9月からの道交法改正で激変…生活道路の「30キロ規制」で注目が集まる移動式オービスの恐るべき性能
「自転車なら見逃してもらえる時代は終わった」――。来る4月1日の改正道路交通法(道交法)施行により、自転車の「青切符」制度が始まることは連日の報道で周知の事実となった。しかし、ドライバーが警戒すべきは、少し遅れて9月1日から施行される「生活道路の法定速度引き下げ」である。
これまでは「標識がなければ時速60キロ」が一般道の法定速度だった。だが、施行後はセンターラインなどがない、いわゆる「生活道路」では、たとえ標識がなくても一律「時速30キロ」制限となる。そして、この新たな規制とセットで懸念されているのが、生活道路での取り締まりで猛威を振るう「移動式オービス」の存在だ。
検挙率が6倍以上に
今回の法改正でポイントとなるのは、速度指定の標識のない道路の扱いだ。警察庁の資料によれば、引き続き法定速度60キロが維持されるのは、センターラインや車線を区切る白線、中央分離帯のある道路に限られる。
慣れ親しんだ住宅街の抜け道や、旅行先で通るのどかな農道。「標識がないから」とアクセルを踏めば、即座に30キロオーバー等の重い違反(赤切符相当)になる可能性が出てくるのだ。こうした規制強化の背景には、生活道路での交通事故リスクを減らしたいという警察庁の強い意図がある。この“30キロ規制厳格化”と合わせて注目されるのが、神出鬼没の「移動式オービス」だ。移動式オービスとは、自動で速度違反を測定・撮影し、証拠を記録する可搬型の取締装置で、警察が設置場所を変えて運用できる。従来の「ネズミ捕り」のように警察官がその場で測定して停止させる方式とは異なり、違反車両は自動的に撮影され、後日処理される。
「そもそも移動式オービスは、通学路や生活道路での運用を目的とした小型の装置です。従来の『ネズミ捕り』は、違反切符を切るためのスペース(サイン会場)が必要で、住宅街の道などでは実施が難しかったのです。しかし、移動式オービスなら畳2畳分ほどのスペースがあれば設置可能です」
こう話すのは、オービス(速度違反自動取締装置)の設置情報共有サイト『オービスガイド』を運営する大須賀克巳氏だ。移動式オービスは、三脚の上に計測器とカメラが載ったシンプルな構造で高さは1メートル少々。人が持ち運べるサイズで、道路脇にわずか1メートルほどの幅があれば設置できる。従来の取り締まりのように警察官が旗を持って飛び出し、その場で車を停止させる必要はない。通過する違反車両のナンバーと運転手の顔を自動撮影し、後日、警察署へ呼び出す方式をとるため、車を停める場所がない狭い生活道路でも運用が可能になったのだ。この移動式オービスが、今回の法改正を受けて運用強化されるのではないかという見方がある。
「取り締まるかどうかを決めるのは警察なので断定はできませんが、今まで以上に厳しくチェックされる可能性はあるでしょう」(大須賀氏)
移動式オービスの威力はすさまじい。読売新聞の報道によれば、千葉県警が移動式オービスを本格的に運用し始めた’21年、わずか3台体制ながら、1月から4月までの検挙数が前年同期比で約6.6倍の1440件に急増したという。
気づいた時にはもう手遅れ
高速道路や幹線道路でよく見かける固定式オービスは、一般的に大幅な速度超過で作動すると言われてきた。しかし、移動式オービスは取り締まりの設定速度を任意に変更できるため、生活道路では事情が異なる。
「生活道路の制限速度は30キロになります。従来の感覚で走っていると危険かもしれません。30キロ規制の道路を時速50キロで走れば、20キロオーバーです。これくらいの速度を出してしまうと、たぶん撮影されてしまうでしょう」(同前)
では、具体的にどのような時間帯や場所に設置されるのか。大須賀氏によれば、最も警戒すべきはやはり「朝夕の通学時間帯」だという。
「生活道路での運用は、日中、特に登下校の時間がメインです。学校周辺はPTAや町内会から『車が飛ばして危ないから取り締まってほしい』という要望が警察に多く寄せられます。そうした声を受けて重点的に設置されるケースが多いのです」
また、盲点を突く取り締まりもあるという。
「私が頻繁に調査している千葉県の例ですが、夜間の真っ暗な細い生活道路でも移動式オービスによる取り締まりが行われています。千葉では幹線道路よりも、生活道路などの細い道での運用がメインになっているのです。
夜だと移動式オービスは見えにくい。しかも住宅街だと障害物が多いので、最新の速度違反探知機を使っても反応が遅れ、気づいた時には手遅れです。言うまでもなく、学校周辺や生活道路ではオービスがあろうとなかろうと徐行運転が大原則です。その上で、今まで以上にスピードに気を配らなければなりません」(同前)
一方で、実際に検挙するだけでなく、「見せる取り締まり」も行われている。通学路などに看板を目立つように置き、あえてドライバーに気づかせる運用も実施している。大須氏は、「本物の機械だけでなく、『ダミー』が導入されるケースもある」と明かす。
「警察署が独自に、ブリキ缶や材木などでオービスそっくりの『ダミーオービス』を自作して設置することさえあるのです。そもそも移動式オービスは非常に高価で、各県警が保有できる台数には限りがあります。しかし、『ここにオービスがあるぞ』と認識させて速度を落とさせる『見せる取り締まり』が目的ならば、必ずしも本物を投入する必要はないわけです。事故を未然に防ぐためなら手段を選ばない、警察の執念を感じます」
9月以降、生活道路は一律で「30キロ規制」となる。標識による指定がない限り、これまでのように60キロの速度を出せば切符を切られてしまうのである。「知らなかった」では済まされない。高性能な機械やダミーが、あなたの生活圏のすぐそばで待ち構えているかもしれない。生活道路では、これまで以上に慎重な運転が求められることになるだろう。