悩み続けた西野七瀬を支える、大先輩の言葉「役者という職業が合ってるかは分からないけど…」

 女優の西野七瀬(30)が俳優の高橋文哉(24)と共にダブル主演を務める映画「少年と犬」(瀬々敬久監督)が20日に公開される。直木賞を受賞した馳星周氏の同名小説が原作で、人々が一匹の犬・多聞と出会い、人生を歩む感動作。西野は「撮影の最初から最後まで『これでいいのかな』と悩み続けた。今の自分の最大を出し切った作品」と話し、役者として歩む自身の今を語った。(瀬戸 花音)

 クランクアップの瞬間、涙がこぼれた。西野は「今思い返しても、クランクアップの時の感情を全然覚えてないんです。ただ、何かずっとグッと力を入れていたものが一気に緩んで、大きな戦いが無事に終わったという安心感があったように思います」と目を細めた。

 西野が演じたのは、大きな罪を抱えながらデートクラブで働いている美羽。「かなり大変そうなシーンも多いなとも思いましたけど、逆にそういうものに挑戦させてもらえる機会でもあるなと思って、(オファーを)お受けしました」

 美羽が抱える背景は重い。「出ているシーンのほとんどが平和なものではありませんでした。感情を動かして、そういうシーンの連続で、終わっても終わってもまた次に向き合うべきものがどんどんやってくる。本当に毎日『これでいいのかな?』って悩んで、もっともっと伝えるにはどうしたらいいんだろう?って考え続けていました。だから…撮影期間は疲れましたね」

 最も大変だったのは美羽が罪を犯すシーンだという。美羽の基盤ともなる大きな過去であり、それからの人生に大きな影響を及ぼすそのシーンは、撮影初日に行われた。

 「初っぱなから感情を爆発させて、アクションのような動きもあって、大変でした。それでも、私が演じるこれからの美羽がどんな感じになるか決まってくる大切な場面。一番最初に撮影し、その後、思い出せる記憶としてずっと心に置くことができたので、初日の撮影ですごく良かったと思います」

 美羽は、罪を抱え、さみしさを抱え、それでも、強くあろうと頑張っている女性である。西野自身は強い人間か、強くあろうとする人間か。「自己暗示をかけています」と答えが返ってきた。「『平気、平気』『全然大丈夫。だって私、強いもん』って言い聞かせてます。ずっとそんな感じ…ずっとではないか。今は、そんな感じです」

 2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格し、14年にはセンターに抜てき。アイドルの王道を歩んできたが、「もともとは人見知りで、めちゃくちゃネガティブで、ぐずぐずだった」という。自身が変わったきっかけは2つある。

 1つは「マイナスな発言をいっぱいしてた時に、周りにめっちゃ気を使わせてるなって気づいた」こと。もう1つは、19年にグループを卒業し、ひとりで役者の道を歩み始めたことだ。

 「グループから1人になってという環境の変化の中で、少しずつ自分が変わっていくのを感じました。楽観的になってきて、あんまり怖いものがなくなったというか。『変わらなきゃ!』って思ったわけではなく、自然と変わっていけたので、良かったです」

 20年、フジテレビ系ドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」で共演した真矢ミキ(61)からかけられた言葉を今も大切に胸に抱いている。「熱意があれば、大丈夫」。先輩からの言葉は心強い支えとなっている。「その言葉は度々思い返しています。いつもいただいたその言葉の意味を考えるようにしています」

 卒業して6年。今の全てを込めて演じた本作はついに公開を迎える。「撮影の最初から最後まで悩み続けていましたが、後悔はないです。あとはもう、見てくださる方の感想が全てだと思っています。今の自分の最大を出し切った作品です」

 西野は「全部、全部ひっくるめて、現場が好きです」とほほ笑んだ。「もちろんしんどい時もあるし、ちょっと嫌な気持ちになることとかも全然あるんですけど、全部をひっくるめて楽しめてるなって感じがあるんです。役者という職業が合ってるかは分からないけど、楽しいと思えるから今、できています」。終始穏やかに語った西野の声は決して大きくはないが、不思議と耳と心に残るものだった。そこに役者という職業への、確かな熱意が感じられた。

 ◆西野 七瀬(にしの・ななせ)1994年5月25日、大阪府生まれ。30歳。2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格し、12年「ぐるぐるカーテン」でデビュー。14年「気づいたら片想い」で初センター。13年に日テレ系「49(フォーティーナイン)」でドラマデビューし、17年には初映画「あさひなぐ」で主演。19年にグループを卒業。21年に「孤狼の血LEVEL2」での演技で「第45回日本アカデミー賞」優秀助演女優賞と新人俳優賞をダブル受賞。24年、俳優の山田裕貴との結婚を発表。

 ◆「少年と犬」 大切な人に会うために岩手県釜石からさまよってきた一匹の犬“多聞”が日本を縦断する中でさまざまな過去を抱える人々と出会い、心に寄り添う。大きな罪を抱えながら懸命に生きる美羽は多聞に命を救われ、多聞を探す青年・和正(高橋文哉)と出会う。128分。

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