コケは宇宙の真空中で9カ月間も生存できることが判明

サイエンス

by DLR_next

北海道大学の藤田知道教授らの研究チームが、モデル生物として広く利用されるコケ植物「ヒメツリガネゴケ」が、国際宇宙ステーション(ISS)船外の過酷な宇宙空間に9カ月間さらされた後でも高い生存率を維持し、地球帰還後に発芽することを確認しました。

Extreme environmental tolerance and space survivability of the moss, Physcomitrium patens: iScience

https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(25)02088-7

Moss Survives 9 Months in Space Vacuum

https://scienceclock.com/moss-survives-9-months-in-space-vacuum/

Moss in space: spores survive nine-month ride on outside of ISS | Biology | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/2025/nov/20/moss-spores-survive-outside-international-space-station-iss コケ植物は約5億年前に水中から陸上へと進出した最初の植物群であり、乾燥や紫外線、急激な温度変化といった厳しい環境に適応してきた進化の歴史を持っています。これまでの宇宙実験では主に農作物などの種子植物が対象とされてきましたが、今回はコケ植物の極限環境耐性を検証するため、ISSの「きぼう」船外実験プラットフォームを利用した長期曝露(ばくろ)実験が行われました。

実験に先立ち、研究チームは地上で宇宙環境を模したストレステストを行いました。ヒメツリガネゴケの原糸体無性芽、そして胞子嚢(のう)に包まれた胞子という異なる組織に対し、強力な紫外線やマイナス80℃による冷凍、55℃という高温、真空といった負荷を与えました。

原糸体は10kJ/m2の紫外線照射量で生存率が0%になりましたが、胞子嚢に包まれた胞子はその1000倍以上にあたる12MJ/m2を照射されても27%の発芽率を維持しました。温度変化への耐性についても、マイナス80℃の冷凍や55℃の高温環境下において原糸体は4日以内に死滅しましたが、胞子は30日間経過後でも冷凍条件で80%、高温条件で36%が生存しました。

そして、この地上実験の結果を受け、実際にISSの船外で283日間にわたる曝露実験が実施されました。以下は実際に曝露実験で使われた装置の図と写真。

試料となるヒメツリガネゴケは真空、微小重力、激しい温度変化、そして宇宙放射線にさらされましたが、地球帰還後に培養を行ったところ、紫外線をカットした条件で97%、紫外線を直接浴びた条件でも86%という発芽率を記録しました。

宇宙空間の強力な紫外線により、光合成に不可欠な色素であるクロロフィルaの一部には分解が見られたものの、その他の色素は安定しており、発芽後の成長には大きな支障がないことも確認されています。

藤田教授はこの結果について「予想を覆す生存率だ」と述べており、コケ植物が将来的に月や火星などの地球外環境において、酸素生成や土壌形成を助ける生態系の基盤として利用できる可能性を示唆しています。ただし、専門家は今回の実験があくまで休眠状態での生存能力を示したものであり、異なる重力や大気成分の中で植物が実際に成長し繁栄できるかどうかについては、さらなる研究が必要であると指摘しています。

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