普通のキーボードを“勝手に”エルゴノミクスに変える「MX Tilter Kit」を買ってみた

 これだけAIの時代になっても、いまだ文字入力の主力はキーボードである。そのうち音声入力でも相当のことができるようになるとは思うが、書いたものの編集や一部の修正などでは、コントローラとしてキーボードが使われ続けるものと思われる。

今回購入した「MX Tilter Kit」のパッケージ。箱には「3dkeycap」と刻印してある。手作り感満載

 キーボードへのこだわりを具現化した形として、2018年頃から急速に自作キーボードへの関心が高まった。そしてコロナ禍による在宅勤務が増加すると、一気に一般化していった。

 現在は大手ECサイトでも、キーボードのパーツが売られている。キーキャップなどは抜いて差し替えるだけなので、スイッチのタイプさえ間違えなければ、比較的簡単に改造が楽しめる。既存キーボードのカスタマイズも、自作同様の市場規模を形成しているものと思われる。

 その影であまり話題にならないのが、エルゴノミクスキーボードである。左右に分かれていればエルゴノミクスという人もいるが、本当のエルゴノミクスとは、人間工学に基づいてキーが立体的に配列されており、指・手首・腕・肩などの負担軽減を目的としたものを指す。

 この分野では米Microsoftも力を入れていたが、いつの間にか製品を見かけなくなった。昨今はMicrosoftの周辺機器ポートフォリオを、Incaseがライセンスを受けて再展開しているようである。現在入手可能なエルゴノミクスキーボードは、大手ではサンワサプライやHP、新進気鋭としてはPerixxやEwinといったメーカーが頑張っている。ただ立体にメカニカルスイッチを配置するのが難しいため、1万円以下の廉価商品はメンブレン式になっているのが残念なところだ。

 そんな折、普通のキーボードを(勝手に)エルゴノミクスに変えるパーツが「遊舎工房」に入荷したと、ネットニュースで報じられた。スイッチからキーキャップを持ち上げて、角度をチルトさせてくれるスペーサーのようなものらしい。通販サイトには載っていないので、店舗販売しかないのだろう。価格は9460円といささか高いが、取材のついでに立ち寄って購入してみた。

 製品名としては「MX Tilter Kit」という名前だが、箱には「3dkeycap」と刻印してある。いずれにしても、キーキャップを立体的に配置するためのパーツ、ということで間違いない。

 中には英語のマニュアルと、チルトパーツが入っている。作りを見る限り、各パーツも箱自体も、3Dプリンターで製作されているようだ。まあそんなに数が出ない商品だろうから、製造方法としては妥当なところである。

箱の中身は3種類のスペーサー

 どんなスイッチにも使えるわけではなく、基本的にはCHERRYのMXキースイッチと対応キーキャップが対象となる。スイッチの頭が十字になっていれば、大抵はMX互換キースイッチである。

 チルトパーツは先端が少し斜めに傾いており、これを取り付けることでキーキャップを持ち上げ、なおかつ角度を付けることでチルト状態を作り出す、というわけだ。数としては、長い軸のものが20個、中くらいの軸が34個、薄いスペーサーのようなものが12個となっている。

長短2種類のチルトパーツと、厚さ1mm程度のスペーサー

 キーをチルト状態にすることで、キーキャップ同士が干渉する可能性も考えられる。まずは一般的な配列の「Keychron K11 Pro」で試してみる。

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 では、早速このキーボードを使って入力してみる。これまでエルゴノミクスキーボードを使ったことがない人には、おそらく最初は違和感があるだろう。やはりタイピング面が平坦ではないということが、利便性と違和感とのせめぎ合いになるかと思う。

 コデラはこれまでにも変なキーボードをいっぱい使ってきたので、そのあたりの耐性はある。ただそれでも、手の負担が減って楽になった感じはあまりしなかった。

 その理由を分析してみると、どうも手前側のキーが高いというのが問題のようだった。手前のキーが防波堤みたいにそそり立っているので、それをまたぐように手を持ち上げなければならない。そこに余計な力が入ることで、キーを押すのが大変になるようだ。特にCtrl+CやVといったショートカットを使う場合、キーが持ち上がっていることで大変押しにくい。

 もしこの状態で使うのであれば、リストレストを使って、かなり高い位置に手首を持ち上げてやる必要がある。多くのエルゴノミクスキーボードはリストレスト部と一体化しているが、それは手首の位置も含め、トータルでポジションを決めるという設計が必要ということである。キーボード単体が立体になるだけでは、不完全なようだ。

そこで、手前側下段2列は通常の高さに戻すことにした。要するに奥側だけが持ち上がっているという状態にしてみようというわけである。

手前2列は元の高さに戻してみた

 この状態でタイピングしてみたが、Ctrlキーを押しながらのショートカット動作はやりやすくなった。というかそれは単に元に戻っただけなので、当然である。

 奥側のキーがチルトしているだけだが、これは思ったほど違和感はなかった。奥のキーにも指が届きやすくなることで、指を丸めたり伸ばしたりして上下移動をこなす必要がない。ずっと卵を握っているような指の形で、全てのキーに届く。

 ただそれとは別に、どうもミスタイピングが多くなっている。キーの位置が想定している場所から、ちょっとズレている気がする。

 その原因を考えてみたが、どうもKeychron K11 Proのキー配列が、上下段で少し横にずれる「ロウスタッガード」だからではないかと思われる。普通に平たく並んでいる場合にはそれほど違和感がないが、高さ方向に立体的になることで、このズレが少し拡大されてしまうため、微妙に狙いが外れるようだ。

見た目ではそれほど分からないが、微妙に左右のズレが拡大している

 改めてエルゴノミクスキーボードとしてのスタンダードであるKINESISのキー配列を確認してみると、こちらは上下段で左右のキーにズレがない、「カラムスタッガード」だった。キーが立体配置された場合は、こちらのほうが違和感がないということはすでに知られている事実なのかもしれない。

 せっかくのエルゴノミクス化だが、入力ミスが増えるのでは意味がない。リストレストが一体ではない場合は、手前のキーまで持ち上げる必要はないという知見を得たので、次のステップへ進むことにした。

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