12兆円超のエネルギー巨額補助金 検証報道がないままだと次の無駄遣いの呼び水に 新聞に喝! 経済ジャーナリスト・石井孝明
石破茂首相は4月22日、物価高対策としてガソリン価格の10円値下げ、また7~9月の電気・ガス料金の引き下げを表明した。いずれも補助金によるが、累計は12・5兆円の巨額になる。その深掘り報道が足りない。
電気・ガス料金の補助は今年3月まで止めては2回復活し、今回が3回目だ。ガソリンの補助(灯油、軽油も含む)は令和4年1月に開始され、一時的措置のはずが継続されている。東京電力福島第1原発事故の後で、電力とエネルギーの自由化が政治主導で進み、エネルギー価格は市場の働きに任せることになったはずだ。また脱炭素は国策としてエネルギーと化石燃料の使用抑制を国民に求めてきたのに、その使用が値下げで促される。一連の補助金は過去の政策と矛盾する。
いつもは政府批判に熱心な朝日新聞だが、この問題では歯切れが悪い。社説「経済対策の迷走 必要性の見極め怠るな」(4月19日)では、この巨額補助金を「理由と財源を明確に説明する責任がある」と一文だけ言及したが、解説記事は内容が薄い。
読売新聞は、ガソリン税引き下げなどに踏み込まないための補助金に動く政権の思惑を分析した特集記事「党首討論 『国難』関税 野党攻めづらく」(4月24日)を掲載した。同紙の政局取材は深いが、政治家の取材だけで問題を捉える傾向がある。
日本経済新聞はこれらの補助金を一貫して批判する。「やめられないガソリン補助金 資源エネルギー庁幹部の嘆き」(電子版、5月11日)では、政治に振り回される官僚の声を取り上げた。
しかし、どの記事を読んでも問題の全体像を把握できない。この補助金によってエネルギー事業者は価格の引き下げ努力をしない。それどころか「大きな声では言えないがエネルギー業界全体で大もうけ」(石油会社幹部)という。確かに決算はどの社も絶好調だ。私でも簡単にたどれる事業者や消費者の情報に、新聞はほとんど触れない。
日本の新聞・メディアの報道の弱点だが、複眼的に社会問題を捉える記事が少ない。取材と報道が縦割りなのだ。ある現象がなぜ起きて、政治、経済、社会でどのような広がりがあるのか。そこから読者は、未来予想や自分の行動に報道を役立てようとするが、必要な情報が足りない。その繰り返しなのだ。
この12・5兆円の巨額補助金も、その効果、実行の責任が報道されずに、あいまいになったままでいいのか。新聞の検証力不足が、政府による次の無駄遣いの〝呼び水〟になりかねない。
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石井孝明
いしい・たかあき 昭和46年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒、時事通信記者などを経てフリーに。経済・環境情報サイト「with ENERGY」を主宰。著書に『埼玉クルド人問題』など。