「馬」と「ポンコツ中古車」で戦場にやって来る…プーチン軍が隠し切れないロシアの深刻な"戦車不足"の実態 最新式の戦車は設計ミスであっと言う間に鉄クズに…
2月24日、ロシアのウクライナ侵攻は4年目へと突入する。戦車や装甲車両の損失が続くロシア軍は、深刻な装備不足に直面している。海外メディアは、現地では馬での移動や民間車両に乗っての戦闘が日常化していると報じている――。
写真=EPA/GAVRIIL GRIGOROV/SPUTNIK/KREMLIN/POOL/時事通信フォト
2025年2月7日、ロシア・モスクワのクレムリンで会談中のミシュスチン首相に耳を傾けるプーチン大統領。
装備不足に直面するロシア軍の窮状を象徴する映像が、ソーシャルメディア上で話題を呼んでいる。ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ元内務省顧問がXで公開した動画には、ロシア軍兵士が馬に乗って戦地で活動する異様な光景が映し出されている。動画はロシア領内のサハ共和国出身の兵士たちが、馬に乗って戦場に向かう様子を捉えたものだ。
"World's second army" in all its glory. Rolling back to the times of the Russian Empire - complete with cavalry and drafting representatives of national minorities as cannon fodder.
These soldiers are from the Republic of Sakha, a region incredibly rich in natural resources.… pic.twitter.com/FNFQoioT2S
— Anton Gerashchenko (@Gerashchenko_en) February 4, 2025
馬に乗った2人の兵士が荒野の泥道を行きながら、会話を繰り広げる。馬上から撮影している兵士が「見ろ、ウクライナにいる奴ら(自身を含むロシア兵ら)が馬に乗っているぞ」と自嘲気味に話し、「おとなしい馬を手に入れたな」ともう一方に話しかける。自撮りに2人で収まると、「白い馬だ」とつぶやく撮影者。ややあってもう片方が、「こいつら(車両でない馬たち)はひどく遅いな!」と不平をこぼす。
動画を受けゲラシチェンコ氏は、「(アメリカに次ぐ)『世界第2位の軍隊』の真の姿だ。ロシア帝国時代への逆行だ」と批判した。動画は、少数民族への虐待としても問題となっている。ロシアではウクライナへの侵攻以降、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市部と比べ、少数民族が多く居住する地域からの動員が目立つ。民族差別的な動員政策が国際社会からも問題視されている状況だ。動画では戦闘車両を与えられず、騎乗で前線へ向かう実態が明らかになった。
オランダの情報分析サイト「Oryx」の推計によると、ロシア軍は侵攻開始から現在までに、1万5000以上の装甲車両や重装備戦闘機材を失ったとされる。米フォーブス誌は動画を取り上げ、「新しい車両の生産は遅れ、古い冷戦車両の在庫は昨年末に減少している。ロシア軍が最終的に馬に乗ることは不可避だった模様だ」と分析している。
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最大の問題は部品不足だ。2025年用に確保していた戦車部品はすでに底をつき、燃料ヒーター、高電圧電気系統、赤外線熱映像装置といった重要機器は、欧州からの輸入が制裁で途絶えたままだ。
製造の現場からは、さらに切羽詰まった実態が垣間見える。エコノミスト誌の報道によると、兵器工場の溶接作業は今でも手作業が中心だという。24時間操業を目指してはいるものの、人手が集まらない。設備面でも課題が山積みであり、かつてドイツやスウェーデンから購入した工作機械の多くが老朽化し、維持管理さえままならない状況だという。
砲身の生産問題もロシアに重くのしかかる。生産ラインには、高い硬度の工作を実現する特殊な金属加工機械である、オーストリア製の「回転鍛造機」が欠かせない。だが、これを備えた工場はロシア国内にわずか2カ所。年間生産能力は1工場当たり約100本に過ぎないといい、実戦で必要な数千本規模には遠く及ばない。ロシア軍は激しい砲撃を繰り出しており、砲身の寿命は極めて短い。
ルジン氏は、「ロシアには鍛造機を自力で製造する技術がありません。1930年代にアメリカから輸入した機械や、第二次世界大戦後にドイツから接収した設備に依存したままの状態です」と指摘する。
装甲車両を温存、歩兵を前に出す戦術にシフト
Oryxの調査報道によると、ロシア軍の戦車保有数は開戦時と比べ、わずか48%にまで落ち込んでいる。装甲戦闘車両の残存率も同水準だという。
こうした生産能力の限界は、すでに前線での戦闘にも明確な影響を及ぼしている。カタールの衛星放送局・アルジャジーラは、ロシア軍の装備不足は、もはや危機的な状況に達しているとみる。ウクライナ軍第25空挺旅団でポクロフスク地域の防衛に当たるセルヒー・オキシェフ軍曹は、同局の取材に、「ロシア軍はもはや装甲車両に頼れない状況です。その代わりにバギーやゴルフカート、一般の乗用車まで戦場に投入しています」と戦場の実態を明かした。
ウクライナ東部の要衝クラホーベに駐屯するウクライナ軍報道官も、同様の変化を指摘する。「この数週間、ロシア軍は装甲車両を伴わない歩兵主体の攻撃にシフトしました。装甲車両は後方からの火力支援に徹し、最前線での攻撃には加わっていないようです」と述べる。