「母国の受験戦争が辛くて」「日本語ができなくても心配は少ない」 すでに全校生徒の半数を占める…千葉の過疎地域にある、学費年200万円の私立高に“中国人留学生”が殺到するワケ
日本の地方教育機関において、中国人留学生の受け入れが経営や地域維持の重要な手段となっている。千葉県の鴨川令徳高校では、全校生徒の約半数を中国人留学生が占め、高額な学費収入によって学校経営を維持。北海道の東川日本語学校では、公費で学費などを補助することで留学生を呼び込み、地域の労働力不足を補っている。また、スポーツ強豪校である山梨学院高校でも、中国人スタッフによる募集を強化し、留学生の最大勢力は中国人となった。本記事では、日本経済新聞取材班『ニッポン華僑100万人時代 新中国勢力の台頭で激変する社会』(KADOKAWA)より、少子化に直面する日本の学校側と、日本での定住を目的とする中国側、双方の利害が一致している現状を明らかにしていく。※登場する取材協力者の肩書や年齢は取材当時のものです。 「日本」「中国」「韓国」の合計特殊出生率の推移…1990年〜2020年
東京駅から特急列車で約2時間、千葉県鴨川市。房総半島をJR外房線で南下しながら、記者はある高校を目指し、安房[あわ]鴨川駅に向かっていた。小さな駅に着くと、もう人影はまばら。そこから徒歩でさらに10分ほど歩くと、太平洋を望む豊かな自然の中に、その高校は見えてくる。 私立・鴨川令徳高校―。昼頃に着き、学校1階の玄関ホールに入ると、すぐに聞こえてきたのは、聞き慣れない中国語の声だった。女子生徒らはそのホールの中、思い思いの場所で昼食を取りながら、友人との談笑を楽しんでいた。 同校の生徒数は104人(2024年4月時点)。そのうち半数の約50人は、中国人留学生が占めているという。千葉県にある地方の高校で、こんなに多くの中国人高校生が在籍するというのは、とても想像が付くものではなかった。
経緯を聞くと、地域の過疎化から日本人生徒の入学が激減し、2012年に学校が経営危機に陥ったのをきっかけに急遽、再建計画が立てられた。その柱の一つが、中国などからの大量の留学生の受け入れだったという。 和田公人校長が、これまでの学校再建の経緯を説明する。 「どうすれば生徒が増えるのか、再生プランを必死で考えました。過疎地域ですから、そもそも入学者を増やすのは大変で、実行には時間がかかります。そこで考えたのは、生徒の3分の1は地元から、もう3分の1は学生寮を活用して、全国から集める。そして、残りの3分の1を外国人留学生で補い、経営を安定させる計画を立てたのです」 この計画は、驚くほど見事に奏功した。留学生の学費は年間約200万円と高額に設定したが、中国で募集をかけると、思いもかけず入学希望者が殺到した。再建プランの初年度となった2013年こそ中国人留学生は数人だったが、コロナ禍が明けると希望者は急増し、最近では約30人が入学する年もあるという。 「これまでの希望者は、中国人家庭の富裕層のご子息が多かったのですが、最近は中間層の家庭のお子様が来ています。当校は中国人のスタッフもおります。受け入れ実績も長いし、安心感もあるため『鴨川令徳高校なら大丈夫だ』と、その業界では口コミで広がっているのではないでしょうか」と、和田校長は話す。 当の中国人留学生たちは、どんな思いでいるのか。日本の地方の高校にまで、なぜはるばるやって来るのか。教室の中に入り、生徒に事情を聞いてみた。
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2年生のある中国人女子留学生は、「中国の全国統一大学入試(=高考)における競争が本当に過酷で辛く、私は中国で大学受験だけはしたくなかった」と、日本行きを決めた理由を語った。 もともと日本の音楽やアニメが好き。3年前から独学で始めた日本語の影響もあり、自由な校風にもひかれて2023年4月、同高への入学を果たしたという。 「暮らしてみて思いますが、やはり私には中国よりも、日本の方が性に合っています。配慮や思いやりがあるところが、私は好きです。(私のように大人しくて)自分の気持ちを中々、外に向かって言えない人にも、配慮がある『生きやすい社会』になっているなあと、日本で実感します」と、彼女は話した。 両親と弟も既に中国を離れ、オーストラリアに移住したという。そして彼女もまた中国に戻る意思はないようだ。「この先は日本の大学に進み、日本で就職したいです」と言い、このまま日本移住を視野に入れる。 次に教室の中で出会ったのが、同じ2年生の男子留学生だった。中国・河北省出身。日本に留学した理由は、日本の大学を目指しているからと言い、「やはり中国は競争が激しく、希望の大学には中々入れません。日本の入試はそれほど過酷ではなく、しかも日本の大学は中国の大学よりも本当に自由。自分の思いや考えを、自由に言うことができるから」と話した。 さらに同校には、中国人の先生が常駐し、「日本語の心配をあまりしなくて良かった」というのも、選んだ理由の一つだったという。 「日本の生活は毎日が新鮮で楽しいです。大学では法律を勉強して、日本で就職し、ずっと日本で暮らしたいと思っています。落ち着いたら、中国にいる両親も日本に呼び寄せたいとも考えています」と、彼は語った。 “無条件”で受け入れるところも…学生集めに骨を折る日本の大学 和田校長はこう明かす。 「うちの中国人留学生のほぼ全員が日本の大学に進み、そのまま日本で就職することを前提に来ています。日本の大学は今、どこも学生を集めるのに非常に苦労をしているので、無条件に、我々のような高校から中国人留学生を受け入れてくれる大学すらあるのです。それを、うちの中国人留学生もよく分かっています」 日本の現実は想像を超えるところにまで達しているようだ。