「逆走チャリ」「信号無視チャリ」の一掃まであと1年半…危険自転車の罰則強化が"序章"にすぎないワケ 反則金をバンバン払わす「行政処分」が始まる
道路交通法の改正により、11月1日から自転車の「ながら運転」と「酒気帯び運転」の罰則が強化・新設された。自転車評論家の疋田智さんは「現状は起訴まで持ち込みにくい赤切符での取り締まりだが、2026年5月までには青切符での取り締まりが導入される」という――。
筆者撮影
スマホ片手に逆走しようとしているウーバー配達員の自転車
11月1日から「自転車の危険運転について罰則が強化される!」「スマホながら運転で6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金だ!」なんてことを聞いたことがある人は多いと思う。
① ながらスマホ運転 ⇒6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金
さらに、交通事故を起こすなど交通の危険を生じさせた場合 ⇒1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
② 酒気帯び運転 ⇒3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 ※自転車の飲酒運転をするおそれがある人に酒類を提供したり、自転車を提供したりすること(酒気帯び運転のほう助)も罰則対象テレビのニュースやワイドショーが一斉に報じ、新聞も特集を組み、これからは自転車に乗ってて不埒なヤカラはすぐに逮捕されるぞ、みたいなトーンがマスメディアにあふれた。
関テレが大阪・梅田で独自調査をしたところ、3時間で確認された自転車の違反件数は合計で61件、反則金の合計は、32万9000円となったという報道もあった。
開始から2週間、もう喉元過ぎた?
でも、「危険自転車が一掃される」というのは案外、事実じゃない。
だって、目の前でそんな取り締まりを見たことがあるだろうか? というより、11月1日からの警察キャンペーン期間が終わってしまったら、あれ、全部が全部元に戻ってしまった、という気がしないだろうか? 何だかんだで忘れられちゃった、喉元過ぎれば熱さ忘れるみたいな話だなぁ、と。
これ、なぜかというと、最初から警察は「今回はまだ地ならしに過ぎない」と踏んでいるからなのだ。
今回の重点項目は主に「ながら系」と「飲酒系」の話だったが、それらの罰則が多少強化されようが、取り締まらなければ意味がない。
そして、その取り締まりの形態は、相変わらず赤切符すなわち「刑事処分」だ。要するに起訴までなかなか持ち込めない、面倒くさい話なのだ。
ここに踏み込めないと今までと何ら変わらないが、それを変えようという動きがある。
ちょっと詳しく述べていこう。
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そういうヤカラは、いつか事故を起こすし、その事故は悲惨なものとなるのをもっと知った方がいい。
自転車は案外スピードが出る。人身事故を起こすと、損害賠償ほかはクルマ並みに高額になる。5000万円や1億円は当たり前なのである。
特に最近流行りの違法モペッド(純然たる電動オートバイなのに、ヘルメット・ナンバープレート無し)などは悲惨のひとことだ。
筆者撮影
ナンバープレート無しで走行する違法モペッド
スピードは出る、殺傷能力が段違い、しかし自賠責保険にすら入っていないので一切の保険はきかない。ここに加えて「酒気帯び」や「ながら」の場合、自己破産しようが何しようが、免責も一切きかない。まさに「人生オワタ」状態に陥ることが決定づけられている。
しかし、警察のアピールも2週間で終わりだ。あとは忘れたように元の木阿弥。前々から思い出したように「自転車も厳罰化」とか言ってきたのと同じだ。
今回は「地ならし」または「露払い」
……と、本当にそうだろうか。
じつは今回ばかりはちょっと違う。
なぜなら2026年5月までに施行される「自転車取り締まりに青切符導入」が控えているからだ。
この青切符導入は明らかにエポックメイキングで、自転車の取り締まりが「刑事処分のみ」から「行政処分もあり」に移る。つまりクルマと同じように簡易的に反則金を払わせることができるようになるのだ。
その約1年半前、つまり今回に関しては「いいですか、取り締まりますからね、その項目は『ながら運転』とか『酒気帯び運転』とか。見逃しませんよ」という一種の地ならしなのである。
青切符にあたる項目は現在いろいろ話し合われているなかで113項目前後になる予定だ。その中に、今回の「ながら」をはじめ「逆走」「信号無視」「一時不停止」などが含まれてくる。
反則金は6000円~1万2000円といったところで検討されている。もう目に余る無法自転車どもはバンバン青切符を切っていただきたいと思う。
ただ私の希望としては、その取り締まりにメリハリをつけてほしいということなのだ。
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そもそも今回の罰則強化、自転車事故の急増に対して募る危機感が動機だったといえる。
警視庁および道府県警は、それぞれの記者クラブにリリースを撒いて「これからは自転車の罰則を強化する!」と、警察の立場をアピールしてみた。
そうでないと「自転車事故が多すぎる」「警察は何をしてる」との批判に耐えられないからだ。
今回の重点項目は主に2つ。
まずスマホながら運転については、これまで「3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金」だったものを「6カ月以下の罰金または50万円以下の罰金」に強化した。
飲酒運転に関しては、これまで酒気帯び運転(呼気1リットルあたりアルコール0.15mg以下)には罰則がなかったところに、罰則をつけた。
私に言わせると,こんなの「厳罰化」どころか「当たり前」だと思われるのだが(特に酒気帯び運転)、まあメディアで警鐘を鳴らすのは、ワルイコトじゃない。今さらながらの「罰則強化!」ではあるものの、「ながら」も「飲酒」も実際に喫緊の危険だからだ。
地方の自転車乗りの甘すぎる認識
厳罰化が始まってから実際に検挙された事例も報道されている。
11月8日深夜、福岡市でスマホながら運転をしていた29歳の男性美容師を警察官が止めたところ、酒の臭いがしたため呼気を検査したら基準値を超えるアルコールが検出された、などという笑えない例(でも、ありそうな例)があった。もちろんダブル違反で現行犯逮捕である。
徳島県北島町でも11月4日、無灯火運転の20代自転車男を職務質問してみたら、酒の臭いぷんぷんで「赤切符」発行、なんてこともあった。
地方ではこのように自転車の飲酒に無頓着な例が多い。「最近飲酒運転の取り締まりがキビシいから今日の飲み会は自転車で行くよ」なんてヤカラまでいたりして、困ったものなのだ。