投票日当日に自民党が新聞広告 「公選法違反では」と疑問の声、弁護士は「選挙のルールを明確な形で示すべき」
自民党が圧勝した衆議院選挙の投票日当日である2月8日、新聞の朝刊各紙に自民党の広告が掲載された。
たとえば読売新聞には、高市早苗首相の写真とともに「今こそ、日本列島を、強く豊かに」とのメッセージが掲げられた広告が確認できる。広告には「自民党」のロゴも記されている。
投票日に政党の広告を掲載することは、公職選挙法違反にあたらないのだろうか──。SNS上では、そんな疑問の声も上がっている。猪野亨弁護士に聞いた。
●選挙当日の「選挙活動」は原則禁止されている
選挙ですから、ルールに従って公正におこなわれる必要があり、そのためのルールが公職選挙法です。
公職選挙法129条は、選挙活動について「公職の候補者の届出のあった日から当該選挙の期日の前日まで」とされており、投票日当日は認められていません。
ここでいう選挙活動とは、最高裁判決によると「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をおこなうことをいう」とされています。
今回のような広告は、政策実現を訴えるものであり、自民党とその候補者への投票を呼び掛けているように見えます。
そのため、これが「選挙活動」にあたるのではないかとの疑問が生じ、投票日当日の広告掲載に違和感を抱いた人も少なくないと思います。
●「政治活動」と「選挙活動」の違い
ただし、公職選挙法が規制するのは「選挙活動」であり、「政治活動」は原則として自由とされています。
政治活動が政治に関する意見表明や活動一般を指すのに対して、選挙活動は候補者の当選を目的とする行為に限定されるというもので、選挙活動は政治活動の自由の一部ではありますが、法的には区別されています。
今回の新聞広告でいえば、「政党としての政治活動であり、特定の候補者の当選を目的とするものではないので、選挙活動にはあたらない」と整理されて進められたことになります。
●安倍総裁時代にも同じような広告が出た
このような広告は今回が初めてではなく、安倍晋三総裁時代にも、アベノミクスを訴える内容の広告が投票日に掲載されたことがありました。
当時も公職選挙法違反ではないかとの議論が起きましたが、結局は何事もなかったかのように今回の広告につながっているものと思われます。
ただ、政策を訴える形式であっても、実質的には特定政党や候補者への投票を呼びかけているように見える場合、「選挙活動」と「政治活動」の線引きは極めて困難です。
●捜査機関は「放任」してきた
このような広告は、投票日当日に掲載する内容としては、違法と評価される可能性が高いと言うべきです。だからこそ、野党側も含め、投票日当日の広告掲載は控えられてきたのです。
立件されてこなかったのは、捜査機関が事実上放任してきた側面があると思います。掲載した新聞社側も、違反することが明らかとはいえないという判断で掲載に応じた可能性があります。
このような既成事実が積み重なることで、事実上の“前例”のルールとして扱われるおそれもあります。
仮に野党が同じようなことをやって突如として立件されるというのであれば、捜査の公正性・中立性からも問題になるからです。したがって、与野党問わず、どの政党でも一律放任ということになれば、それがルールということになります。
最終的な法解釈権は裁判所にありますが、長年放任されてきたものを突如として「違法」と評価することは、選挙の公正のみならず、罪刑法定主義(犯罪と刑罰はあらかじめ法律で定めておくべき)の観点からも問題をはらみます。
●高市自民による「やったもん勝ち」は否定できず
ただし、最初に大規模に実行したのが与党(安倍氏のときは自民党だけでなく公明党も同様の広告を出していました)であった点については、公平性の観点からも疑問が残ります。
捜査機関は与党であるがゆえに放任したのではないかという疑念が浮かぶのは当然です。たとえば、安倍総理(当時)の選挙演説でのヤジ問題で、北海道警察がヤジを飛ばした人を強制的に排除したのは政権に忖度しているのではないかとさえ見えるほど公正性を欠いていた出来事でした。
こうした経緯を踏まえると、今回の投票日当日の広告は、高市総裁の自民党による「やったもん勝ち」と受け止められる面があることは否定できません。
●今回の選挙を踏まえた「これからの課題」
公職選挙法は、諸外国と比べても禁止規定が多く「べからず選挙」とも言われています。
どの政党もどの候補も同じ土俵で戦うことにはなり、たとえば選挙ビラの枚数にも規制がありますが、平等といえば平等です(政党優位に扱っている点は明らかに平等を失していますが、この自民党の広告も含まれます)。
それら規制の大義名分は選挙に費用が掛かれば、資金力によって差が出てしまい、選挙の公正性を害するからと説明されています。
しかし、今、現実に自民党がおこなっていることは、政治活動という名目で資金力にものを言わせた宣伝そのものです。
新聞の全国広告への掲載は資金力がなければできませんし、YouTube動画も再生数1億回を超えたことが話題になっていますが、これも費用の問題と指摘されています。
公職選挙法で可能な選挙活動の大枠をはめてしまい、しかし、与党自民党は政治活動として湯水のように使えるものがある、その原資が政党交付金や企業献金であるならば、なおさら選挙の公正性が害されていると言えます。
今回の投票日当日の広告掲載の問題は、選挙のルールを明確な形で具体的に定める必要があることを示していると言えます。
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