日本株の守護神は記録的自社株買い、昨年比2倍ペースで米関税に応戦
今年度に入り、米国の関税政策に翻弄(ほんろう)された日本株を危機から守ってきたのは記録的な自社株買いだ。企業が資本効率や株価を意識した経営にかじを大きく切り始めた証左とも言え、投資家フレンドリーなこうした変化は中長期的に相場を押し上げる可能性がある。
貿易赤字の解消を狙うトランプ米大統領が4月上旬に対象国への上乗せ関税政策を発表した直後は、経済への悪影響や貿易戦争への懸念で世界中の株価が急落に見舞われた。その後米国が上乗せ分を一時停止したほか、対英国や中国との貿易交渉の進展を受け株価も反転。日本では東証株価指数(TOPIX)が13営業日続伸と約16年ぶりの連続上昇を記録している。
日本株が持ち直す一因となったのが旺盛な企業の自社株買いだ。ブルームバーグのデータによると、日本の上場企業は年初から直近まで合計8兆4000億円を超す自社株買いを発表し、これは昨年同時期のほぼ2倍。規模は2017年以降で最高に達した。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員は、今回の決算発表で堅実な業績見通しと自社株買いを発表した企業はTOPIXをしのぐパフォーマンスを見せていると指摘。トランプ関税の影響でマクロ経済見通しが不透明な中、現時点での企業の利益計画には不確実性も多く、「自社株買いは投資家に安心感を与え、非常に評価されやすくなっている」と述べた。
衛生陶器のTOTOやパチンコ機のSANKYOの株価は共に自社株買いの発表翌日に9%以上上昇。米上乗せ関税政策が発表された直後の4月初旬には下落を強いられた工作機械向け数値制御(NC)装置のファナック、情報技術(IT)サービスの富士通など輸出セクター企業の株価も自社株買い発表後に急伸した。
モーニングスターのアナリストであるサム・ホイ氏は、自社株買いは日本企業のガバナンス(統治)が改善している具体的な証拠で、グローバル投資家に対する魅力を高めるとみている。ガバナンス改革は「日本特有の現象で、関税問題とは無関係だ」とし、多くのファンドマネジャーにとっては「新たな投資機会が生まれている」と話した。
米企業も最近の株価下落を受け自社株買いに動いており、ブルームバーグのデータによると、S&P500種株価指数の採用企業で今四半期に実施した自社株買い合計額は前年同期と比べ約400億ドル(約5兆9000億円)多い。
ただし、日本企業のバランスシートは依然として過剰資本の状況で、実施余地の大きさから「日本の自社株買いブームは長期的に継続する可能性が高い」とアリアンツ・グローバル・インベスターズで日本株最高投資責任者(CIO)を務める中塚浩二氏は言う。