巨大なエイ「マンタ」は、海のナビから進路を読み取るため、深海1200mまで潜っていた
世界最大のエイとして知られるマンタ「オニイトマキエイ」は、体の横幅8m、体重3tにも達する個体もいる。
大きな胸びれを羽ばたくように動かしながらゆったりと泳ぐその姿はとても優雅だが、最近の国際研究チームによる追跡調査で、オニイトマキエイが水深1200mもの深海に潜っていることが明らかになった。
しかもその目的は、エサを探すためでも、天敵から逃れるためでもない。
私たちがスマホの地図アプリで現在地を確認しながら移動するように、マンタは「海のナビ」を頼りに進路を探っていたのだ。
この研究成果は『Frontiers in Marine Science』誌(2025年10月15日付)に公開された。
2025年現在、マンタは3種に分類されている。
1種目はオニイトマキエイ(Mobula birostris)だ。この種は外洋性のエイで、現生するエイの中で最も大きい。
2種目はナンヨウイトマキエイ(Mobula alfredi)という沿岸性の種で、かつてはオニイトマキエイと同種とされていたが、2009年に別種として分類された。
そして3種目はモブラ・ヤラエ(Mobula yarae)で2025年7月に正式に種として認定された。
この種は大西洋沿岸の浅い海域に生息し、長年オニイトマキエイと考えられていたが、特徴的な模様や遺伝子解析により、別種であることが明らかになった。
この画像を大きなサイズで見るオニイトマキエイ Image credit: © MV Erdmann今回の調査対象となったのはオニイトマキエイだ。以降マンタという表記はすべてオニイトマキエイのことである。
オーストラリアのマードック大学、ニュージーランドのオークランド大学、アメリカの海洋保全団体リワイルドなどの国際研究チームは、インドネシア東部のラジャ・アンパット、ペルー北部トゥンベス沖、そしてニュージーランド北部のファンガロア近海で、合計24匹のオニイトマキエイに衛星タグを装着した。
タグのうち8個は一定期間後に外れて海面に浮かび上がる設計で、残り16個は衛星を通じてリアルタイムでデータを送信した。
この調査で得られたのは、合計2705日分、4万6945回にも及ぶ潜水データだ。
そのうち79日では、水深500mを超える潜水が確認され、最も深い記録では1250mに達した。
この画像を大きなサイズで見るエイの最大種、オニイトマキエイ Image credit: © MV Erdmannこうしたマンタの潜水は、一気に潜るのではなく、数回に分けて段階的に深度を下げていた。
これは、水温が下がる深海に体を慣らすため、あるいは途中で体力を回復するためと考えられている。
特にニュージーランド近海の個体では、沿岸から離れたタイミングでこうした深海潜水が多く記録されていた。
潜った後は深海に長く留まることはなく、すぐに海面近くに戻ってしばらく滞在し、その後に73時間かけて約200kmを移動した例もあった。
そのため、こうした潜水はエサを探すためでも、天敵から逃れるためでもないことが推測された。
この画像を大きなサイズで見るオニイトマキエイ Image credit: © MV Erdmann研究の第一著者であるマードック大学のカルビン・ビール博士によると、これらの潜水は、オニイトマキエイが自分の位置を確認し、周囲の環境の情報を得るための行動だという。
人間がスマホの地図アプリで現在地を確かめながら移動するように、マンタも「海のナビゲーションシステム」を使って旅していると考えられている。
また、マンタは潜水中に、水温、地磁気の傾斜、溶存酸素量といった「水柱」と呼ばれる環境情報を感じ取り、それをもとにとどまるか移動するかを判断していると考えられている。
この画像を大きなサイズで見るオニイトマキエイ Image credit: © MV Erdmannこのような深海潜水行動はすべての個体に見られるわけではない。
インドネシアやペルーで記録されたオニイトマキエイでは、1250mといった極端な深さへの潜水は確認されなかった。
これは地形の違いによるもので、両地域の沿岸は比較的浅いため深海へのアクセスが難しい。
一方で、ニュージーランド近海では海底が急激に深くなっており、深海潜水が可能な条件がそろっていた。
今回の研究に直接関わっていないが、海洋保全団体リワイルドのサメ保全ディレクターであるマーク・アードマン博士は、次のように評価している。
これは、オニイトマキエイが持つ極端な深海潜水能力を詳細に調べた初めての研究です。動物たちが広大で目印のない海をどうやって移動し、何千kmも離れた生態系をつなげているのか。そのヒントがこの中にあります
ニュージーランドの研究チームは2019年から毎年夏にマンタへのタグ装着を続けており、今後もさらなる発見が期待されている。
この画像を大きなサイズで見るオニイトマキエイ Image credit: © MV Erdmannオニイトマキエイは国際的に絶滅が危ぶまれている種のひとつである。漁業による混獲やヒレの取引による乱獲に加え、繁殖力が極めて低いため、個体数の回復が難しいとされている。
こうした研究は、マンタの行動を明らかにするだけでなく、今後の保全活動の基盤をつくる意味でも重要な取り組みとなるだろう。
References: Frontiersin / Eurekalert / Scimex
この記事が気に入ったらいいね!しよう
Facebookが開きます。