道路の陥没穴がひとりでに治る!AI×バイオ技術で生まれた自己修復アスファルト

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 道路の陥没は厄介な存在だ。車にダメージを与えるし、事故を招くこともある。日本の国土交通省のデータによると、2022年度の道路の陥没件数は全国で1万548件もあったという。

 日本はまだましな方で、海外ではもっと多く、いたるところに道路の陥没穴が存在している。

 この問題に対処すべく、イギリスの研究チームが、AIとバイオ技術を組み合わせた自己修復アスファルトを開発した。

 この新素材は、通行する車の圧力で自らひび割れを修復してくれる。さらにその材料はバイオマス廃棄物をリサイクルしたもので、環境にもやさしいのだ。

 道路に陥没穴ができる要因の1つとして、アスファルトに生じるひび割れがある。このひび割れは、アスファルトの主成分である「歴青(れきせい)」という化合物と関係している。

 歴青は時間が経つと酸化して硬くなり、ひび割れを起こす。そこに雨水が入り込むと、寒い時期には凍って膨張し、暖かくなると溶けて収縮する。この繰り返しによってひびが広がり、やがて陥没穴になってしまうのだ。

 さらに、交通量の多い道路では、車が通るたびにひびが押し広げられ、より穴も大きくなる。

 このひび割れをどうにか修復できれば、アスファルトの劣化が抑えられ、耐久性も上がり、陥没穴もできにくくなる。

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 その方法を探るべく、イギリスのスウォンジー大学やロンドン大学キングス・カレッジの研究チームは、Google CloudのAIツールなどを利用して、歴青の有機分子を調べ、原子レベルでのシミュレーションを行いつつ、その酸化やひび割れのプロセスを解明した。

 そして開発されたのが、「スポア」という多孔質材料を組み込んだアスファルトだ。

 スポアは植物由来の髪の毛よりも小さな材料だ。これをリサイクル油にまぜて、アスファルトに使用する。すると、アスファルトがひび割れるにつれて油からスポアが放出され、傷を埋めてしまうのだ。

 その性能を確かめるための試験では、スポアがアスファルトの表面にできたミクロレベルのひび割れを1時間以内に完全修復することが確認されている。

 AIを利用したその開発手法について、スウォンジー大学のジョゼ・ノランブエナ=コントレラス博士は、ニュースリリースで次のように語っている。

 「この学際的な研究では、土木工学・化学・コンピュータ科学の専門家が集い、その知識をGoogle Cloudの最先端AIツールと組み合わせました」

この画像を大きなサイズで見る実験では、自己修復機能を持つ多孔質材料のスポアとリサイクル油を混ぜた歴青が、アスファルト表面の微細なひび割れを1時間以内に完全修復することが確認された。 image credit:University of Swansea.

 この自己修復アスファルトは、温室効果ガスの排出ゼロ実現にも貢献してくれる。

 道路から排出される二酸化炭素の多くは、アスファルトを生産する際に排出される。耐久力の高い自己修復アスファルトは、アスファルト生産量を減らすことにつながるので、効果的な気候変動対策になる。

 もう1つの重要なポイントは、この自己修復アスファルトがバイオマス廃棄物のような持続可能な材料を採用しているところだ。

 研究に参加したキングス・カレッジ・ロンドンのフランシスコ・マルティン=マルティネス博士は、自己修復アスファルトは化石燃料や天然資源の使用を減らすことにもつながると語る。

バイオマス廃棄物はどんな場所でもそれぞれの地域で入手でき、しかも安価です。石油に頼らずとも、各地域で入手した資源でインフラ材料を生産できるようになれば、石油由来のアスファルトが入手できない地域は助かるでしょう(マルティネス博士)

 陥没穴が引き起こす問題は、道路の損傷だけではない。アメリカ自動車協会が2021年に実施した調査によると、米国内の10人に1人のドライバーが、陥没穴が原因の車の損傷に修理を要したという。

 もし自己修復アスファルトが広く普及すれば、道路の補修回数が減り、維持管理のコストも大幅に削減されるだろう。

 さらに、交通の流れがスムーズになれば、ドライバーのストレス軽減にもつながるだろう。

 なおこの自己修復アスファルトには、褐藻(かっそう:藻類の一種)や使用ずみ調理油からバイオポリマーを作る方法や、廃タイヤの熱分解を利用して補修剤を作る方法なども応用されているとのことだ。

References: AI-powered self-healing asphalt: A step toward sustainable net-zero roads - Swansea University

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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