海底の泥、気候変動との闘いの「隠れた英雄」 その実態を探る
地球の大気中炭素を隔離する役割を担うことに対する評価をいつもほぼ独占しているのは、原生林だ。だが、気候変動との闘いの隠れた英雄である可能性が高いとして、ようやくその真価を認められつつあるのが、海の底にある泥、海泥だ。 問題は、この重要な海泥堆積物がいつ、どのようにして形成されたのかに関して、海洋学者の理解が十分に及んでいないことだ。ましてや、どうすれば泥を完全に保護できるかについてはなおさらだ。こうした疑問に答えを出すために、英国の研究者チームが、何千年も前から存在する海底海泥の堆積海域3カ所に着目している。3カ所はすべて、北東大西洋の浅い大陸棚海域の「北西ヨーロッパ大陸棚」に位置している。 英エクセター大学の堆積学者のゾーイ・ロズビーは、オーストリアのウィーンで開催された欧州地球科学連合(EGU)2025年総会の席上で取材に応じ、大陸棚堆積物は非常に広範囲にわたって有機炭素を蓄積するために本当に重要だと語った。ロズビーによると、今回の研究では、泥堆積物がどこに位置するかを予測し、時間とともにどのように進化してきたかを考察できるモデルを開発した。これにより、炭素蓄積の潜在的なホットスポットの特定が可能になるという。 実際、専門誌Journal of Geophysical Research: Oceansに最近掲載された論文によると、北西ヨーロッパ大陸棚海域にある3カ所の泥の堆積中心(堆積層の厚みが最大になる領域)は全て効果的に炭素を隔離している。 論文の共同執筆者の1人であるロズビーによると、このような泥堆積物が水深数十mに数百kmにわたって存在する可能性があり、炭素隔離の有効な助けとなっている。実際に地球の炭素サイクルの重要な一部なのだと、ロズビーは述べている。 論文の筆頭執筆者で、英バンガー大学の海洋学者のソフィー・ウォードは、EGU2025年総会の席上で取材に応じ、今回の研究で着目した3カ所の海泥堆積域の1つであるケルティック・ディープ(Celtic Deep、CD)は、大西洋北部のケルト海にあり、アイルランド島南東部および英コーンウォール南西部の沖合に位置すると説明した。2つ目の海泥堆積域の西アイリッシュ海泥帯(Western Irish Sea mud belt、WISMB)は、アイルランド本土および英国の北アイルランドとグレートブリテン島との間の半閉鎖性海域にあるという。