「アウティングは何もかも奪う嵐」作家・李琴峰さん、提訴決意の背景
「この世界には、特定の人たちにしか襲ってこない嵐があります」
芥川賞作家の李琴峰(り・ことみ)さんが5日、自身がトランスジェンダーであることや過去の氏名などの未公表情報を暴露されたとして、村松裕美・甲府市議を相手取り、550万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
弁護団によると、性的指向や性自認、セクシュアリティーを本人の了承なしに暴露する「アウティング」で、公職者を提訴するのは全国で初めてという。
東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見に臨んだ李さんは、報道陣を前に訴えた。
「トランスジェンダーは、たえず性暴力にさらされています。アウティングは、私たちから何もかもを奪う嵐なのです」
<主な内容> ・個人情報が突然ネットに ・台湾で差別を受け来日したが… ・「世界中に嵐が吹き荒れている」
・訴訟の社会的意義は
「ある日突然、さらし上げられた」
李さんによると、2024年に入り、村松市議がSNS(交流サイト)に李さんを名指しして、「身体が男性で手術もしていません」「身体男性の女性でレズビアン」などと投稿しているのに気づいたという。
李さんが警察に相談し、3日後に投稿は削除された。しかし、村松市議は同日、新たに別の人物の投稿を引用する形で、李さんの未成年時の写真や過去の氏名など公表していない個人情報を投稿した――としている。
李さんは24年6月に適応障害と診断を受け、現在も不眠や抑うつ症状に苦しんでいるという。
「被告は、私とは全く面識のない人物です。当然ながら私は恨みを持ったこともないし、恨みを持たれるようなことをしたこともありません。ある日突然、一方的に機微な個人情報をさらし上げられたのです」
一方、村松市議は取材に「なぜ最初の投稿をしたのか説明をするために、根拠とした写真を新たに投稿した。投稿で謝罪し、アウティングのつもりはなかった。訴訟への対応は弁護士と相談する」とコメントした。
台湾で差別を受け来日したが…
李さんは台湾出身で、13年に大学院入学のために来日した。
来日前に性別変更手続きを行い、法的に性別は女性になった。
台湾でいじめやハラスメントにあい、知人のいない日本に逃れたという。
性別変更の過去は公にせず、翻訳や通訳の仕事で生活する傍ら、17年に小説家デビューした。
21年には「彼岸花が咲く島」で芥川賞を受賞。日本語以外を母語とする作家としては2人目となる。
受賞時の会見で「(特定の属性に)カテゴライズされることへの抵抗は、私の作品に通底したテーマ。おそらく核となっている部分だ」と語った。
しかし24年5月の市議による投稿を受け、同11月に小説家50人とともに「LGBTQ+差別に反対する小説家の声明」を発表した。
その際、自身のホームページで李さんは自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトした。また、台湾人を名乗るアカウントが過去の個人情報を拡散したことが、日本人によるアウティングにつながったとみられることも明らかにした。
「本当は提訴したくなかった」
提訴に踏み切った理由を、李さんはこう説明する。
「私が道を歩い…