【深層】国内SaaSに迫るオアシス:狙われたSMS、PAコンサル、インフォマートの共通点

早船 明夫 株式会社クラフトデータ 代表取締役社長

アクティビスト(物言う株主)のオアシス・マネジメントが国内SaaS企業への関与を強めている。2026年に入り、SMS、PAコンサル、インフォマート株式の大量保有が判明。PAコンサル株は国内SaaS大手のラクスへ売却され、SMSでは経営陣との対立が泥沼化している。なぜオアシスは日本のSaaSに目を付けたのか。その背景を探る。

この記事の目次 [閉じる開く]

 エス・エム・エス(2175)(以下、SMS)、プラスアルファ・コンサルティング(4071)(以下、PAコンサル)、インフォマート(2492)の3社は、いずれも東証プライム市場に上場する大手SaaS企業だ。

 SMSは医療・介護分野の人材事業と介護向けSaaSを柱とし、PAコンサルは人事領域の「タレントパレット」やマーケティング分析ツールなどのSaaS、インフォマートは飲食向けのSaaSに加え、請求書電子化サービスなどを展開している。

 3社は、Sansan(4443)やfreee(4478)、マネーフォワードが注目を集めた2016~2021年ごろのSaaSブームより前から、クラウド事業に取り組んできた。

 SMSは介護分野の人材・ITサービスの先駆けであり、PAコンサルはSaaS業界で重視される指標「Rule of 40」(売上成長率と営業利益率の合計が40%以上)を継続的に達成してきた。インフォマートは、飲食業向けサービスを中心に顧客基盤と収益を築いた、国内の代表的な業界特化型SaaS企業だ。

 SaaS業界では、毎年継続して得られる売上を年額に換算した指標である「ARR」が重視されている。3社はいずれも、多額の赤字を出して急拡大することなく、着実に顧客を増やしながらARRベースで年率20%前後の成長を積み重ねてきた。事業基盤の強い企業といえる。

 ただし、SaaS企業全体のバリュエーションが下がる中で、3社のマルチプル(利益などに対する企業価値評価の倍率)の水準も低下している。顧客や収益の安定性だけでなく、今後も成長を続けられるのか、利益や手元資金を有効に使えているのかが問われる段階に入っていたといえる。

 オアシス・マネジメントは2025年ごろからこの3社とコンタクトを取り始め、2026年には大株主となった。大量保有報告書などによると、オアシスの大量保有が判明したのは、SMSが今年の1月、PAコンサルが4月、インフォマートが6月だった。

オアシスが突いた経営戦略の「余白」

 なぜアクティビストの標的になったのか。3社に共通するのは、これまで培ってきた事業基盤がある一方、ラクス(3923)やSansanなどの国内トップSaaS企業と比べると、今後の成長をどう加速させるのかが見えにくいと投資家から受け止められていたことだ。

 例えば、ラクスは「楽楽」シリーズの名のもとに複数のサービスを展開し、売上成長率と営業利益率の合計で60%超えを目指す「Rule of 60」という目標を掲げている。目標達成のために買収や出資も活用して成長を継続してきた。Sansanも、名刺管理サービスに加えて「Bill One」「Contract One」といった新しい成長製品を生み出している。

 経営陣が成長の方向を示し、新しいサービスや買収を実行している企業では、外部の投資家が経営に介入する余地は相対的に小さくなる。アクティビストは、製品を開発して顧客を増やす役割を直接担うわけではないからだ。

 一方、今回狙われた3社は、顧客を増やし利益や現金を蓄積してきたが、投資家から「資金や人材をどの事業に振り向けるのか、事業の組み合わせをどう見直すのか」といった疑問の声があった。

 特にSMSに対しては、「成長が鈍化している」「海外事業が資本効率を下げ、強みのある介護分野への投資を妨げている」といった投資家からの指摘がなされていた。

 一部のSaaS大手では、先手を打って資本構成の最適化を図っている。ラクスは今年、祖業のITエンジニア派遣事業を約187億円で売却した。同事業は黒字だったが、SaaSに経営資源を集中する方が企業価値向上につながると判断がなされた。Sansanも、出資先のUniposやウイングアーク1stについて、十分な相乗効果が見込めないと判断し、株式を売却している。

 今回オアシスの投資対象となった3社は、依然として成長余地を残している。顧客や事業資産があるからこそ、それを生かすための投資や経営判断をより迅速に行える余地があるのではないかという見方が、アクティビストの介入余地につながったと考えられる。

続きを読み込む

記事へのご意見・ご感想

早船 明夫 株式会社クラフトデータ 代表取締役社長

ユーザベースでSPEEDA事業を推進後、独立。SaaS企業・スタートアップ分析note「Next SaaS Media Primary」を運営するクラフトデータを創業する。ファーストライト・キャピタル チーフアナリスト兼務。NewsPicksやBusiness Insiderなどでも執筆多数。

本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答えいたしかねますので、あらかじめご了承ください。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。 当サイトの掲載画像には、Adobe社提供の画像生成AI「Firefly」を使用している場合があります。 全文を表示する

リスク・費用・情報提供について

関連記事: