“テレビに映らない”大谷翔平「ショウヘイは“そっとしておけ”」エンゼルス恩師が親友のドジャース監督ロバーツに…番記者が聞いたウラ話(Number Web)

《7月1日 vsホワイトソックス(ドジャースタジアム)◯6-1》  試合前の会見場。デーブ・ロバーツ監督は、投手復帰3戦目の6月28日のロイヤルズ戦ではメジャー自己最速の101.7マイル(約163.6キロ)を計測した大谷の次回登板日を問われると、こう答えた。 「日曜日(6日=日本時間7日)に投げる」  大方の予想は、ドジャース先発陣に故障者が多いため先発ローテーションに余裕はなく、予定通りなら中5日、中6日で4日か5日(同6、7日)が予想されていたため、驚いた。一旦は受け入れたものの、私と同じように不思議に思うメディアが何人かいた。どういうことだろうか。合間の先発はマイナーから昇格させるのか。はたまた、ブルペンデーか。  この疑問は一旦置いておいて、気になっていた質問をロバーツ監督にぶつけた。大谷は今季ここまで欠場は「父親リスト」に入っていた2試合のみ。この日はベッツが休養日だったので「球宴までに大谷に休養日を与える予定はありませんか?」と質問した。するとロバーツ監督は笑顔で回答した。 「ノー。今のところ休ませる予定はない」

 心配なのは疲労蓄積による何らかのケガだ。基本的に大谷は毎日出場したいと考え、そのことについて球団首脳は理解しているのは間違いないが――心配は尽きない。これは担当記者としての一種のサガであり、大谷がいつか現役引退を決断する日まで続くのかもしれない。  そんな会見から10分ほど経った後のことだ。球団広報からメッセージが届いた。 「Sho on Saturday.(大谷は土曜日に投げる)」  やはり……。ドジャース専属のラジオリポーターを務めるデービッド・バッセーさんは、既に配信していたSNSの投稿やネット記事の差し替えをしている記者を見つめ、大笑いしていた。 「デーブ(・ロバーツ監督)の言うことを信用しているのかい?  たまに日付を間違うからね。注意が必要だよ」  ただ、ロバーツ監督ほど記者の質問に真摯に答え、「いちげんさん」の記者の呼びかけにも立ち止まって対応する監督はあまり見たことがないのも事実。日々対応してくれることに関しては、感謝の気持ちを持っている。


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 しばらくすると、そのバッセーが、こう聞き直してきた。 「そういえば、フィルと喋った?  きょうグラウンドに来てるよ」 「どのフィル?」と聞き直したが、バッセーが指を差した方を見てみると――はっきりと見覚えのある大柄な男性がホワイトソックスの打撃練習を見つめていた。  2022年は三塁コーチとして、同年途中から2023年まで監督として大谷と接してきたフィル・ネビン氏だった。今は選手育成部門特別補佐を務め、チームに同行していた。数人の日本メディアとともに打撃練習が終わるのを待ち、ネビンに視線を送っていると、こちらに気付き満面の笑みを浮かべた。 「元気か、みんな!」  日本メディア一人ひとりとハグを交わし、力強い握手。丸太のように太い二の腕と分厚い胸板、張りのある声もそのままだった。

 最初の話題は息子である西武の一塁手タイラー・ネビン。今季はタイラーが出場している試合を観戦するため来日したという。 「息子がすごく楽しんで野球をしている姿を見ることができたのがうれしかったですね」  そう語りつつ、目尻を下げたのが印象深かった。タイラーは5月の月間MVPにも選出され、6月23日には来季からの2年契約も締結している。「彼は日本でプレーすることが決まった時から、日本語を学んだり、文化を理解しようと努力していた」と活躍の要因を分析するとともに――日米の時差がある中でも、愛息に対しての愛情をこう明かした。 「今では、毎朝2時に起きて彼の試合を見ています。ほとんど寝ていないですよ(笑)。でも本当に素晴らしい経験をしていると思います。私は9月にまた日本に行く予定です」  もちろん現役時代の同僚で「親友」と呼ぶロバーツ監督と、大谷についても話題は及んだ。 「唯一の助言は『何も言わず、そっとしておけ』だ。私が関わった中で一番準備を怠らない選手。起きているときも寝ているときも、すべてが“世界一の選手になる”ために行動している」という。  エンゼルス時代にベンチで大谷にファウルボールが当たりそうになった時、ネビンが「ファウルボールは一番不細工なやつのところにいく」と笑い、直後に同氏の方にファウルボールが飛び、大谷が「あなたの言っていることは本当だった」と英語で返した逸話は有名。大谷とネビンは普段から冗談を言い合い、はたから見ても良い関係性だった。大谷が右肘を痛めた23年8月23日のレッズ戦で、本人以上に悲痛の表情を浮かべていたのがネビンだったのも印象に残っている。

 試合は大谷が4回にリーグ一番乗りとなる30号ソロを放ち、5年連続30本塁打に到達。ロバーツ監督は投打で躍動する姿に「期待や雑音など全ての事象を頭の中で整理する能力がずば抜けている。ただただ驚嘆するばかりだ」と感服するしかなかった。  この日、ネビンと大谷の再会はかなわなかったが、今シリーズで2人がどんな笑顔で再会を果たすのか――待ち遠しく感じた翌日、その時はやってきた。〈つづく〉

(「テレビに映らない大谷翔平:番記者日記」柳原直之(スポーツニッポン) = 文)

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