電池いらずの歯ブラシが、自分で作った電気で虫歯菌を殺す (3/3)

治療を受ける前の、歯ぐきの炎症(歯肉炎)の様子です。人での試験に加わったのは、歯ぐきの炎症か虫歯がある大人たちでした。Credit: Onetimeuseaccount / Wikimedia Commons(CC0)

研究室での結果を受けて、チームは人での試験に進みました。

対象は、歯ぐきの炎症か虫歯がある大人115人です。

参加者を無作為に分け、新しい歯ブラシかナイロンの歯ブラシを、1日2回、3か月使ってもらいました。

試験の終わりには、新しい歯ブラシの組の方が、歯垢も歯ぐきの炎症も出血も少なくなっていました。

歯垢を染める錠剤(コルゲート社の製品)を使った後の歯です。ピンクに染まった所に、磨き残した歯垢がついています。Credit: Themolarbear / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

歯垢の中の菌を調べると、病気と関わる菌の割合が下がり、口の健康を支えるとされる菌の割合が上がっていました。

悪い菌の割合が下がった理由について、チームはひとつの考えを示しています。

病気に関わる菌は膜が壊れやすく、活性酸素で傷つきやすいのではないか、というものです。

ただしこれはまだ確かめが必要な仮説で、どこまで悪い菌だけを狙えるのかははっきりしていません。

また、悪い菌の割合が下がったからといって、口の中の菌の総数が減ったとは限りません。

歯垢や出血が減っても、この先何年かで虫歯や歯周病が減るかどうかは、より長い追跡で確かめる必要があります。

安全性も、まだ入り口の段階です。

3か月分の使用を模した試験で、PVDFの毛は形も電気の性質も保ちました。

コップ型の歯ブラシ立てに入れた歯ブラシです。歯ブラシはふつう3か月ほどで取り替えるので、新しい毛も3か月分の使用を模した試験で、形と電気の性質が保たれるかが確かめられました。Credit: bellemarematt / Flickr(CC BY-SA 2.0)

マウスの細胞を毛の素材と一緒に最長7日間育てても、目立った傷みは見られませんでした。

牛の歯の表面も、磨いて粗くなることはありませんでした。

とはいえ、これらの試験だけでは、人が繰り返し使って安全かどうかまでは言えません。

研究に加わっていない英ニューカッスル大学の口腔微生物学者、ニコラス・ジャクボヴィクス氏も慎重です。

同氏は、長く使っても歯ぐきなどの組織に安全かを確かめたいと話しています。

研究室では、菌は毛の上で何時間も電気にさらされます。

一方、実際の口の中で毛が歯や歯ぐきに触れるのは、ほんの短い時間だと同氏は指摘します。

著者たち自身も、菌と毛を長い時間一緒に置いた研究室の実験は、短く途切れ途切れの実際の歯磨きや、その後につばで流されたり食事をしたりする口の中までは再現しきれていないと認めています。

鏡を見ながら歯を磨く男性です(アメリカ国立がん研究所の写真)。実際の歯磨きでは、毛が歯や歯ぐきに触れるのはほんの短い時間だという指摘があります。Credit: Bill Branson (Photographer) / Wikimedia Commons(Public domain)

チームはまた、PVDFの毛にさらされた菌では、栄養を取り込むポンプに関わる遺伝子の働きが落ちたことも報告しています。

しかし同氏は、このポンプはさまざまな物を運ぶため、遺伝子の変化が菌にどう響いたのかははっきり示されていないと見ています。

人での試験も比較的小さく、同氏は今回の研究を、考え方を示した段階のものと位置づけています。

それでも同氏は、「歯ブラシの表面そのものが何かをしているという考えは、とても興味深い」と語っています。

なお、使った人が磨き心地の違いを感じたかどうかは、研究では触れられていません。

また、比べた相手はナイロンの歯ブラシだけで、電動歯ブラシや音波歯ブラシ、抗菌加工の歯ブラシと比べてどうかは、これから確かめる必要があると著者たちは書いています。

5つのモードを持つ、音波式の電動歯ブラシです。今回の歯ブラシが電動歯ブラシや音波歯ブラシと比べてどうかは、まだ確かめられていません。Credit: Curpharar / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

研究室では電気を帯びた太い方の毛にさらされた菌の半分以上が死に、人での3か月の試験では歯垢や歯ぐきの炎症が減りました。ただ、毎回の短い歯磨きで毛がしなるたびにどこまで菌を倒せているのかは、まだ確かめられていません。磨くたびに電気を生む歯ブラシは、いまは考え方を示した段階にあります。

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