あらゆる動物は「死ぬと消えるかすかな光」を発しているという研究結果

サイエンス

2025年大阪万博の公式ロゴマークのテーマ名は「いのちの輝き」となっていますが、実際に人間が肉眼で輝いていると感じられる生物はホタルやチョウチンアンコウなど、生物発光という特性を持つ一部の種に限られています。ところが、あらゆる生物は目には見えないもののかすかな光を発しているそうで、カナダの研究チームがマウスや一部の植物を対象に研究を行いました。

Imaging Ultraweak Photon Emission from Living and Dead Mice and from Plants under Stress | The Journal of Physical Chemistry Letters

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.4c03546

Living beings emit a faint light that extinguishes upon death, according to a new study https://phys.org/news/2025-05-emit-faint-extinguishes-death.html

We Emit a Visible Light That Vanishes When We Die, Says Surprising New Study : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/we-emit-a-visible-light-that-vanishes-when-we-die-says-surprising-new-study

All living things emit a ghostly GLOW that vanishes when we die, scientists reveal | Daily Mail Online

https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-14702143/living-things-emit-GLOW-scientists.html

ほとんどの動植物は光を発さないものと考えられていますが、近年では細胞の代謝副産物として光子が生成されており、生物がこの光子を放出する「ultraweak photon emission(UPE:超微弱光子放出)」という現象が起きていることがわかっています。

UPEの鍵を握っているのは、細胞内のミトコンドリアがエネルギーを生成する際に生じる活性酸素だと考えられています。活性酸素が過剰になると酸化ストレスが引き起こされ、これによって電子の励起と移動プロセスが誘発され、結果的にUPEが生じる可能性があるとのこと。

すでにUPEは単細胞生物や植物、動物、さらに人間に至るまでさまざまな生物種で観察されています。しかし、生物発光が肉眼で見えるほどの光を生成するのに対し、UPEによって放出される光子はごくわずかであり、人間の目で見えるほどの強度ではありません。そのため、UPEを検出することは非常に困難で、温かい物体から放出される放射線などその他の自然光源と区別しにくいそうです。

そこで今回、カナダのカルガリー大学の物理学者であるヴァヒド・サラリ氏らの研究チームは、高度なイメージング技術を使用して、マウスや植物の葉でUPEを観察する実験を行いました。

実験ではまず、環境光による干渉を排除するために暗く温度制御された箱を用意し、その中に4匹の生きたマウスを入れました。そして、微弱な光を検出するIn Vivo Imaging System(IVIS)を搭載したCharge-Coupled Device(CCD)カメラと、特殊な電子倍増機構を持つElectron-Multiplying Charge-Coupled Device(電子増倍型CCD)カメラを用いて、マウスから放出されるUPEを1時間にわたり撮影しました。

その後、マウスを箱の中に入れたまま安楽死させた後、さらに1時間にわたり撮影を続行しました。マウスは死後も体温が下がらないように温められ続け、生きていた時と死んだ後で熱が変動しないようになっていました。 実験の結果、マウスの生前と死後で明らかに放出される光子の数が異なることが判明しました。以下の画像は上が生きている時のマウス、下が死んだ後のマウスの光子放出量を示したもので、死んだ後のマウスは明確にUPEが減少していることがわかります。

また、研究チームはシロイヌナズナヤドリフカノキの葉を用いて、温度や損傷などによってUPEがどのように変化するのかを調べました。 以下の画像は、AとBが温度変化に応じた葉のUPEの変化を視覚化したもので、Cが光子の量をグラフにしたものです。温度が高くなるほどUPEが増加している傾向が見て取れます。

また、葉に傷を付けてUPEを観察した実験では、物理的な損傷を受けた箇所でUPEが増加していることがわかりました。研究チームは、「私たちの研究は16時間にわたるイメージング全体で、すべての葉の損傷部分が損傷していない部分と比べ、有意に明るくなったことを示しています」と述べました。

なお、植物の葉は死んですぐ光子の放出が減少したマウスとは異なり、本体から切り取られた後も光子を放出し続けました。この理由についてチェコ科学アカデミーの生物学者であり、研究には関与していないミハル・チフラ博士は、UPEの放出は個々の組織細胞に関係しているためだと指摘。チフラ氏は海外メディアのDaily Mailに対し、死後に光が消えるのは組織への酸素供給が止まり、これにより代謝がストップしたためだと説明しました。 今回の研究は、医療検査用途でUPEが活用できる可能性を示唆しています。生成される光子の量を観察することで損傷した組織を特定したり、健康状態を監視したり、もしかするとアルツハイマー病などの疾患の進行を調査したりできる可能性もあるとのことです。

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