ご存じですか?「生物は眠っている方がデフォルトで、起きている方が特別である」という「驚きの仮説」(現代ビジネス)

私たちはなぜ眠り、起きるのか?睡眠は「脳を休めるため」ではなかった?生物の“ほんとうの姿”は眠っている姿? 【写真】人間の常識を覆す、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! いま、気鋭の研究者が睡眠と意識の謎に迫った新書『睡眠の起源』が、発売即3刷と話題だ。 「こんなにもみずみずしい理系研究者のエッセイを、久しぶりに読んだ。素晴らしい名著」(文芸評論家・三宅香帆氏)、「きわめて素晴らしかった。嫉妬するレベルの才能」(臨床心理士・東畑開人氏)といった書評・感想が寄せられるなど、大きな注目を集めている。 (*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです)

私たち人間は、だいたい1日のうち16時間ほど起きていて、8時間ほどを眠って過ごしている。1日の3分の1を、眠って過ごしているのだ。起きている姿と眠っている姿──どちらも私たちの生きる姿である。はたして、“本来の姿”はどちらだろうか。 生物は眠っている方がデフォルトで、起きている方が特別である。 2021年、ショウジョウバエの睡眠を研究するワシントン大学のポール・ショーは、Science誌の取材に対し、そう語った。彼は2000年に、ショウジョウバエの睡眠をはじめて報告した研究者の一人だ。 私たち哺乳類だけでなく、昆虫であるショウジョウバエから線虫、そして脳をもたないクラゲやヒドラまで、皆眠る。トカゲなどの爬虫類や、ゼブラフィッシュという熱帯魚も眠ることが知られている。どうやらトカゲの睡眠やゼブラフィッシュの睡眠にも、ノンレム睡眠だけでなく、レム睡眠に近い状態があるらしい。トカゲや魚も夢をみているのだろうか。 生き物の分類は、系統樹として表すことができる。ある一つの共通祖先が、枝分かれしていく進化の道筋は、まるで一つの木の根元から、枝が徐々に分岐しているかのようだ。ヒドラとヒトは、約六億年前に分岐したとされている。6億年もの間、違う道を歩んできた。ヒドラが眠るとなると、ヒドラとヒトが分岐する前の共通祖先だって、眠っていたかもしれない。動物はいつから眠るようになったのか? もしかすると、進化の道筋のどこかで睡眠が生じたわけではないかもしれない。生き物はもともと眠っていた。そして、進化の道筋のどこかで、“起きている状態”を進化させたのではないだろうか。ショーが言いたかったのは、そういうことだろう。 「進化」という言葉を耳にしたとき、何を思い浮かべるだろう?生き物は、常に進化し続けている。私たちヒトもこれまで進化し続けてきたし、いつか絶滅しないかぎり進化を続ける。しかし残念ながら、私たちは生きている間に、自分自身が進化することはない。進化することなく一生を終えるのだ。 進化するとはどういうことなのか。 生き物は、進化しているに違いない。「進化論」を提唱したのは、チャールズ・ダーウィンである。 19世紀、イギリスに生まれたダーウィンは、医師である父の影響を受け、エディンバラ大学で医学を勉強した。しかし、彼の医学への興味はしだいに薄れ、博物学に没頭していった。生きている生物だけでなく、化石にも興味をもったという。 1831年、ダーウィンは長期の航海に同行しないかと誘われる。ビーグル号という船の探検航海に、博物学者として同行するというものだ。それを引き受けた彼は、各国を巡り、生き物たちの様子や化石を観察した。生き物好きのダーウィンにとって、心躍る体験になったに違いない。 航海を終えてイギリスに戻ったダーウィンは、生き物の進化について考えを巡らした。「神が万物を創造した」という考え方が重んじられていた時代、彼はそんな非科学的な考えに疑問を呈した。彼が航海で目にした多彩な生き物たち、さらに化石として残るかつて存在した生き物の痕跡の数々……生き物たちは、棲んでいる場所の環境に適応して生きている。その場所で生きやすいように、体の形を変化させる。生き物は、環境に適応して進化するのではないか──。 しかし生き物は、一生のうちに、環境に合わせて体の形やサイズを変えるわけではない。何が起こっているのかというと、世代を経ることで進化していくのだ。 有利な特徴をもつ(環境に適した)個体の方が、生存して子孫を残しやすい。そして、環境に適さない個体は子孫を残すことなく絶えていく。 これが、何世代にもわたってくり返されると、皆が有利な特徴をもつようになる。こうした進化のメカニズムを、「自然選択」と呼ぶ。まさに自然が、適している個体をふるいにかけて選択しているかのようだ。神は万物を創造しない。しかし自然は、まるで神のようにして生き物たちをふるいにかけるのだ。

金谷 啓之

現代ビジネス
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