盆栽の世界市場1兆円超、日本各地で盗難発生-販売店の対策急務

群馬県の盆栽店「福樹園」で昨年10月、350万円相当の盆栽が盗まれる事件が起きた。丹精込めて育てた盆栽を失い、同店の馬場守一さんは怒りを感じるのと同時に、深い悲しみにくれた。

  「自分を責めてしまうような気持ちだった」と馬場さん。20年もかけ育ててきたものを含め、15程度の盆栽が盗まれたという。「なぜ夜中、目が覚めなかったのだろう」と悔やむ。

  被害に遭ったのは、馬場さんだけではない。日本盆栽協同組合によると、昨年の盗難件数は約30件に上る。犯罪関連のデータを集めるのは容易ではないが、組合によれば、この手の事件は増加傾向にあり、列島各地で発生している。

  熊本県では2024年に1880万円相当の盆栽が盗まれた事件があり、ベトナム人2人が逮捕・起訴された。

  日本食や日本文化と同様、盆栽は世界で人気が高まりつつある。世界の盆栽市場は昨年、84億2000万ドル(約1兆2400億円)規模に膨らんだ。33年までに220億ドル近い市場規模になると見込まれている

  「盆栽は海外の人にも認めてもらえるようになってきたが、盗難も増えてきた」と馬場さんは話す。

  盆栽は1000年を超える歴史を持つアートだ。数千円程度の手頃な価格のものもあるが、高価なものが多く、11年には1億円での販売も話題となった。

  ウェブサイト「ボンサイナット」には日々大量のメッセージが投稿される空間があり、皆が盆栽について語り、情報交換をしている。

  「アメリカン・ボンサイ・ソサエティー」の会長、カレン・ハーカウェイさんは、盆栽を普通の観葉植物と捉える人もいれば、芸術作品と考える人もいると話す。

  ハーカウェイさんは約20年にわたり盆栽を育てており、1億円の盆栽を11年に実際目にした。

  「盆栽は人によって(捉え方が)異なるものだ。ただ小さな木の鉢植えを買って楽しみたい人は大勢いる。一方で、クリエイティビティーや独自に追求するスタイルを持つ真のアーティストもいる」と指摘する。

  会長を務める協会の会員数は、過去10年で約40%増えた。特に若い世代でインターネットを通じて盆栽について学ぶ人が増えているという。

  ハーカウェイさんによると、米国でも盆栽を盗まれた人はいる。転売目的の盗難だったという。

  需要の高まりに伴い、盆栽の輸出は拡大。財務省によれば24年、約9億600万円相当の盆栽が海外で販売された。19年比で倍近くに増えたことになる。

  愛知県では23年末以降、未遂も含め、盆栽の盗難が少なくとも20件発生している。「SNSを通じて知り合った共犯者に頼まれ、その者からの報酬を目的として犯行に及んだとみられる」と警察の担当者は説明している。

  日本盆栽協同組合は盆栽店に防犯システムを導入し、地元警察と協力し対策を講じるよう呼びかけている。

  もっとも馬場さんは、カメラを設置しても事件を防げなかった。盆栽は通常、屋外で栽培され鉢を使う。地面に根を張る植物に比べ持ち運びが容易で、盗難に遭いやすい。

  愛知県警は、盆栽の場所、不在予定の詳細についてオンライン上に掲載しないよう所有者に注意を促した。窃盗犯が事前に下見することもあり、見慣れない人物について地域で情報を共有するよう呼びかけている。

  植物に衛星利用測位システム(GPS)機能を持つタグを付けることも、盗難後に植物の場所を特定する上で有用だとしている。

  馬場さんは事件後に塀を高くしてセキュリティーシステムを入れ、カメラを増設するなど対策を強化した。「盆栽が認められるようになってきたのはありがたい。盗難が減ってくれれば良いと思う」と話している。

原題:Bonsai Thefts Sweep Japan as Miniature Trees Grow More Popular(抜粋)

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