竹内まりや「いつかまたお会いしましょう」 色褪せぬエバーグリーンの魔法――11年ぶりのツアーを振り返る
いくつもの人生の軌跡が重なり合い、いくつもの人生が交差することが奇跡のように感じられた。2025年6月4日に開催された竹内まりやの『大和証券グループ Presents souvenir2025 mariya takeuchi live supported by エアウィーヴ』の横浜アリーナ公演は、だからこそ眩い光を放っていたのだ。
10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』を2024年にリリースし、今回の全国アリーナツアーは11年ぶりとなるもの。4月から6月にかけて、8都市14公演が開催された。
開演前にはThe Lettermenの楽曲が多く流れていた。会場が暗転すると、英語ナレーションとドラムロールが流れ、「アンフィシアターの夜」の演奏が始まった。ファンの大歓声を最初に浴びたのは、バンドマスターの山下達郎のギターである。そして、竹内がステージに登場。彼女が歌う「アンフィシアターの夜」は、まさにライブの幕開けを歌う楽曲だ。細身なのに相変わらずの声量を誇り、低音がよく出ていることが、竹内のボーカリストとしての力量を雄弁に物語る。1曲目にして、だ。
「家に帰ろう」では、竹内がエレキギターを弾きながら歌った。「マージービートで唄わせて」でステージ上のスクリーンに映されたのは、過去から現在までのリバプールの映像だ。
MCでは、竹内は11年ぶりのツアーにきてくれたファンに感謝し、懐かしい思い出も話していきたいと抱負を語った。「Forever Friends」では、竹内が歌いながらステージの左右へと歩み、艶やかなサックスソロも響いた。
MCで驚かされたのは、今回の全国ツアーに50万人もの応募があったという話だ。「みなさんラッキーです。日頃の行いがいいんでしょう」と、茶目っ気たっぷりに彼女は語る。さらに、スタッフに確認したところ、年齢層は60代が43%、50代が26%と、あわせて約70%を占めているという。10代が4人ほどおり、竹内は「将来有望」と笑った。そして、「高齢者に優しいライブになっていますので、安心して座ってくつろいでいただけたらと思います」とファンを気遣った。11年ぶりの全国ツアーは、長年のファンが多く集まる場なのだ。
このMCでは横浜アリーナにまつわる思い出も語られ、ジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンが来日公演を横浜アリーナで行った際には、ジョージに対面することができたという。左手にティーカップを持ったジェントルなジョージとツーショットを撮ってもらったとのことで、今も落ち込むとその写真を見るのだと竹内は語った。
「歌を贈ろう」は、最新作『Precious Days』の収録曲だ。ロックとソウルミュージックをベースにしつつも、歌謡性も感じさせる竹内まりやというボーカリストは、多面的な存在だ。だからこそ、マニアックさと大衆性を併せ持つ。「歌を贈ろう」にも、10年かけて煮込んだような深い味わいがあるのだ。
そこからRCA時代の楽曲のゾーンへ。まず歌われた「五線紙」では、鳥山雄司のギターと宮里陽太のサックスをフィーチャー。歌詞には〈休止符〉という単語も出てくるが、竹内のボーカルのリズム感のソリッドさが際立つアレンジだ。MCでは、「五線紙」を作曲した安部恭弘や、大学の先輩である杉真理との大学生時代の思い出も語られた。そして、デビュー後は芸能的な活動ではなく、音楽的な活動をするにはどうすればいいのか悩んだ時代もあったと回想する。
「リンダ」は、もともとは友人であるアン・ルイスの結婚祝いに書いた楽曲だ。その「リンダ」を、この日はアカペラのドゥーワップスタイルで聴かせた。竹内とともに歌ったのは、コーラスのハルナ、ENA、三谷泰弘、そしてベースパートの山下。5人の個が輝くかのような歌声であり、肉声ですべてが満ち足りていると感じるほどだった。
「ブルー・ホライズン」では、竹内のボーカルの低音の安定感が楽曲にハリをもたらしていた。竹内は間奏でステージを去り、バンドが演奏を続け、「象牙海岸」で衣装を替えた竹内が再登場。遠い夏を情感豊かに歌い上げた。
MCで、初めてライブにきた人がどれぐらいいるかを竹内が尋ねると、多くの人が拍手。「10年に1回だからね」と笑い、ファンの大歓声に「ありがとう」と感謝した。さらに、現在は不安な時代だと述べ、「お米はどうなっちゃうんだろう?」と時事を織り交ぜつつ、ファンを元気づけたいと語り、「日本のみなさん、おつかれ生です」という言葉とともに次の楽曲が始まった。「元気を出して」である。竹内が優しく前向きなエネルギーをファンに届けた。
電話のベルから始まったのが「告白」だ。竹内のボーカルが艶やかに光り、そこにサックスが寄り添う。実は以前マツコ・デラックスに「『告白』が好きなのよ」と言われたそうで、今回初めてフルサイズで「告白」が披露されたのだという。「告白」はドラマ『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ系)の主題歌だったが、続く「静かな伝説」はドキュメンタリー番組『ワンダフルライフ』(フジテレビ系)のテーマ曲だった。浅田真央の渾身の演技にインスパイアされたのだという。竹内は、みんなのまわりにも隠れたレジェンドがいるはずだと述べ、「静かな伝説」を讃歌のように堂々と歌い上げる。竹内はブルースハープも吹き、終盤ではファンにクラップを促したので、横浜アリーナを優しいクラップが満たすことになった。
「静かな伝説」が終わると映像が流れた。コンサート、ラジオ、リハーサルなどの光景とともに、これまでの歩みを竹内が振り返る映像だった。ステージに戻った竹内は、音楽でファンと人生を共有してきたことを口にし、ファンの存在が音楽を続けている根源的な理由だと語った。そして、「音楽を届けたい」というよりも「ファンに会ってみたい」のだと述べ、「まだまだ頑張りたいです」と宣言した。
山下のアカペラコーラスで幕を開けたのは「カムフラージュ」。そして、竹内のボーカルに山下のコーラスが最後まで並走した。「カムフラージュ」はドラマ『眠れる森』(フジテレビ系)の主題歌で、番組の打ち上げパーティーの二次会では、主演の中山美穂や木村拓哉とともに歌ったのだとMCで回想。竹内は、2024年に亡くなった中山を偲びつつ、自分より若い人が逝くのは寂しい、生かされている人はそのぶんも生きなければいけないと語った。
そしてメンバー紹介へ。バンドマスターにしてギターの山下、ドラムの小笠原拓海、ベースの伊藤広規、ギターの鳥山、アコースティックピアノとローズピアノの難波弘之、キーボードの柴田俊文、サックスの宮里、バックグラウンドボーカルのハルナ、ENA、三谷という編成だ。驚くべきは、竹内が一人ひとりの出身地から、その来歴、ライブ予定まで、よどみなく紹介していったことだ。デビュー50周年を迎えた山下は「人のライブではございますが、厚く御礼申し上げます」と感謝。竹内は「山下達郎をアゴで使えるのは私だけ。アゴで使ってはないんですけど(笑)」と笑った。