ロシア軍が過去最大499発の長距離ドローン・ミサイル攻撃を実施、ウクライナ軍は迎撃率94%と善戦(JSF)
2025年6月9日のウクライナに対するロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は合計499飛来(ドローン479機+ミサイル20発)、これは1日あたりでは過去最大数となります。ただしドローンはおそらく半数以上は安価な囮無人機です。6月6日の大規模攻撃に続く「報復攻撃」と見られますが、合計の数は多くてもドローンばかりでミサイルの数が減少しており、攻撃の質としては低下しています。
- 2025年06月09日:499飛来(ドローン479機+弾道/巡航ミサイル20発)
- 2025年06月06日:452飛来(ドローン407機+弾道/巡航ミサイル45発)
- 2025年06月01日:479飛来(ドローン472機+弾道/巡航ミサイル7発)
※ロシア空軍遠距離航空コマンドが大打撃を受けたウクライナ特務によるパヴティナ作戦は6月1日に実施されたが、攻撃を仕掛けた時間帯から6月1日のロシア軍の大規模攻撃は別に報復ではなく、6月6日以降の大規模攻撃が報復とみられる。なお空襲は毎日行われており(最近半年間では1日平均ドローン約100機飛来)、上の3例は特に数が多い事例。
2025年6月9日迎撃戦闘:ウクライナ空軍司令部
- キンジャール空中発射弾道ミサイル×4飛来4撃墜
- Kh-101巡航ミサイル×10飛来10撃墜
- Kh-22超音速対艦ミサイル×3飛来2排除(0撃墜+2未到達)
- Kh-31P対レーダーミサイル×2飛来2排除(0撃墜+2未到達) ※1
- Kh-35亜音速対艦ミサイル×1飛来1撃墜
- 敵性無人機×479飛来460排除(277撃墜+183未到達)
合計499飛来479排除(292撃墜+187未到達)
ウクライナ空軍より2025年6月9日迎撃戦闘、合計499飛来479排除(292撃墜+187未到達)※1:今回のウクライナ空軍司令部の発表の記述ではKh-31Pは2発を撃墜と読めますが、それでは合計の撃墜数と未到達数に2発の齟齬が出て計算が合わないので、おそらくKh-31Pの2発の撃墜は未到達の記述ミスであると筆者は推定します。この日本語で書いた迎撃戦果のリストはそのように筆者が修正してあります。
○弾道ミサイルについて:全弾撃墜
ロシア軍によるキンジャールの使用は、ウクライナ空軍司令部の発表ベースでは2024年12月31日(出典)以来の実に5カ月ぶりになります。4発ともに撃墜されたことも特筆すべき点で、しかも西部のリヴネ(Рівне)やドゥブノ(Дубно)などで交戦しており、これは後方に弾道ミサイル迎撃が可能なパトリオット防空システムが配備されていたことを意味しています。ただし本当に全弾撃墜したかどうか、客観的な映像の証拠などはありません。
消えた弾道ミサイルの幻影:9B899デコイ弾?
また迎撃戦闘の速報ではキーウ周辺などへの弾道ミサイル16発の飛来が空襲警報で警告されていましたが、空軍の集計報告では4発だけであり、これは電子戦の影響であるとされています。おそらくですがキンジャールの尾部から放出する9B899デコイ弾を誤認した可能性があります。筆者関連まとめ:イスカンデル用デコイ弾9B899(9Б899)
キンジャールはイスカンデル弾道ミサイルの空中発射型なので9B899デコイ弾を放出可能です。ただしこの9B899デコイ弾は開戦初期に使われていましたが効果が低いと直ぐに使用が中止されていたのですが、最近5月24日になって再び投入され始めたらしいという報告がウクライナ空軍からありました。出典:ウクルインフォルム
もしかすると改良された9B899デコイ弾の再投入が開始されたのかもしれません。
○巡航ミサイルについて(亜音速型):全弾撃墜
- Kh-101巡航ミサイル×10飛来10撃墜 ※爆撃機から発射
- Kh-35亜音速対艦ミサイル×1飛来1撃墜 ※戦闘機から発射
巡航ミサイルは6月6日にKh-101を36本使ったばかりで生産補充分は全く貯まっておらず、6月9日の攻撃では10本しか投入できていません。在庫が少なく大規模投入が出来ない状態です。なおKh-35は本来は対艦ミサイルですが限定的な対地攻撃も可能です。専用の巡航ミサイルが足りないので穴埋めで投入されたものと思われます。
○巡航ミサイルについて(超音速型):撃墜無しだがほぼ外れる
- Kh-22超音速対艦ミサイル×3飛来2排除(0撃墜+2未到達) ※爆撃機から発射
- Kh-31P対レーダーミサイル×2飛来2排除(0撃墜+2未到達) ※戦闘機から発射
Kh-22は本来は対艦ミサイルですが対地攻撃転用を行っています。今回はズミイヌイ島を狙ったと推定されていますが、3発中2発が外れるという命中精度の低さを露呈しています。Kh-31P対レーダーミサイルはウクライナ側の防空システムがドローンなどを迎撃しようと活性化したレーダーの電波を狙って攻撃する意図ですが、こちらも外れていたようです。
○長距離ドローンについて(自爆機と囮機):迎撃率94%
- 敵性無人機×479飛来460排除(277撃墜+183未到達)
6月9日の長距離ドローン479飛来は6月1日の472飛来を更新して過去最大数となっています。しかし半分以上が安価な囮無人機であることはほぼ確実で、水増しされた状態です。未到達のほとんどは燃料が尽きた囮無人機であり、撃墜した中にも囮無人機は混じっています。なお未到達を除いて計算すると迎撃率は94%と非常に高い数字で、ウクライナ防空部隊は発表の通りならば善戦しています。
なおロシア軍の長距離攻撃は前日6月8日のドローン飛来数は49機と少なかったので、500機近い規模を連日発射を続けることはドローン生産数の限界から不可能なようです。ロシア軍は毎日ウクライナに対して空襲を続けているので、報復目的で大規模を思い立って実行しても後が続かず、その後は在庫が怪しくなったドローンやミサイルで小規模な攻撃が暫く続くでしょう。そして生産在庫が再び貯まれば通常通りの発射規模に戻ります。つまり長期的に見ればトータルでの飛来数に変化は生じないことになります。
報復攻撃と大規模攻撃の意味
つまり毎日攻撃している以上、「報復攻撃」で成果を宣伝するにはこれまでに行ってこなかった斬新な方法で攻撃しないとあまり意味はありません。単純な大規模攻撃を行ってもその後に攻撃手段の在庫が怪しくなって小規模攻撃が続いてしまったら、攻撃の総量は結局は同じだからです。しかし、かといって潜入破壊工作での損害に対して報復として「核攻撃」を実施するのは大袈裟すぎて釣り合いが全く取れておらず、実行することは国際的な政治的リスクを考えても困難でしょう。
6月1日のパヴティナ作戦の報復とみられるロシア軍による6月6日と6月9日の大規模な長距離ドローン・ミサイル攻撃は、予定に無かった攻撃を仕掛けたためにドローンの数は多いもののミサイルの数が少なく、攻撃の質としてはむしろ高くはありません。実際に迎撃率は高く攻撃は阻止されて戦果は上がっていないように思えます。ただしこれはウクライナ空軍司令部の発表が正しければ、という前提になります。
報復攻撃のドローン・ミサイル合計(迎撃率は未到達を除いて計算)
- 2025年06月09日:499飛来479排除(292撃墜+187未到達) ※迎撃率94%
- 2025年06月06日:452飛来406排除(235撃墜+171未到達) ※迎撃率84%
ウクライナ軍防空部隊の迎撃率の数字が向上しているのはおそらく、今回のロシア軍の報復攻撃ではウクライナ奥地の西部を狙った割合が高かったことが原因だと推定します。長距離ドローンが到達するまでの時間がかなり掛かり、レーダーで探知して警報を発してから防空部隊の対処時間の余裕が大きく取れたことの影響が大きかったのではないかと考えられます。時間の余裕があれば機動射撃班(ピックアップトラックに対空機関砲や携行地対空ミサイル班を乗せた軽防空部隊)をドローンの予想飛来ルートに先回りさせることが可能になります。