心の健康診断「ストレスチェック」を令和10年から全企業に義務付け 問われる実効性
従業員のストレス状態を調べ、必要に応じて医師との面談を促す「ストレスチェック」制度が、令和10年5月までにすべての企業で義務付けられる見通しとなった。これまでは従業員50人以上の事業所に限定していたが、対象を拡大する改正労働安全衛生法が昨年5月に成立した。ただ、制度導入後の10年で精神障害の労災支給の決定件数は2倍超に増加。分析方法を巡る課題も浮上しており、有用性を疑問視する声もある。
小規模事業所で低調
ストレスチェックは従来、産業医設置義務がない従業員50人未満の小規模事業所については「努力義務」とされてきた。
厚生労働省の実態調査によると、実施している事業所の割合は50人以上では8~9割で推移しているが、50人未満では約3割。厚労省が策定した第14次労働災害防止計画では、小規模事業所でも令和9年までに50%以上とするが、達成のハードルは高い。
特に問題視されているのが、小規模事業所でのメンタルヘルス対策自体の低調ぶりだ。対策に取り組む事業所自体は増加傾向にあるものの、6年の実態調査では50人以上の事業所が94・3%なのに対し、30~49人で69・1%、10~29人で55・3%で、小規模事業所ほど少なかった。
厚労省はストレスチェックを全事業所に義務付けることによって、メンタルヘルス対策の底上げを図りたい考えで、2月25日にはホームページに小規模事業所向けの実施マニュアルも掲載。「十分な準備期間を設ける」とし、施行は同法公布後の3年以内とした。
増える精神障害
そもそもストレスチェックは従業員が心身の状況に気づく機会とし、会社側の職場環境の把握と改善につなげる目的で導入された。
ただ、導入されてから10年以上。ストレスチェックだけでは制度の本来の目的であるメンタルヘルス不調を未然に防げていないのが現状だ。
仕事が原因で精神的な障害がある労働者は増えている。6年度の労災支給は1055件と、制度が導入された平成27年度の472件に比べ倍以上にまでなっていた。
厚労省関係者によると、今回の制度改正に向け、メンタルヘルス対策を検討する厚労省の作業部会では制度の有用性を高めるため「努力義務としている集団分析を義務化するべきだ」との意見もあった。
集団分析も5割にとどまる
「集団分析」は、ストレスチェックを行った医師などが、個人の結果を部署など一定の規模の集団ごとに集計し、分析。会社側が分析結果をもとに、必要に応じて従業員の負担を軽減できるよう職場環境の改善を図るものだ。
しかし、集団分析の実施状況は、50人以上の事業所でも約5割にとどまっており、今回も履行水準の判断が困難として見送られた。厚労省によると、集団分析をしなかった理由について、必要性を感じなかった▽時間的余裕がなかった▽マンパワーや費用を確保できなかった―と答えた事業所が多かったという。
厚労省の担当者は「ストレスチェックは集団分析から環境改善までを含めた一体的な制度。現状では義務化は時期尚早と判断したが、実施が進むよう実際に導入した事業所の取り組みを周知するなど働きかけていく」と説明する。
今回の法改正では集団分析の義務化や、新たなメンタルヘルス対策を検討するよう求める付帯決議が付けられた。国は来年度以降、これまでのメンタルヘルス対策の効果を検証し、議論を進める方針だ。(藤井沙織)
近畿大の三柴丈典教授「効果的手立て検討を」
近畿大の三柴丈典教授(産業保健法)働く人の健康の確保(産業保健)を小規模事業所まで行き渡らせるというのは、厚生労働省の悲願。メンタルヘルス不調の未然防止の重要性は事業所の規模を問わず、企業や労働者がストレスチェックを通して産業保健の専門職とつながることにもなり、制度が拡大すること自体はよい。
だがストレスチェックの効果は、個々の労働者がメンタルヘルスを気にかけるようになったなどの主観的なものが多く、適応障害や鬱病などのメンタル不調者が減ったといったデータはない。取り組みが進みながらも精神障害による労災が増えている以上、国は対象を広げるだけでなく、新たに効果的な手立てを検討しなければならない。
そもそも、働き方改革で労働時間が短くなったにもかわらず精神障害の労災が増えているということは、仕事によるストレスは業務量や労働時間という量的な問題ではなく、質的な問題ということだ。
重要なのは、本人と「仕事」「人」との相性合わせ。その仕事が好きか職場の人が好き、またはその両方ならばメンタルは安定しやすい。相性合わせは、各企業が業務管理や人事異動によって行うものであり、国ができるのはそのサポートなのではないか。
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ストレスチェック 労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的に平成27年12月に導入。業務量や周囲のサポート状況、健康状態についての質問票を全従業員に配布し、ストレスの状態を数値化する。高い場合は医師による面接指導が勧められ、医師が必要だと判断すれば、会社は労働時間の短縮や配置転換などの措置をとることが求められる。