株主優待を新設する企業が急増。新規導入の傾向と廃止の真意
ここ最近、株主優待を新規に導入する企業が急増しています。導入企業数は2025年3月末に1,580社(野村インベスター・リレーションズ調べ)と、過去最高を更新しました。現在も新設が続いており、8月には確認できただけでも22社に及びます。9月に入ってからも、すでに4社が新設しています。
株主優待は「株主平等原則」の観点から好ましくないとして、機関投資家からの批判が強く、2019年をピークに減少傾向にありました。しかし、2024年から再び増勢を強めています。この背景として次のようなものが考えられます。
1)東京証券取引所が推進する「資本コストや株価を意識した経営の実現」によって、株価対策が求められている
2)東証グロース市場において、上場維持基準が5年後の時価総額100億円(上場してから5年後)に引き上げられた
3)東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現」施策を受けて、アクティビストの活動が積極化。また、同意なき買収や合併(M&A)に対して証券会社や銀行がアドバイザーに付くなど環境が変わってきている。そのため、買収防衛策の一つとして個人投資家層を広げることが有望視されている
4)デジタルギフトの普及により、株主優待導入時に発生する手間やコストが大きく低減されつつある
5)優待の獲得だけを目的とし、権利確定日の前後だけを保有する短期株主を避けるために、一定期間にわたり株主番号が同一であることを基準とした長期株主を対象とする(あるいは優遇する)優待の導入が普及している
6)2024年1月より新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートして、NISA口座開設数および口座資産が急増。これを契機とした個人投資家層の取り込みを図るための企業の対応策
直近の新規導入企業から探る傾向と導入可能性の予想
ここからは、直近(8月頭から9月9日まで)に株主優待の新規導入を発表した企業を参考に、具体的に見ていきます。
同期間で、新規優待制度開始のプレスリリースを出したのは26社になります。(これらの企業以外にも株主優待の拡充・変更などを発表した企業もあるがここでは割愛)
26社を市場別に分けると、プライム市場が6社、スタンダード市場が13社、グロース市場が7社となっています。スタンダード市場が13社と最も多いですが、この13社間には時価総額、自己資本利益率(ROE)、株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)などの指標から見ても共通する傾向は特に見られませんでした。
優待内容で分けると、QUOカードが10社、デジタルギフトが6社、カタログギフト・優待倶楽部・商品券が4社、自社製品・サービスが6社でした。やはり、QUOカード、デジタルギフトのような手間がかからないもので、投資家にとって便益が分かりやすい優待が好まれるようです。
自社製品・サービスを優待にした企業に注目してみると、6社の内、発表後に株価が大きく上がった企業は2社(第一屋製パン、くふうカンパニーホールディングス)、やや上がった会社が1社、ほとんど上がらなかった会社が2社でした。
なお、私は株主優待の専門家ではないので、優待のお得感や内容の魅力度合いに関しては全く考慮していません。
新規に株主優待を導入した企業(8月頭~9月9日)
次に、26社の優待導入発表後の株価の動きを見ていきます。株価チャートの動きを見る限りでは、次のように分けられます。大きく値上がりした企業は13社(そのうち3社は5割超の上昇)、そこそこ値上がりした企業は6社でした。これは、株主優待導入が株価にインパクトを与える可能性が高いことを示しています。
ほか、ほぼ横ばいの企業は5社、瞬間的に上昇したが発表前の水準に戻った企業は2社で、下落した企業はありませんでした。
発表前の株価水準においては、時価総額が200億円以下は18社、500億円以上の企業は3社のみでした。また、PBRが1倍未満の企業は11社でした。PERに関しては広く分布しており、目立った特徴はありませんでした。
象徴的な事柄としては、長期保有株主に限定または優遇する企業が多い点が挙げられます。26社中12社がそうした制度を設けおり、株主優待制度の拡充を図る企業も長期投資家を優遇する傾向が強そうです。
まとめると、株主優待を新規導入する企業は、時価総額が比較的小粒で、バリュエーション(PBR1倍未満)での評価が低い企業が多い傾向にあると言えるでしょう。ただし、どの企業が株主優待を新規導入するかを予想するのは困難です。
それでも、あえて挙げるとするならば、以下の3点が考えられます。
- 現時点でまだ優待制度を導入していない企業であること
- 機関投資家や外国人の持ち株比率が低く、株主からの反対意見が出にくい企業
- オーナーなど大株主の持分が5割を下回り、安定的な(個人)株主を増やすことにインセンティブがある企業
株主優待廃止の一番の理由はTOB(MBO)
株主優待を開始する企業が増加している一方で、優待を廃止する企業も増えています。今度は株主優待廃止企業について見ていきます。
2025年4月~9月9日までに株主優待の廃止を発表した企業は29社ありました。そのうちの16社は株式公開買付け(TOBまたはMBO)に伴うものであり、これらは除外して考えます。
残りの13社の内10社が「公平な利益還元」「株主の平等性確保」を理由に優待を廃止しました。そうした企業では「配当への還元一本化」「配当性向の引き上げ」「総還元性向を基準」「株主資本配当率(DOE)の採用」など、株主還元を強化する方針を示しています(エアトリは未定としている)。
優待廃止直後の株価の反応を見てみると、上昇3社、下落5社、横ばい圏2社という内訳でした。時価総額規模を見ると、上昇3社はいずれも500億円以上でしたが、下降5社は1社(オイシックス・ラ・大地)を除いて時価総額は300億円未満でした。
時価総額規模が大きい会社は、機関投資家からポジティブに評価されやすい傾向がありそうです。一方で、時価総額規模の小さな会社は個人投資家の失望の影響を強く受けるのかもしれません。ちなみに、オイシックス・ラ・大地(時価総額650億円)は、ユーザー層の個人投資家が多く存在すると推察されます(クラフトバターケーキなど特産品を楽しみにしていたのであろう)。
「公平な利益還元」「株主の平等性確保」を掲げて優待を廃止する企業は、同時に増配などを発表しており、その内容によってはむしろポジティブな反応が期待できます。一時的に下落しても、その後株価は持ち直す傾向にも見えます。
では、「TOB」でも「株主の平等」でもない残りの3社の優待廃止理由は、端的に言えば業績悪化です。これらの企業の株価は当然ながら下落していますが、優待廃止が引金というよりは、廃止に至る過程にありそうです。
株主優待は配当と異なり、取締役会の決議で新設も廃止も可能です。急に取りやめたとしても、法的な罰則ルールはありません。それだけに、ごく一部の会社の行動によって「廃止」はネガティブなイメージでとらわれがちですが、必ずしもそうとは限りません。
むしろ、冒頭で説明した「資本コストや株価を意識した経営の実現」を企業が熟慮することで、優待廃止を選択するケースが今後は増えてくるように思われます。
株主優待廃止企業とその理由(2025年4月~9月9日)
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