高校生の就職「手取り26万円、ボーナス85万円」 空前の「売り手市場」でも支援体制「ピンチ」のワケ
工業高校の就職支援も先細りが進んでいるという。
「どの工業高校でも経験豊富な就職指導の教員は年配者が多い。1970年代前半生まれの第2次ベビーブームへの対応で大量に採用された世代で、退職が一気に進んでいます」
これまで工業高校の就職指導教員は、生徒の性格や資質を見極めながら就職の相談に乗ってきた。教員は各企業の雰囲気なども考慮しながら生徒とのマッチングを行ってきた。
マッチング機能が低下すれば、離職率が上がる。企業の信頼も揺らぐだろう。だが、従来の就職ノウハウを次の世代に伝えるのは困難だという。
工業高校の生徒の就職は、「土日返上で深夜まで働くといった、先生の熱量に支えられてきた」からだ。
不況で求人が減れば、教員は早朝から地元企業の門に立つ。経営者が出社すると、「社長、うちの生徒をどうぞよろしくお願いします」と、深々と頭を下げる。そんなことが、普通に行われてきた。だが、令和のいまだ。
「そうした慣習を、若手の就職指導の先生が受け継ぐのは難しいと思います」
行政やマスコミの関心は薄い
古屋さんは高校生への就職支援は、学校単位ではなく、地域ごとに「就職センター」を設けるべきだと提唱してきた。
「たとえば、埼玉県では学校を横断した就職の合同説明会が開かれています」
ただし、こうした取り組みは、まだごく一部の自治体に限られる。空前の求人倍率の陰で高校生への就職支援は崩壊しつつあるが、行政やマスコミの関心は薄いという。
「みなさん大卒ばかりですから、高卒の就職に目が向かないのかもしれません」
冒頭で紹介した町田工科高校の卒業生たちの言葉からは、まぶしいくらい働くことへの情熱が伝わってきた。そんな若い世代と企業を結ぶ仕組みは、いつの時代も必要であるのは間違いない。
「高校を卒業して就職するというのは価値ある選択だと思うんです。特に、人生の選択肢が多様化した現代社会においては。働くと、『なぜ勉強が必要か』が身に染みてわかる。若ければ、やり直すこともできるのですから」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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就職活動が本格化するのは3年次だ。前年度の求人票を生徒に開示して6月中に志望企業を3、4社に絞り込んでもらう。
高校生への求人申し込みの解禁日、7月1日以降、求人票が届いたら、第1志望の企業を7月中旬までに決定してもらい、成績順に学内で選考を行う。「最終的に校長が学校推薦を出します」(同)
選考結果を各企業にも伝え、夏休み中に生徒に会社を見学してもらう。同時に履歴書の書き方を指導する。
「夏休みの前半は履歴書指導で終わる、というくらい練習してもらいます。後半からは教員全員で模擬面接です」(同)
9月上旬、「出陣式」に生徒が集まり、気持ちを高めてから企業を訪れる。応募書類(調査書、履歴書)を生徒が直接届け、受験する旨を伝える。就職試験が始まるのは同月16日だ。
普通科は進学指導で手いっぱい
提箸さんの目下の悩みは、培ったノウハウをいかに若手の教員に伝えていくかだという。
「特に普通科から転任してきた先生は高校生の就職の仕組みについて、知らない人が多いと感じます」(同)
今春卒業予定の高校生は全国約94万人。このうち就職希望者は12万8349人で、全体の約13.7%。学科別では普通科4万1632人、工業科4万343人、商業科1万7234人(文部科学省調べ、24年10月末時点)。
「普通科の高校生の就職が最も多いわけですが、工業高校の手厚い就職支援とは大きく異なり、事実上、彼らは放置されている状態です」と、高校生の就職事情に詳しいリクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員は話す。
就職者全体を見れば、普通科高校の出身者が多いが、学校単位で見ると就職者は非常に少ないことが背景にある。たとえば、都立高校の場合、全日制の普通科は124校にあるが、昨年度、そのすべてで就職者は1桁台だった。
普通科高校では、ほとんどの生徒が進学を希望するため、教員は進路指導の大半を「進学指導」に割かざるを得ない。特にこの10年は「大学入試の総合型選抜の浸透」によって、その傾向がますます顕著になっているという。進路指導の教員は初夏から秋にかけて、総合型選抜の対策に追われるが、その時期は高校生の就職活動と重なる。
「普通科高校の先生方が『就職指導』に割くエネルギーはなくなってしまうんです」(古屋さん、以下同)