始める。トランプ氏が政権の成果を残そうと焦って中途半端な取引に応じてしまえば、北朝鮮の核保有にお墨付きを与えかねない。

「非核化」目標は堅持を

 米国や韓国では「非核化」目標の棚上げ論も語られている。

 6カ国協議で米国の次席代表を務めたビクター・チャ氏は、北朝鮮の核保有を事実上認めた上で、暴発を防ぐことに主眼を置く「冷たい平和」を提唱する。日韓の元政府高官からも「核・ミサイル開発をやめさせる手立ては見当たらない」という声が聞かれる。

 韓国の李在明(イジェミョン)大統領は、核兵器の増強を止めることが最優先だと主張する。まず状況悪化に歯止めをかけ、核兵器の削減、非核化へと進もうとする段階的なアプローチだ。

 核放棄に応じさせるのは困難な道のりであり、相応の時間を要する。見返りや制裁をてこに核放棄をさせようとした従来の政策が失敗に終わったという厳しい現実も、認めざるをえない。

 それを踏まえて対応策を練るのは当然だが、「非核化」という目標を下ろしてはいけない。日本は米韓と連携し、改めて明確にすべきだ。

 地域情勢を安定させるためには中国との意思疎通も不可欠だ。周辺国との協調は、拉致問題の解決に向けた環境作りにもつながるはずである。戦略の再構築が求められている。

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