最大の「レガシー」は停戦実現、功名心で前のめりのトランプ氏…見透かしつけ込むプーチン氏
「何年も彼が切り札なしに交渉するのを見てきた。うんざりだ」
フロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」で記者会見するトランプ氏(18日)=AP米国のトランプ大統領は21日、ロシアの侵略を受けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をこき下ろした。米FOXニュースのラジオ番組で述べたもので、同氏との深まる溝を隠さなかった。
24日で開始から3年となるロシアのウクライナ侵略は、トランプ氏の再登板を機に停戦に向けて動き出した。12日のトランプ氏とロシアのプーチン大統領の電話会談に続き、18日には米露外相らがサウジアラビアで会談して高官級の交渉チームの設置などで合意した。
一方、侵略に対抗してきたゼレンスキー氏との関係は悪化している。トランプ氏は、頭越しの協議に反発したゼレンスキー氏が侵略の影響で大統領選が実施できず任期が切れていることをとらえ、「選挙なき独裁者」呼ばわりしている。
トランプ氏は21日のラジオ番組で「彼(ゼレンスキー氏)が協議に参加するのはそれほど重要ではない」「彼が取引を難しくしている」とも述べ、停戦交渉で参加を求めない可能性に言及した。ロシアに占領された領土の放棄など安易な妥協に応じない姿勢のゼレンスキー氏に、いら立ちを募らせているとみられる。
見守るほかないウクライナ
ウクライナは米露の協議を見守るほかない。キーウの美術教師ビクトリア・イスチェンコさん(61)は「多くの人が死ぬ状況が続くのは耐えられないが、(停戦が)ロシアに再侵略の時間を与えるだけなら意味がない」と不安視する。「国際秩序や自由の破壊に手を貸している」とトランプ氏を批判する人もいる。
トランプ氏は昨年秋の大統領選で、ウクライナ支援を続けてきた当時のバイデン政権を批判し、「即時停戦」を公約に掲げて当選した。「大統領就任から24時間以内に終わらせる」と豪語していたトランプ氏は、1月には事情の複雑さを認めて発言を後退させた。
トランプ氏が前のめりなのは、停戦実現を大統領としての「最大のレガシー(政治的遺産)」(19日の演説)としたいからだ。主に白人労働者からなる岩盤支持層にウクライナへの巨額支援は「税金の無駄」と映る。侵略を終結できれば、支持層へのアピールになる。
前向きなロシアは善、抵抗するウクライナは悪
プーチン、ゼレンスキー両氏に関するトランプ氏の発言停戦に前向きに振る舞うロシアは善で、抵抗するウクライナは悪――。トランプ氏の言動からは、そんな考えが透ける。
21日のラジオ番組では、「ロシアは(ウクライナを)攻撃する理由がなかった。ロシアのせいではない」とロシアに侵略の責任はないと擁護。「プーチン大統領は望めばウクライナ全土を手に入れるだろう」とまで語った。欧州には停戦後にロシアの再侵略を防ぐ「安全の保証」を担うよう求め、距離をとりはじめている。
一方、この3年間、米欧の制裁で国際社会で孤立を深めたロシアは、停戦を急ぐトランプ氏の思惑を見透かし、制裁解除を含め最大限つけ込むとみられる。
「この戦争を終わらせることができるのはあなただけだ」。プーチン氏は12日の電話会談でトランプ氏にこう語って持ち上げた。
トランプ政権がウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対し、被占領地域を放棄させる可能性を示唆していることをロシアが歓迎しているのは確実だ。いずれもロシアが交渉開始の条件としている。
トランプ氏は交渉相手に厳しい要求を突きつけ、譲歩を引き出す「ディール(取引)」を好む。だが、トランプ氏はウクライナのNATO加盟反対などロシアが重視するカードを早くも切っている。「ロシアに対する交渉のテコを一方的に放棄している」(政治専門紙ポリティコ)との指摘もあり、交渉はいずれ行き詰まる恐れもある。
24日でロシアによるウクライナ侵略の開始から3年となる。停戦に向けて動き出したウクライナ情勢を展望する。