どうすれば、魚を食べ続けられる? 魚食文化を支える「水産資源管理」とは?
国連食糧農業機関の「世界漁業・養殖業白書2024」によると、世界の水産資源の約3分の1が過剰に漁獲されている状態です。さらに、国立研究開発法人水産研究・教育機構の調査によると、日本の水産資源の49パーセントが「枯渇状態」ともいわれており、かなり深刻な状況です。 この問題を改善するためには、適切な「水産資源管理」が欠かせません。魚食普及推進センターでは、消費者が水産資源に対する理解を深めることも目的に、『魚を食べる楽しさを広げ、水産業界を元気に』する活動をしています。今回は、同センターの早武忠利(はやたけ・ただとし)さん、内堀湧太(うちぼり・ゆうた)さんに、水産資源の現状や「水産資源管理」の重要性、そしてこれからも魚を食べ続けるために私たちができることについて伺いました。
――まずは「水産資源管理」について教えてください。 内堀さん(以下、敬称略):簡単に言うと、「魚(資源)を持続的に取れるように、取る量やサイズ、時期などを管理しながら取りましょう」という考え方です。海の中では、光合成によって植物プランクトンが増え、それを動物プランクトンが食べ、さらにそれを魚が食べて成長し、卵を産む……という食物連鎖があり、魚はそうした自然のサイクルの中で常に再生産されています。 ですから、理論上は取り過ぎなければ、魚の数が一定に保たれ、永久的に利用できる資源ともいえます。逆に、再生産量を超えて魚を取ると、年々魚が減少し、やがては取れなくなってしまう。 そして、一度極端に減少してしまった資源は、たとえ管理を始めても、元の量に戻るまで長い時間がかかります。その間、私たちは気軽に魚を食べられなくなりますし、漁業者の生計も成り立たなくなります。その結果、魚の量が回復した頃には、漁業者や漁船がなくなっているなんてことも考えられますので、管理をすることはとても重要なんです。 ――具体的には、どんな方法で管理しているのでしょうか。 内堀:管理の方法は、大きく分けて「取る量・サイズの管理」、「産卵する個体の保護」、「生息環境の保護・改善」の3つです。 「取る量・サイズの管理」とは、魚種ごとに国が取る量を決めて、地域や漁船ごとに取っていい量を割り当てることです。また、魚1尾の価値を高めるため、網目を大きくするといった漁具の工夫をして小さい個体を逃がす取り組みも行われています。 「産卵する個体の保護」は、産卵時期に漁獲を規制するという方法です。例えば、ベニズワイガニではメスを禁漁にしていますし、イセエビは産卵時期の初夏から秋までが禁漁期間とされています 「生息環境の保護・改善」には、魚の隠れ家になる人工魚礁(ぎょしょう)の海底への設置や、稚魚の隠れ家になる藻場(もば)の再生があります。 内堀:海の中は見えないので、魚の数を管理するのはすごく難しいことです。しかし、資源を管理するためには、その資源の量をできる限り正確に把握する必要があり、国や都道府県の研究機関が懸命に調査や研究を行っています。一方で、近年は温暖化によって海の環境が変化しており、以前に増して推測が難しくなっています。 ――日本の「水産資源管理」には、どのような特徴がありますか。 早武さん(以下、敬称略):日本の海は南北に広がっていて、冷たい海から暖かい海まであるため、非常に多くの水産生物が生息しています。 一年を通して、およそ600種もの水産物が市場に流通しており、魚の種類が豊富なだけでなく、同じ魚種でも地域ごとに異なる漁法があります。 そのため、全ての魚種を全国一律の方法で管理することは難しく、管理を行う際は、地域や漁業者ごとの調整が必要になります。 ――日本や世界の漁業において、資源管理が必要になってきた背景を教えてください。 内堀:先ほどお話ししたように、大前提として水産資源は「再生産が可能な資源」です。海洋環境の変動による原因を除けば、人間が取り過ぎなければ減ることはありません。 それでも減少している背景の1つに、世界人口の増加や生活水準の向上、魚食の人気化などが挙げられます。 また、各国で漁獲技術や流通網が発達したことで、より多くの人が魚を効率良く漁獲、保管、流通することが可能になりました。その結果、魚の再生産量を超えて取ることができるようになり、種類によっては減少傾向にあります。なお、資源管理と併せてIUU漁業(※)も世界的に問題となっていますが、日本国内では流通する水産物がIUU由来のものでないことを確認する仕組みを作り対応しているところです。 ※IUU漁業とは「違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, Unregulated)の漁業」のことで、各国の国内法や国際的な操業ルールに従わない漁業活動のこと ――温暖化も影響していますか。 内堀:そうですね、温暖化による海の変化の影響も大きいですね。地球全体の海が暖かくなったことで、今まで取れていた魚が取れなくなった地域や、逆に今まで取れなかった魚が取れる地域が出てきています。 ――ニュースでも「今年はサンマが不漁」「ブリがよく取れる」といった話題が取り上げられていますね。 早武:北海道ではここ10年ぐらいでブリがたくさん取れるようになっていますが、一方でサケは全国的に取れなくなっています。 サケが取れなくなっている理由で、一番大きいのは温暖化だといわれています。好きな水温は決まっているので、温暖化で北に移動してしまうと、今まで獲れていた地域で取れなくなります。また、サケは川で生まれ、海へ移動し、海で数年間成長した後、産卵のために再び川に戻ります。 海水温が上昇したことによって、サケの稚魚が川から海へ下りたタイミングで、従来は寒くてまだ移動してきていなかったサバの群れが待ち構える形となり食べてしまう、という研究結果もあり、これも温暖化に伴う一因だと言われています。 サンマも毎年のように「今年は不漁」といわれます。サンマはもともと秋になると日本沿岸に来ていたのですが、日本沿岸の海水温が上昇したことで、遠く離れたところを泳ぐようになりました。船に積めるサンマの量は決まっていて、漁獲量は行き来に必要な日数も関係します。漁場が離れれば行き来に必要な日数が増えるので、それだけで漁獲量は減ります。 また、岸から離れた海域では、栄養や餌となる生き物が少ないことで、サンマが大きくなりにくい事も研究結果から分かっており、これが漁獲量の減少につながっていると考えられています。漁獲量含めてどのようにしていくべきかを関係者が考えている問題です。 ――種類によっては増えている魚もいるのでしょうか。 内堀:例えばクロマグロです。一時期、減少したのですが、資源量が回復傾向にあります。これも、漁師さんが頑張ってマグロの数を管理しながら上手に取ることを続けてきた結果なんですね。今回のテーマである「水産資源管理」による効果の1つです。