5Gの通信網を国産化するのは無理?基地局開発や研究で日本が苦戦する理由(スマホライフPLUS)
通信インフラ分野における日本企業の苦戦が、近年ますます鮮明になっています。たとえば京セラは2025年12月、第5世代(5G)移動通信システムの基地局開発を断念すると発表しました。ほかにも富士通がNECと協力し、政府支援を受けて次世代5G中核技術の国産化に取り組んでいますが、世界市場での存在感はあくまで限定的です。 【画像でわかる】日本人のiPhone離れが進む? iPhoneシェア低下の理由とは 5G(第5世代移動通信システム)は、自動運転やIoT、遠隔医療など次世代産業の基盤となる重要インフラです。その要となる「基地局」の開発において、日本企業はなぜこれほどまでに苦戦を強いられているのでしょうか。 結論から言えば、5G通信網の国産化は物理的には「不可能」ではありません。しかし、経済合理性と現実的なシェアを鑑みると、極めて困難な道です。本稿では、なぜ日本企業が基地局開発で苦戦するのか、その構造的な理由を紐解いていきます。
2025年現在の基地局市場は、以下の3社が支配する寡占状態です。これら「ビッグ3」だけで、世界シェアの7割以上を占めているのが現実です。 ・ファーウェイ(Huawei/中国) ・エリクソン(Ericsson/スウェーデン) ・ノキア(Nokia/フィンランド) 日本においては国内ベンダーも健闘しているものの、グローバルな視点で見れば、あまり存在感がないというのが事実です。 そんな日本企業を特に苦しめているのが、知的財産(知財)の壁です。たとえ日本企業が自社でハードウェアを製造したとしても、5Gの通信規格を使用する以上、必須特許を持つ海外企業にライセンス料を支払う必要があるケースが多々あります。 特に中国のファーウェイの存在感は圧倒的です。米中対立による経済制裁で、ファーウェイ製の基地局機器を排除する動きが西側諸国で広がりました。しかし、機器そのものを排除できても、彼らの持つ「技術特許」までは排除できません。 ファーウェイは5Gに関する特許を世界で最も多く保有する企業の一つです。2024年末までに同社の5G関連の特許ライセンスを付与されたデバイスは、27億台以上であるとも言われています。 つまり、たとえ他社の基地局やスマートフォンであっても、5G通信を行う限りファーウェイの特許技術を使わざるを得ず、結果として、多額の特許使用料(ロイヤリティ)がファーウェイに支払われる構造になっています。 ■経済安全保障と「O-RAN」 こうした現状を受け、政府は経済安全保障の観点から通信機器の国産開発、あるいは「特定国に依存しない供給網」の構築を支援する方針を打ち出しています。通信は国の重要なインフラの一つであり、すべてを海外製、特にセキュリティ上の懸念がある国の製品に依存することはリスクが高すぎるからです。 ここで鍵となるのが、複数ベンダーの機器を組み合わせられる「O-RAN」に代表されるオープン化の動きです。 従来の基地局は、特定のベンダー(エリクソンならエリクソン、ファーウェイならファーウェイ)が、アンテナから信号処理装置までを「セット」で提供するのが一般的でした。これでは一度そのメーカーを採用すると、他社製品への乗り換えが難しい「ベンダーロックイン」が発生します。 対してO-RANは、基地局を構成する機器の仕様をオープン(標準化)にし、異なるメーカーの機器を組み合わせて基地局を作れるようにする仕組みです。たとえば、「アンテナは日本メーカーA社、制御装置は米国メーカーB社」といった柔軟な構成が可能になります。 実際にNTTドコモはO-RAN仕様の5Gサービスを世界に先駆けて展開しており、海外通信事業者への展開も視野に入れています。 ■ローカル5Gの可能性