謎の円形地形”フェアリーサークル”の下には天然水素資源が埋蔵されている

大量に並ぶフェアリーサークル/Credit:Wikimedia Commons

フェアリーサークルは、世界の乾燥地帯で突如として現れる円形の禿げた窪地です。

遠くから見ると、まるで宇宙人のいたずらか、地底から何かが湧き出した痕のようにも見えます。

特にナミビアやオーストラリア、ロシア、ブラジルなどの乾いた草原や砂地でよく見られ、古くから地元の人々の間でも不思議な現象として語り継がれてきました。

衛星画像やドローン写真では、そのパターンが地上絵のようにくっきりと浮かび上がり、科学者たちをも魅了してきました。

しかし、その正体については長い間、はっきりした答えがありませんでした

これまでフェアリーサークルの原因としては、大きく分けて二つの説が有力とされてきました。

一つは「シロアリ説」です。

これは地下に住むシロアリが、地表の植物を食べてしまうことで、円形のハゲ地ができるという説です。

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もう一つは、「植物の自己組織化理論(self-organization)」と呼ばれるものです。

これは、限られた水や栄養分をめぐって植物どうしが競争するなかで、自然と円形の模様ができるという考え方です。

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どちらの説にも根拠はありましたが、どちらか一方だけで世界中のフェアリーサークル現象すべてを説明することはできませんでした。

またフェアリーサークルは、場所によっては直径が数百メートル、深さは数メートルほどになることもあり、この規模のフェアリーサークルの形成については、上記の理論では説明することができません。

そこで今回ウィーン大学の研究チームが注目したのは、「地面の下で何か“何らかのガス”が湧き出しているのではないか?」という説です。

地中深くからガスがゆっくりと湧き上がることで、その圧力が地表の地盤を押し上げたり沈めたりし、円形の凹地が生まれることがあります。実際に、地下のガスや水が動くことで似たような地形ができるケースも知られています。

しかし、この理屈で本当に既存の確認されているようなフェアリーサークルが形成されるかどうかはまだわかりません。そこで研究チームは最新の数値シミュレーション(numerical modeling)技術を使い、地下からガスがゆっくりと上昇した場合に地表がどう変形するかを詳細に計算することにしました。

研究チームは、地層の中に小さなガスの“湧出口”があると仮定し、そこからガスが地表に向かってゆっくりとしみ出していく様子をシミュレーションで再現しました。

シミュレーションの結果、地盤の中はまるで水分を含んだスポンジのような状態になり、ガスと水分(地層中の水)が押し合う「二相流(two-phase flow)」という現象が生じることがわかりました。そしてこのモデルでは、ガスの圧力が十分に高まると地層が局所的に盛り上がったり沈み込んだりし、その影響で地表に円形の凹地(fairy circle depressions)が形成される様子が再現されたのです。

なお、このシミュレーションで再現された円形の凹地は、直径が約120メートルから400メートルという大きなサイズでした。そのためこの形成原理は、既存の理論で説明されてきた数メートル規模のフェアリーサークルの形成方法を否定するわけではありません。

また、この研究ではシミュレーションに「天然水素ガス(水素混合ガス)」が用いられています。

理論上は窒素やメタンなどのガスでも問題はありませんが、研究チームは水素を選択した理由として、水素は地球上で最も軽く、反応性の高い元素であり、再生可能エネルギーとしても期待されているためだと説明しています。

これまで水素は地表の岩石反応や深部の熱水活動によって生成されることが知られてきましたが、実際に地表付近で天然水素が湧き出している事例は世界的にもまだ珍しい状況です。

もしフェアリーサークルの形成に地下に埋蔵された水素の湧出が関わっているとしたら、謎のサークルが単なる地形の不思議にとどまらず、地球が秘める新たな資源探しの重要なヒントになるかもしれません。

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