中国人1000人超がロシア警察を包囲…習近平が「史上最高」と自画自賛した"プーチンとの蜜月"の不都合な現実(プレジデントオンライン)

2026年上海協力機構(SCO)サミットにおけるウラジーミル・プーチン大統領 中華人民共和国の習近平国家主席と共に(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)(株式会社プレジデント社)

習近平国家主席が「史上最高の水準」と誇る中ロ関係の陰で、中国人労働者による抗議が相次いでいる。4月にはロシア極東の製油所で数百人が「プーチン、助けて」と訴え、8月には中国国有企業が請け負う建設現場で、1000人超が警察車両を取り囲んだと海外メディアが報じている。背景には、長引く賃金の未払いがある。ロシアで働く中国人労働者に何が起きているのか――。

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■ロシアの警察車両を取り囲んだ中国人作業員 「警察の職務執行だ、撮るな、撮るな!」 現場の管理者とみられる人物が、中国語でそう叫ぶ。小銃を手にしたロシアの警官が、宿舎のドアを破って踏み込む。中国人の作業員1人が連れ出され、車に押し込まれた。 2026年8月9日、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクから約160キロ離れた、港町のウスチ・ルガ。中国の国有企業、中国化学第七建設が請け負う大型ガス化学プラントの工事現場が、対立の舞台となった。連れ出された男は、長く給料が支払われておらず、この日は酒に酔っていたとみられる。管理者と口論になって罵声を浴びせたため、現場のスタッフが警察を呼んだという。 連行に反発した作業員たちがいっせいに警察車両に押し寄せ、車をびっしりと取り囲んだ。台湾の通信社「中央通訊社」が現地のSNS投稿をまとめたところでは、その数は1000人を超えたという。怒号が飛び交う。スマホを掲げ、ライブ配信する者。中国国歌を歌い出す者までいた。警察車両は、まったく身動きが取れない。収拾がつかないとみた警官は、その場で男の身柄を解放した。 騒ぎのもとをたどれば、給料の未払いが長引いていることに行き着く。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、中ロの蜜月ぶりを内外に誇示してきた。その陰で、ロシアの巨大プロジェクトを担う中国人労働者たちは、中国企業の雇い主にもロシア側にも給料の支払いを求めてきたが、いまだ回答を得られずにいる。 よい仕事に就けると信じて国境を越えた中国人労働者たちは、異国ロシアの地で途方に暮れたままだ。■戦争と高齢化で150万人の労働者が不足 こうした現場は、化学プラントのあるウスチ・ルガに限らない。ロシアのバルト海沿岸から極東まで、各地にある大規模な建設現場で中国人が汗を流している。 スリランカ主要英字紙のデイリー・ミラーによると、中国化学第七建設の親会社である国有の中国化学工程集団は、バルト海沿岸で総額200億ドル超(約3兆1600億円)の事業を手がけている。 極東のハバロフスク地方では、石油大手ロスネフチの製油所で、中国人が燃料製造設備の建設を進めていた。隣のアムール州では、ロシアの石油化学大手シブールと中国国有のシノペックが共同出資する事業費100億ドル(約1兆5800億円)規模の樹脂工場が、完成間近だ。 働き手が、とにかく足りない。プーチン氏は、2.2%という世界でも最低水準のロシアの失業率を、繰り返し誇示してきた。だが、それは新たに雇える人がもうほとんどいないということも意味する。ブルームバーグが伝える推計では、70万〜90万人が軍に吸い上げられ、外国人の出稼ぎ労働者は2022年初めと比べて約100万人減った。労働力の不足を埋めるには、あと150万人が必要だという。

 そうしたなか、中国人労働者は増えている。香港在住の著述家マーク・オニール氏は香港の経済メディア「EJインサイト」への寄稿で、旧ソ連諸国の出身者を除けば、外国人労働者のなかで中国人が最も多いと指摘する。ロシア内務省が2025年に中国人に発給した労働許可は9万2000件。前年の1.5倍で、発給総数24万件の4割近くを占めた。


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■「未払いはない」と言い切った製油所 発注元のロスネフチは、施工の質の低さと工事の遅れを理由に、中国系企業ペトロ・ホーホアとの契約を解除している。 同社は地方政府を通じ、検収を済ませた工事の代金は常に期日どおり払ってきたと主張した。給料が払われない理由を知っているのは、ペトロ・ホーホアの経営陣だけだ、とも。製油所側に至っては、ペトロ・ホーホアの従業員への給料の未払いはないと言い切った。他社の給料の支払い状況をなぜ知っているのか、説明はない。何も決まらないまま、労働者たちは夕方、外界と隔てられた宿舎へ戻った。 翌朝、製油所の門の前に、労働者たち数十人が再び集まる。そこには国家親衛隊の護送車が停まり、撮影機材が用意され、ヘルメット姿の機動隊員が待ち構えていた。ロシア独立系調査報道メディアのジ・インサイダーは、昼に労働者たちが宿舎へ引き揚げると、間もなく治安部隊が宿舎を封鎖したと報じた。現場を見ていた人物によると、中へは誰も通されず、労働者たちは「動かないのが一番だ」と警告されたという。■治安当局が中国人の逮捕をためらうワケ 「プーチン、助けて」と労働者たちがシーツに書いてまで助けを求めた当のプーチン氏は、5週間あまり後、北京で中国との蜜月ぶりを誇示していた。 礼砲がとどろき、軍楽隊の演奏が響く。はためく両国の旗を背に、習氏とプーチン氏が打ち解けた様子で肩を並べて立つ。会場では、子どもたちが旗と花を振って出迎えていた。2026年5月20日に行われた、北京での歓迎式典だ。 「親愛なる友よ」。プーチン氏が習氏にそう呼びかけ、習氏もプーチン氏を「長年の友人」と呼んだ。CNNによると、プーチン氏は会えない寂しさを表す中国の成語「一日会わねば三秋のごとし」を引き、親密さを演出したという。AP通信によると、習氏は協定の調印後、両国関係が「史上最高の水準」に達したと述べた。 経済面で両国は互いを必要としている。中国国営の新華社によると、2025年の両国の貿易額は約2280億ドル(約36兆円)。前出のオニール氏は、2026年1〜7月の貿易額が前年同期比26%増の1590億ドル(約25兆1000億円)に達したと寄稿で指摘する。

 ウスチ・ルガで警官が作業員を解放したのは、中ロの蜜月ゆえだと、オニール氏はみる。普段は容赦のない治安当局も、軍事と貿易の両面で最も重要な相手国である中国の労働者となると、逮捕をためらうというのだ。コムソモリスクで治安部隊が誰も拘束しなかったのも、おそらくは同じ理由からだろう。


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■中国人が書いた「プーチン、助けて」 急増した中国人労働者の中には、未払いの給料をめぐって、プーチン氏に介入を請う者まで現れた。ウスチ・ルガの騒ぎの4カ月前、先に触れた極東の製油所でのことだ。 資金に乏しいのか、労働者たちはありあわせの材料で作った看板を掲げて抗議した。半分に折ったシーツに、「プーチン、助けて」の文字が書き込まれている。平たく開いた段ボールには、ロシア語で「セーチン、助けて」。製油所を傘下に収めるロスネフチの、イーゴリ・セーチン社長のことだ。プラカードを掲げている労働者たちは、ほとんどロシア語を話せない。それでも、やっとの思いで抗議の文字を綴った。 2026年4月12日、ロシア正教の復活祭にあたる日曜の朝。ハバロフスク地方の都市コムソモリスク・ナ・アムーレの通りを、作業着にヘルメット姿の数百人がゆっくり歩いてゆく。製油所の改修を請け負っていた中国企業のロシア子会社、ペトロ・ホーホアの労働者たちによるデモだ。ハバロフスク地方政府は参加者が200人程度であったと発表したが、ロシア独立系紙のノーヴァヤ・ガゼータは、目算でその倍はいたと伝えている。 労働者たちは国家親衛隊や警察に阻まれることなく数キロ歩き、「最初の建設者たち」を意味するペルボストロイテレイ大通りの歩道や芝生に座り込んだ。治安部隊の護送車がやって来たが、拘束された者は1人もいなかったという。■地元市民より権利がある外国人労働者 当局は事態の収拾に躍起になった。座り込みの場には同市のドミトリー・ザプルタエフ市長が駆けつけ、製油所の社長や市の検事も労働者たちと面会した。検察はすぐさま調査すると発表し、ロシア外務省や在ハバロフスク中国総領事館も対応に加わった。 ロシアでは、政権に異を唱える市民のデモは取り締まられるのが常だ。それだけに、この扱いは地元の人々の目に異様に映った。「外国人の出稼ぎ労働者のほうが、地元の市民よりも平和的に意見を表明する権利がある」。ノーヴァヤ・ガゼータによると、ハバロフスクの活動家ミハイル・クルバノフ氏は、そう寂しげに冗談を飛ばした。

 もっとも、自由に声を上げることはできても、給料の支払いには結びつかない。


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■未払い賃金は1年でほぼ2倍に 一方で、給料の遅配は急速に広がっている。北京での会談から1週間後、賃金未払いの統計が公表された。 ロシア連邦国家統計庁が5月27日に発表したところでは、4月末時点で支払われていない給料は28億7990万ルーブル(約54億7000万円)。1年前のほぼ2倍にあたる。給料の支払いが遅れた労働者の数は、同時点で1万9000人と、1年前の2.6倍に増えた。このうち2割強を、建設業の労働者が占めている。 未払いの総額は過去の経済危機の頃より少なく、給料が支払われていない労働者の割合も、労働者全体の1%に届かない。ただし、小規模企業の未払いは、統計の対象外だ。中国人労働者への未払い分が含まれているかどうかも、明らかになっていない。 エコノミストが懸念するのは、未払いが膨らむ速さだ。高等経済学院のエフゲニー・コーガン教授は、ロシア独立系英字紙のモスクワ・タイムズの記事の中で、「企業の財務状況が悪化している明確なシグナルだ」と指摘した。 政権は、この数字が注目されるのを避けたかったらしい。亡命メディアのメドゥーザによると、国営メディアには、この統計を「できる限り無視せよ」との指示が出ていたという。政権寄りの数紙もいったん記事に統計を掲載したが、のちに記事を取り下げた。■中国のネット民も皮肉る「中ロ蜜月」の実態 ロシア経済の歪みとは別に、ウスチ・ルガの建設現場で働く中国人作業員たちは、よりによって祖国の国有企業から手ひどい仕打ちを受けていたとされる。 オニール氏の寄稿によると、中国労工観察の李強(リー・チャン)執行ディレクターは、この現場で2025年から26年にかけて、給料の支払いが3〜8カ月も滞ったと指摘している。作業員たちはパスポートを取り上げられ、移動まで制限されていたという。 デイリー・ミラーが伝えるところでは、労働者たちは、給料が素性の知れない下請け業者を通して支払われていたと証言している。気づいたときには、給料は固定給から出来高払いに切り替えられていた。ある管理者に至っては、同僚1人の銀行口座の「種類が違う」ことを口実に、全員分の給料の支払いを遅らせたという。 騒動は中国本国でも話題を呼んだ。8月9日の包囲騒動について、中央通訊社は中国のネット上の声として、「ロシアで権利を守るほうが、中国より簡単らしい」との書き込みを紹介した。自由が抑制される中国より、ロシアのほうが抗議の声を上げやすいという皮肉が生じている。 警察を呼んだ現場の中国企業を、名指しで責める声も上がった。「国外(ロシア)で自国民をいじめるだけでは足りず、外国人(ロシア警察)の手まで借りた」 ネットでの反響とは対照的に、中央通訊社が報じた時点で、ロシアの警察も中国化学第七建設も、在ロシア中国大使館も、この件について何のコメントも出していない。 当局や中国企業が無視を決め込む中、中ロ蜜月の脆い実態を示す騒動がロシア各地で広がろうとしている。----------青葉 やまと(あおば・やまと)フリーライター・翻訳者1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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