ロシア野党指導者ナワリヌイ氏の死因はカエルの毒、ロシアが殺害したとイギリスなど欧州5カ国
画像提供, Getty Images
この記事は約 8 分で読めます
2024年2月にロシアの刑務所で急死した野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(当時47)について、イギリス、スウェーデン、フランス、ドイツ、オランダの各国政府は14日、ヤドクガエルに含まれる毒素から作った毒で殺害されたとの見方を発表した。遺体から採取した検体で確認したという。各国は、ロシア政府がナワリヌイ氏を殺害したと非難した。これに対し、ロシア政府は欧州5カ国の発表を「情報戦」の一部と一蹴している。
欧州5カ国の発表に合わせて、イギリスのイヴェット・クーパー外相はミュンヘンで開かれている安全保障会議の場で、北極圏の刑務所に収監されていたナワリヌイ氏に対して毒を使用する「手段と動機と機会」を持っていたのは「ロシア政府だけ」だと言明した。
クーパー外相は、「エピバチジン」と呼ばれるこの毒がナワリヌイ氏の遺体から検出されたことについて、ほかに説明はないと述べた。
外相は、「ロシアはナワリヌイ氏を脅威と見なしていた」、「この種類の毒を使用することでロシア国家は、自分たちの手元にどのような卑劣な手段があるのかを示し、反体制勢力を自分たちがいかに恐れているのかを明らかにした」とも述べた。
クーパー氏はこれに先立ちミュンヘンで、ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏と会談している。
欧州5カ国は声明で、「シベリアにあるロシアの流刑地で服役していたナワリヌイ氏を標的にするため、この猛毒を使用する手段、動機、機会を持っていたのはロシア国家だけだった。我々は、ナワリヌイ氏を死なせた責任は、ロシアにあるとする」と述べた。
「エピバチジンは、南米の野生に生息するヤドクガエルの体内に自然に存在する。飼育下のヤドクガエルはこの毒を生成しないし、ロシアには自然に存在しない」、「ナワリヌイ氏の体内にこの物質が存在したことについて、罪のない説明などあり得ない」とも、5カ国は主張した。
イギリス外務省は、ロシアが化学兵器禁止条約に違反した疑いについて、化学兵器禁止機関(OPCW)に通知したと明らかにした。
イギリスのキア・スターマー首相は同日、ナワリヌイ氏の「大きな勇気」を称賛し、「真実を明らかにしようとする彼の決意は、永続的な功績として残っている」と述べた。
「ロシアの脅威と(ウラジーミル・)プーチン(大統領)の殺意から、この国の国民と価値観と生活様式を守るため、私は全力を尽くしている」とも、首相は述べた。
フランスのジャン=ノエル・バロ外相も、フランスはナワリヌイ氏に「敬意を表する」と述べ、ナワリヌイ氏が「自由で民主的なロシアのための闘い、そのせいで殺害された」との見方を示した。
ロシア国営タス通信によると、ロシア大統領府のマリア・ザハロワ報道官は、「すべての主張や声明は、西側の差し迫った問題から注意をそらすための情報戦の一環だ」と述べた。
「きわめて珍しい」毒素
欧州諸国がナワリヌイ氏の殺害に使われたと発表した毒物エピバチジンは、もともと南米北部に生息する一群のヤドクガエルから抽出されたもの。
エピバチジンはかつて、鎮痛剤や肺の痛みを伴う炎症性疾患の緩和を目的に研究されたことがあるが、毒性が強すぎるため、臨床使用には適さないと判断されている。
毒物学者ジル・ジョンソン氏はBBCロシア語に対し、「モルヒネの200倍の強さがある」毒だと説明した。
中枢神経系の受容体に作用することで、「筋肉のけいれんとまひ、発作、心拍低下、呼吸不全、最終的には死」を引き起こす可能性があるという。
エピバチジンは、野生に生息する特定の1種類のカエルにだけ、ごく微量に存在し、しかもそのカエルが特定のえさを食べた場合にのみ確認されると、ジョンソン氏は説明した。
ヤドクガエルがえさを通じて体内にエピバチジンを生成するという説は、生息地によって体内の毒素量が異なることや、飼育下のヤドクガエルには全く含まれていないことが根拠だという。
ジョンソン氏は、「人を毒殺する方法としては、(エピバチジンは)とてつもなく珍しい」手段だと話した。
「適切な場所に生息し、適切なアルカロイドを生成する特定のえさを食べている野生のカエルを見つけるのは、ほとんど不可能だ」とも、ジョンソン氏は述べた。
妻ユリアさんは毒殺だと主張し続けた
画像提供, ドイツ外務省 / ゲッテイ
欧州5カ国の今回の発表の前も、ナワリヌイ氏の妻ユリア・ナワルナヤ氏は、夫は2024年に北極圏の流刑地で服役中に毒殺されたのだと一貫して主張していた。
ナワルナヤ氏は昨年9月、ひそかに提供された検体を2カ国の研究所が分析した結果、夫が「殺害された」ことが明らかになったと述べていた。
ナワルナヤ氏自身は、使用された毒、サンプル、分析についての詳細は示さず、代わりに二つの研究所に結果の公開を求めた。
今回の発表を受けナワルナヤ氏は、「夫は毒殺されたのだと、私は初日から確信していた。しかし今、その証拠がある」と述べた。
さらに、「この2年間にわたり緻密な作業を重ねて真実を明らかにしてくれた、欧州諸国に感謝している」とも述べた。
ロシアでは、プーチン大統領に批判的な政治やマスコミ関係者のほとんどは国内に残っていない。
ナワリヌイ氏は、2021年1月に帰国。モスクワ郊外のシェレメチェヴォ空港の入管窓口で警察に拘束された。その後、 宣誓釈放違反や詐欺、法廷侮辱など、政治的動機によるとされるさまざまな罪状に問われて有罪とされ、禁錮9年を言い渡された。拘束は、3年1カ月にわたり続いた。
ナワリヌイ氏はかねて選挙でプーチン氏を倒そうとし続けたものの、2018年の大統領選では出馬を禁止された。
プーチン大統領は、ナワリヌイ氏の生前はその名を口にすることを意図的に避けていたが、死去の1カ月後、「人の死は常に悲しい出来事だ」と短く触れた。
ロシア側の説明によると、47歳だったナワリヌイ氏はシベリアの刑務所で短い散歩をした後、体調不良を訴えて倒れ、そのまま意識を回復しなかったのだという。