中国「南シナ海」切り崩し、ASEAN各国の批判トーン弱まる…2国間対話で米国排除狙う

 【シンガポール=東慶一郎、作田総輝】シンガポールで開催中のアジア安全保障会議では、東南アジア諸国連合(ASEAN)の出席者から南シナ海の「平和と安定」を求める声が相次ぎ、中国批判のトーンが弱まっている。中国が米国の関与排除を狙って進める係争当事国との2国間対話の効果が出ている模様だ。

 マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は31日の演説で「対立の連鎖を招きたくない」と述べた。マレーシアはボルネオ島沖で中国と領有権を争っているが、南シナ海問題で中国と協調する考えを示したものだ。パラセル(西沙)諸島などの領有権問題を抱えるベトナムのファン・バン・ザン国防相も「平和につながる効果的な行動規範の早急な構築を望む」と控えめな発言に終始した。

中国の国旗

 南シナ海ではフィリピンやインドネシアなども中国と領有権や海洋権益を争っているが、ASEAN加盟国内の対米、対中姿勢には温度差がある。トランプ米政権の関税措置を受け、ASEANと米国の間に吹き始めたすきま風を奇貨として、 習近平(シージンピン) 政権は各国への個別アプローチを強めている。

 今年のASEAN議長国マレーシアには4月に習国家主席が訪れ、5月には 李強(リーチャン) 首相も訪問した。中国の首脳が短期間に同じ国を訪問するのは異例だ。習氏が訪問した際の共同声明には米国を念頭に、南シナ海で「直接関係しない国の介入は逆効果をもたらすとの認識で一致した」との記述が入った。

最近の中国の南シナ海係争国へのアプローチ

 インドネシアとは4月に外務・防衛(2プラス2)閣僚会合を開催した。中国として初の2プラス2閣僚会合で、海上安全保障協力を進めることで合意した。プラボウォ・スビアント大統領は資源開発で対立してきたナトゥナ諸島周辺海域の共同開発を自ら提案し、物議を醸したこともある。インドネシア戦略国際問題研究所のワファ・カリスマ研究員は「中国のような大国との関係を重視しているのは明らかだ。ASEANを問題解決の手段とみなしていない」と指摘する。

 一方で、中国は対中強硬姿勢を崩さないフィリピンには厳しい対応を続ける。中国軍「南部戦区」は31日、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)周辺の海空域で「戦備パトロール」を行った。「管理を強化し、国家の主権を断固として守る」と主張しており、孤立化させたフィリピンを抑え込む狙いとみられる。

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