ヘグセス米長官は「全員殺せ」と命令していないと海軍提督 連邦議員たちに証言

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画像説明, カリブ海での船舶二重攻撃について連邦議会の聴聞会出席を終えた、ブラッドリー提督(4日、ワシントン)

カリブ海で「麻薬密輸船」とされる船に、米軍が「ダブルタップ」と呼ばれる追い打ち攻撃をした際、ピート・ヘグセス米国防長官が「全員殺せ」と命令していたのかどうかについて、フランク・ブラッドリー海軍提督は4日、連邦議員たちに対して、長官はそのような命令はしなかったと証言した。非公開の場での聞き取りに出席した複数の両党議員が、明らかにした。米軍は同日夜、新たに東太平洋で「麻薬を運搬」していたとする船舶を攻撃し4人を殺害したと発表した。

4日の連邦議会では民主党と共和党の議員がそれぞれ非公開の場で、9月2日の「ダブルタップ」攻撃の映像を視聴し、ブラッドリー提督から話を聞いた。「麻薬密輸船」とされる船舶への米軍攻撃をめぐり、合法性が問われている中、現場の作戦を指揮したブラッドリー司令官が最初に下院議員、続いて上院議員へ状況を説明した。

ホワイトハウスは、作戦実施の責任者だったブラッドリー提督は、法の範囲内で行動したと述べている。

米南方軍司令部は4日夜、「違法麻薬を運搬していると情報で確認された」「テロ組織に指定された組織が操業する船舶を公海」で攻撃し、「麻薬テロリストの男性4人」を殺害したとソーシャルメディアに投稿した。

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画像説明, ヘグセス米国防長官(中)は、カリブ海での「麻薬船」に対する2回の攻撃のうち、1回目だけ見ていたとしている

9月に攻撃について、下院情報委員会のジム・ハイムズ民主党筆頭議員は、自分はブラッドリー提督に敬意を抱いており「我々全員が敬意を払うべき人物だ」と記者団に話す一方、非公開の場で見た攻撃現場の映像については「自分が公職者として見たものの中でも、特に不穏な光景の一つだった」と話した。

「(攻撃された船は)確かに麻薬を運んでいた。しかし、もはや任務を続行できる状況にはなかった」とハイムズ議員は述べた。

下院軍事委員会のアダム・スミス民主党筆頭議員は、ハイムズ議員と共同声明を発表し、映像の公開を求めた。

「説明を通じて私たちはいくつか答えを得たが、それよりも多くの疑問を抱くことになった。議会はこの問題の調査と監督を続けなくてはならない」と、野党・民主党の両議員は述べた。

他方、与党・共和党のトム・コットン上院情報委員会委員長は、ブラッドリー提督とヘグセス長官が「自分たちが期待する通りの行動を取った」ことが分かったと評価した。

「私は、2人の生存者が戦い続けるため、麻薬を積んでアメリカへ向かう船を、ひっくり返そうとする姿を見た」とコットン上院議員は述べた。

共和党のリック・クロフォード下院議員も攻撃を擁護し、プロにふさわしい手法で行われた攻撃だと「疑いようがない」と話した。

民主党のジャック・リード上院議員は声明で、見たものに「動揺した」と述べ、民主党は事案の調査を続けると付け加えた。

最初の攻撃で生存者が出た後に2度目の攻撃が行われたと明らかになったことで、トランプ政権がカリブ海などで麻薬船だとする船舶を攻撃し続けている作戦の合法性が、あらためて問われることになった。「ダブルタップ」攻撃については、米紙ワシントン・ポストが11月28日付の記事で最初に詳しく報じた。

戦時国際法のジュネーヴ条約は、負傷した戦闘員を意図的に攻撃することを禁じ、負傷者らは捕らえて手当てすべきだと定めている。

ドナルド・トランプ米大統領は、2度目の攻撃の映像公開について「何の問題もない」と述べている。最初の攻撃の映像はすでに公開されている。

CBSを含む複数の米メディアによると、9月2日の船舶攻撃では、最初の攻撃の生存者2人が船に戻ろうとしたところ、船は2度目の攻撃を受けた。情報筋によると、2人は麻薬を回収しようとしていたように見えた。

ロイター通信は米政府関係者の話として、ブラッドリー提督は4日に議会幹部に対し、標的の船には麻薬が残っていると考えられていたため、生存者は正当な標的だったと説明する方針だと伝えていた。

9月2日の攻撃を皮切りに、米軍はカリブ海と東太平洋で相次ぎ船舶を攻撃。これまでに80人以上が死亡している。

米当局は9月2日の攻撃は合法だったと主張しているが、当日何があったのか、その全容はまだ明らかになっていない。

「ダブルタップ」攻撃に関する11月28日のワシントン・ポスト報道を受け、ヘグセス長官はすぐさま、「でっち上げで扇動的で侮辱的だ」と報道を非難。国防総省のショーン・パーネル報道官は「この話全体が偽りだ」と述べた。

ホワイトハウスはその後、2度目の攻撃があったことを認めた。ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は12月1日、命令はヘグセス長官ではなくブラッドリー提督によるもので、提督は「自分の権限と法の範囲内で行動した」と述べた。

2日になるとヘグセス長官は、最初の攻撃を現場で見届けた後、別の会議へ移動したのだと話した。自分自身は「生存者を見ていない」し、見ていない理由は、船が燃えていたことと「戦争の霧」にあると主張した。

ヘグセス氏はさらに同日、ブラッドリー提督が「船を沈め、脅威を排除する」と決めたと報告されたことを思い出したと発言。提督の判断は正当だと考えたと述べた。

この問題について、民主党だけでなく共和党の議員も懸念をあらわにしている。議員の多くは、「ダブルタップ」攻撃が明らかになる前から、カリブ海などでの作戦全般をすでに批判していた。

麻薬密輸船と疑われる船を標的に乗員を殺害する一連の攻撃に加え、アメリカはカリブ海での軍事的存在を拡大している。

ヴェネズエラは一連の攻撃を繰り返し非難し、ホワイトハウスが政権転覆を狙って地域の緊張をあおっていると非難している。

対するトランプ大統領は、攻撃によって海上ルートでの麻薬密輸が大幅に減少したと主張するものの、証拠は示していない。

それぞれの攻撃で標的となった人物が、麻薬密輸業者だと示す証拠も公表されていない。

複数の専門家はBBCに対し、9月2日の生存者への2度目の攻撃は、国際法の上で合法と見なされるかどうか、深刻な疑念を示している。

国際刑事裁判所(ICC)の主任検察官だったルイス・モレノ=オカンポ主任検察官はBBCに、麻薬密輸船とされる船へのアメリカの空爆は国際法上、人道に対する罪として扱われるだろうと話している。

「彼らは犯罪者であり、兵士ではない。犯罪者は民間人だ」と、モレノ=オカンポ元検事は話した。

最初の攻撃の生存者は、遭難船の船員に与えられる保護や、戦闘を継続できなくなった兵士に与えられる保護の対象となった可能性がある。

トランプ政権はカリブ海での作戦を、麻薬密輸業者とする相手との、非国際的武力紛争として位置づけている。

このような武力紛争における交戦規定は、ジュネーヴ諸条約が定める通り、負傷した参加者を標的にすることを禁じ、負傷した交戦当事者は拘束し、保護するよう定めている。

ブラッドリー提督はこの問題について、まだ公にコメントしていない。

継続する米国の攻撃で死亡した数十人のうちの一人は、コロンビア人のアレハンドロ・カランサ氏と見られている。同氏が最後に目撃されたのは9月14日だった。BBCムンドによると、カランサ氏の家族は、ワシントンにある米州人権裁判所(IACHR)に訴えを起こした。

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