「私たちで本当にいいの?」──戸惑いながらの海外進出だった新しい学校のリーダーズ、LAを第二の故郷と言えるようになるまで #アジア文化最前線
日本の音楽アーティストが、次々と世界に飛び出していく──そんなムードが高まっている2025年、海外に積極的に「はみ出し」に行っているのが4人組ダンスボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」(英語名「ATARASHII GAKKO!」、以下「AG!」)だ。「個性や自由ではみ出していく」をコンセプトに、独自の世界観とクオリティーの高いダンスパフォーマンス、そしてどこか昭和を感じさせるようなノスタルジックな歌声で観衆を魅了する。 “青春日本代表”を自称する「AG!」は3月、アメリカ・ロサンゼルスで開催された「matsuri’25: Japanese Music Experience LOS ANGELES presented by CEIPA x TOYOTA GROUP “MUSIC WAY PROJECT”」にYOASOBI、Adoとともに出演し、集まった7000人のオーディエンスを文字通り熱狂させた。そんな彼女たちの海外活動にかける思い、現地での盛り上がりに密着した。(取材・文:宮本香奈/撮影:秋田康成、MICAFOTO/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
トップバッターをつとめたYOASOBIのパフォーマンスが終わり、ほどなくすると、真っ暗な会場に学校のチャイムが鳴り響く。「AG!」のステージ開幕の合図である。この日は、ホール後方から4人が旗をマントのように頭上に掲げながらステージに出てくるという演出。登場のシーンから観客との距離感が一気に縮まり、期待感が膨らむ。大歓声のなか堂々とステージに上がった 4人は、そのまま『Change』『オトナブルー』『WOO! GO!』などの人気曲を含む楽曲をノンストップで披露し、ラストは先月リリースされたばかりの新曲『One Heart 』をライブ初公開し、フルパワーでステージを駆け抜けた。
「AG!」のライブには、笑顔だけでは終われない圧倒的な楽しさがある。オーディエンスが声を出して笑い、踊り出してしまうくらいのパワーがあるのだ。ステージ上の4人は他に類を見ない異色のエンターテイナーと言える。
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「AG!」は、2021年に、アジアン・カルチャーを世界に発信するレーベル88risingから世界デビュー。『オトナブルー』の首振りダンスがTikTokでバズり、あっという間に海外進出組トップアーティストの仲間入りをした。その快進撃を彼女たち自身はどのように感じていたのだろう。 「結成当時から海外に目を向けていた?」という質問に、4人は「全然」「誰も!」とそろって大きく首を横に振る。衝撃の世界デビューは、誰よりも本人たちにとって驚きであり、戸惑いながらのスタートであったようだ。
美しいストレートヘアを振り乱しながら踊る振り切ったダンスが魅力のKANONは、「世界デビューが決まったときは、『日本でもまだ知られていないのに本当にいいのだろうか?』という思いが強かった」と当時の葛藤を語る。さらに、世界デビュー当時は、コロナ禍のためライブもできない状況。ブレークのきっかけとなったTikTokの選曲や振り付けを担当することが多いというが、「曲はリリースしたものの、海外の人が見てくれていることを実感したくて、一生懸命SNSのコメントを見ている感じでした」。
メンバーの人生を「180度変えた」のがここ、ロサンゼルス。 丸メガネとハスキーボイスの関西弁がトレードマークのSUZUKAは、「3年前に1週間くらいの滞在のつもりで来たロサンゼルスで、音楽プロデューサーのマニー・マークとの出会いがあり、そこで人生が変わりました。彼と一緒に曲作りをすることになり、MVを撮ることになり、いつの間にか2カ月半も滞在していました」と話す。
音楽との向き合い方を変えた場所でもあり、メンバーと家族のように過ごした思い出の多いロサンゼルスは、4人にとって特別な場所となり、今でも訪れるたびに「帰ってきたー」と感じられる土地なのだそう。「LAに来るとみんな笑っちゃうぐらい家族になっちゃう」と、ラップに定評があり、サイドを刈り上げた特徴的なダンサーヘアのRINも笑う。その頃は、セーラー服姿でロサンゼルスの街を歩いていると「セーラームーン」と声をかけられることもあったという。
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「世界に飛び出してから自分たちの視野も広がり、『こんなふうにやっていいんだ』と、たくさんの発見があって、そのおかげで日本でも知ってくれる人が増えたと思います」(RIN)
「海外で『行ける』と感じた瞬間は?」との問いに、これも皆そろって「初めてのフェス」と答えてくれた。4人にとって初の海外パフォーマンスとなった88rising主催のフェス「HEAD IN THE CLOUDS」(2021年)の様子について、メンバーは次のように語る。 「それまでは日本で、頑張って300人集める、みたいなライブをやっていたので、お客さんが舞台の袖から見えた私たちに歓声を送ってくれるのを見て、『え、ちょっと待って。こっち見てる?』という感じでした。日本で当たり前にやっていた『気をつけ、休め、礼』も、特別なこととして受け止めて盛り上がってくれるアメリカの観客を(SNSのコメントではなく)実際の目で見て感激しました」(KANON)
厚めのバングスと二つ結びの髪形がトレードマークのMIZYUは、「コロナでライブができず、歓声自体が久しぶりだったのもあって、鳥肌が立ちました。アメリカでは無名だし、リーダーズを知らない人を楽しませようと思っていたのに、ステージに出たら一緒に歌ってくれて、私たちを知ってくれていることにびっくりでした。さらに楽屋に戻ったら、早朝の日本で配信をみてくれていたファンから『アメリカで歓声を浴びているリーダーズを見て泣けました』というコメントをいただいて、私も泣いてしまいました」と、振り返る。
アメリカと日本のライブの違いについて聞いてみると、KANONはアメリカのオーディエンスについて「自由」と即答。「私たちも自分を解放するのが好きだけど、ロサンゼルスの人たちはすでに解放されているし、人生を楽しんで青春もしてる。だからこそ、エネルギーを感じ合えて、ライブしていてもすっごく楽しい」
RINも「素直で、高揚したらその高揚を隠さずにはいられないって感じで全身で表現してくれる。私たちと相性が抜群にいいなと思います」 「海外のライブで大変なこと、気をつけていることは?」という質問にも「特にないです。めっちゃ楽しい」と、SUZUKAが大きな笑顔で答えてくれる。 「もちろんMCは日本語では伝わらないので、分かる範囲で英語でやりますが、もう逆に日本語を教えてあげちゃってます。『乳首ドリルすなー』って日本語を教えてあげたりして、あとで意味調べたらびっくりみたいなことになってますよね」というSUZUKAの話に、3人も「あったよねー」と大笑い。
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大阪出身で、幼少期からドリフターズや吉本新喜劇に影響を受け、父親からボケとツッコミを教えられて育ったというSUZUKAには、お笑いの世界を目指した過去もある。「お笑いじゃなくてリーダーズになって良かったね」というメンバーからの声がけに「お笑いは、『笑わせる』というゴールがひとつだけれど、私たちはリーダーズで、笑わせることも泣かせることもできる。こっちの道を選んで本当に良かった」と語り始めた。 「歌詞は日本語が多いので、アメリカではどんなメッセージを歌っているかが伝わらない分、動きやエナジーをそれぞれの感じ方で楽しんでくれる。海外だからこそ、余白を自由に受け取ってもらえる楽しみがあると思います。空白があるのがエンターテインメントの面白さですから」
今後の活動について「楽しみなことしかない」と語る4人。「AG!」のこれからについてSUZUKAは、「私たちは今年10周年を迎えるので、またスタート地点に立つ」と表現する。7月には10周年記念公演となる「宣誓 ~個性や自由ではみ出し10年~」が控えている。
海外活動を切り開くなか、日本ではアジア版グラミー賞を目指す国際的な音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」(以下「MAJ」)が創設された。「MAJ」について、MIZYUも「アーティストが投票できるというのは、今までにないスタイルで嬉しい」と楽しみにしている様子。RINにとっても「日本だけでなく、アジアのアーティストもエントリーされていて、自分たちも知らない楽曲に出会える楽しみがある」と語る。 KANONは「AG!」の海外進出について「日本の文化を伝えるというより、自分たちが好きなものを日本の文化とともに海外に持っていくような気持ち」でいるのだそう。SUZUKAも「アジアにしかない魅力もあるし、日本にしかない魅力もある。先陣を切れるのは嬉しい」。「MAJ」が日本だけでなく、アジアのくくりで開催されることも彼女たちにとって大きな意味を持つようだ。SUZUKAは「10年といってもまだやってないことがたくさんあるので、ここからまた20年を目指して新しいことに挑戦したい。4人の新たな可能性を見つけたいし、皆さんにも見つけてもらいたい」。
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matsuri’25 ライブ後、ファンの話を聞くことができた。「AG!」の魅力について問うと、皆が声をそろえて答えるのは、彼女たちの「圧倒的な熱量とチームワーク」。
テキサスから訪れ、今回のショーを最前列で鑑賞していたポールさんは、「誰か一人が目立とうとするのではなく、みんながそれぞれの魅力を発揮してリスペクトし合っているところ。一人が前に出るときはみんなでその子を盛り上げる。こんなグループは見たことがない」と熱く語ってくれた。 マイアミ在住で、昨年行われた北米ツアーはメキシコ以外すべて見に行ったというジョセフさんも、「誰か一人を選ばなくてはだめと言われたらRINだけど、とにかく全員が好き。4人そろって『AG!』だから」と話す。 彼らが「AG!」のライブを全米中追いかけるには十分すぎる理由がある。圧倒的な熱量と自らが振り付けを行う独創的なダンスと歌のパフォーマンスに、「絶対に楽しませたい」という強い想いが加わって、唯一無二の世界観を確立させているからだ。「AG!」 とともに受け入れられる、アジアのカルチャー、そして日本の音楽は、確実にアメリカでファンを増やし、熱狂を伝えている。 「#アジア文化最前線」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。新たな才能が生み出すエンターテインメントや豊かな歴史に根ざした伝統芸能など、最新のトレンドや伝統の再発見をお届けします。日本を含むアジア文化への理解を深め、世界とのつながりを広げることを目指します。