睡眠不足になると職場でナルシシズムやサイコパシーなどの「ダークな性格」が引き出されてしまう可能性

サイエンス

自己愛症(ナルシシズム)権謀術数主義(マキャベリズム)精神病質(サイコパシー)といった特性の総称であるダークトライアドは、反社会的な性格を形成する要素といわれており、職場における非生産的な行動や有害な力関係などと関連付けられています。新たな研究では、「睡眠不足の従業員は職場におけるダークトライアドの度合いが高くなる」という結果が示されました。

Rise of the Dark Side: How Sleep Perception Triggers Dark Triad States at Work - Kuijpers - Journal of Organizational Behavior - Wiley Online Library

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/job.2885

Poor sleep can bring out the 'dark side' of personality at work, study finds https://www.psypost.org/poor-sleep-can-bring-out-the-dark-side-of-personality-at-work-study-finds/ 誇大性や自尊心、共感の欠如などが特徴のナルシシズム、自己中心的な考えや人を操作・搾取する傾向などが特徴のマキャベリズム、反社会的行動や利己主義、無反省などを特徴とするサイコパシーといったダークトライアドは、日常生活の多くの場面で有害な影響をもたらすことが知られています。

ダークトライアドに関する研究の多くは、これらの特性が安定的で永続的なものとして扱ってきました。しかし、ベルギー・ブリュッセル自由大学の研究チームは、人々が自分を制御する能力は休息や回復期間に影響を受けることから、睡眠時間が職場におけるダークトライアドの発露と関連しているのではないかと考えました。

論文の筆頭著者でブリュッセル自由大学の博士研究員であるエヴィ・キュエイペルス氏は、「この問題への関心は、『誰もが程度の差はあれダークな性格特性を持っている』という認識から生まれました。特に組織内で権力のある立場にいる人々は、これらのダークな性格特性において特に高いスコアを示す傾向があります」と、心理学系メディアのPsyPostに語っています。

研究チームはベルギーとアルゼンチンの労働者103人を対象に、経験サンプリング法による10日間の調査を行いました。経験サンプリング法とは、さまざまな状況や時間の流れの中で、被験者に自身の思考や感情、行動について回答してもらうという研究手法です。 今回の研究では、被験者は毎日午前中と夜にアンケートへ回答しました。午前中のアンケートでは、前日の睡眠の質と睡眠時間を評価し、夜のアンケートではその日のナルシシズム・マキャベリズム・サイコパシーの度合いや、ストレス耐性などについて回答しました。 被験者から収集した合計786日分のデータを分析した結果、「睡眠の量と質」の両方が、ダークトライアドの発現と負の相関関係にあることが判明しました。つまり、睡眠不足や普段より睡眠が短いと報告した人は、その日の職場においてナルシシズムやマキャベリズム、サイコパシーといった傾向を示す可能性が高かったというわけです。睡眠不足とダークトライアドの関連性は、個人差を考慮に入れた後も有意でした。 キュエイペルス氏は、「睡眠の認識、特に睡眠の質が個人間でのダークトライアドの変化を一貫して予測できたことには少し驚きました。また、日々の睡眠におけるわずかな変化でさえ、行動に有意な影響を与える可能性があることも注目に値します」と述べています。

さらに研究チームは、睡眠とダークトライアドの関連性が苦痛への耐性、つまり不快感に耐える能力に影響を受けているかどうかも検証しました。その結果、睡眠不足が被験者の苦痛への耐性を低下させ、結果としてダークトライアドの傾向が高まることがわかりました。 たとえば、睡眠不足の夜を過ごした被験者は、翌日のストレスやフラストレーションへの対処能力が低いと感じており、その結果として日中にダークトライアドを示す可能性が高くなったというわけです。この影響は睡眠の質と時間の両方で有意でしたが、質の影響の方がやや強く、「睡眠がどの程度安らかだったか」が重要である可能性を示唆しています。 また、研究チームは睡眠とダークトライアドの関係が逆方向に働くか、つまり「日中にダークトライアドを示したことが次の夜の睡眠に影響するかどうか」も調べました。その結果、確かにダークトライアドが次の睡眠と関連している証拠が得られ、特にマキャベリズムの影響が大きかったと報告されています。しかし、ダークトライアドの発現によって説明される睡眠への影響は極めて小さく、睡眠がダークトライアドに与える影響の方が高かったとのことです。

キュエイペルス氏は、「睡眠の質と量の両方が不十分な人は、ストレスへの対処がより困難になることも一因となり、ダークトライアドに関連する行動を取る可能性が高くなることがわかりました。これらの研究結果は、従業員が感情をコントロールし、職場での有害な行動を回避するために、良質な睡眠が重要であることを浮き彫りにしています」と述べています。 心理学系メディアのPsyPostは、ダークトライアドは職場の人間関係を損ない、仕事のパフォーマンスを低下させ、有害な環境につながる可能性があると指摘。睡眠は調整可能な要因であるため、企業は長時間労働を制限するなどして健康的な睡眠習慣を促進したり、職場に睡眠用の休憩スペースや仮眠のポリシーを導入したりすることで、よりポジティブな職場文化を育むことを検討した方がいいとPsyPostは主張しました。

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