「死のハイウェー」からオオアリクイを守れ 行政を動かした「逆転の発想」
デビエスのチームは轢死(れきし)した個体を数える一方で、生きたオオアリクイに追跡装置を付け、セラードでの足取りを追った。追跡されたアリクイたちは。まれに森の中の川岸をたどって歩き、川に架かる橋の下や家畜用通路を利用して、幹線道路の下を安全にくぐる個体もいた。その様子は、デビエスがこうした「事実上の地下横断路」に設置した自動撮影カメラにも記録されていた。 そこでデビエスが思いついたのは、道路管理当局がこうした横断路を増設し、その入り口へと誘導するフェンスを道路の両側に設ければ、オオアリクイの減少を食い止められるかもしれないということだ。だが、デビエスのチームがオオアリクイの道路の横断に関する相談を最初にもちかけたとき、同国南西部のマットグロッソ・ド・スル州の道路を管轄する政府の管理当局は、地下横断路やフェンスのために数百万レアル(約3000万~1億数千万円)を支出することに乗り気ではなかった ブラジルを拠点とする野生動物保護研究所の傘下で運営される「オオアリクイ保護プログラム」は、あらゆる交通行政担当者の心に響くテーマ、すなわち「人にとっての安全」を強調することで、事態を打開した。米国ではシカをはねる事故が起こるたびに、病院への支払いや車両の修理代で平均8000ドル(約128万円)以上の社会的損失が生じており、研究によって、野生生物用の横断路を造ることが賢明な投資になることが示されている。 動物の轢死体が至るところに転がっているために「死のハイウェー」と呼ばれてきた、世界最大の熱帯湿原パンタナールを貫く主要な幹線道路、BR-262号線は、急速に安全になりつつある。 2025年、ブラジルの国家運輸インフラ局と民間の契約業者は、野生生物に配慮した形でBR-262号線の改修に着手した。動物の轢死事故が多発する区間に長さ170キロのフェンスを設置したり、野生生物用の地下横断路を新たに10カ所設けたりするほか、数十カ所の既存の橋や道路下の水路も改修し、動物が利用しやすくする計画だ。 ※ナショナルジオグラフィック日本版9月号特集「オオアリクイを交通事故から守る 行政を動かした「逆転の発想」」より抜粋。
文 = ベン・ゴールドファーブ