「女王」の時代が到来 スウェーデン、オランダ、スペインも 王位継承「性別に関わらず長子」が世界の潮流

2025年2月、日本車いすバスケットボール大会を観戦するために東京体育館に到着した天皇、皇后両陛下と愛子さま。穏やかな笑顔を見せた この記事の写真をすべて見る

 男系男子による皇位継承が続く日本。だが、世界各国の王室を見渡すと、性別に関わらず、第1子による王位継承が定着している。今後、続々と誕生する女王たちによる新たな時代の幕開けはすぐそこだ。AERA 2025年10月27日号より。

【写真】エリザベス女王(故人)とバルコニーに立つロイヤルファミリー

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 世界で最も早く、性別に関係なく第1子に王位継承(長子相続制)を導入したのは、スウェーデンだ。1980年1月1日に新法が施行されたとき、国王のカール16世の長女、ビクトリア皇太子(48)は2歳になったばかり。以来、皇太子としての教育を受け、実業家と結婚。1女1男を出産し、長女のエステル王女(13)が未来の女王になることが決まっている。

 スウェーデンだけではなく、ヨーロッパの王室では今後、女性の君主が続々と誕生する見込みだ。

 まず、オランダ。男子優先の長子相続制度があったが、1983年からスウェーデンと同じく「絶対長子相続」に。現在、王位継承順位1位は、ウィレム・アレクサンダー国王(58)の3人の娘の長女、カタリナ=アマリア王女(21)だ。

 アマリア王女はアムステルダム大学に進学後の2022年ごろから、テロ組織から誘拐・拉致の脅迫を受けていた。危険を回避するためオランダを離れることになったが、このとき、全面的に協力を申し出たのがスペイン王室だった。王女はマドリードで、1年ほどオンラインなどで講義を受けたと言われている。

愛子さまの親友の王女

 無事にオランダに帰国した王女はスペイン王室にお礼として、オランダのチューリップの球根を贈った。スペイン王室ではさっそく球根を植え、その庭園に王女の名前を付けた。やがてたくさんのチューリップが咲き揃った頃、王女は公園を訪問。脅迫という危機はあったものの、オランダとスペインは親善を深める契機となった。

 そんなアマリア王女は、愛子さま(23)の「親友」でもある。2006年に天皇陛下(当時皇太子)ご一家が雅子さまの静養としてベアトリクス女王(当時)から招待を受け、約2週間オランダ王室の離宮へット・ロー宮殿に滞在したことがある。

 このとき、当時4歳の愛子さまと2歳のアマリア王女が仲良く手をつないだ写真が残っている。その後も二人は文通などを続けているそうだ。

英王室/エリザベス女王(故人)とバルコニーに立つロイヤルファミリー。チャールズ国王、ウィリアム皇太子、ジョージ王子としばらく男性の君主が続く(撮影:アフロ)

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スウェーデン王室/王位継承予定のビクトリア皇太子(後列右)一家。長女のエステル王女(13)は未来の女王だ。長男のオスカル王子(9)、夫のダニエル王子とともに(撮影:アフロ)

 オランダの隣国、ベルギーも1831年の建国以来、憲法によって初代国王レオポルド1世の男系男子に限って王位継承資格を認めてきた。しかし1991年、ベルギー議会は男女同権の観点から継承権者を男系男子に限定する規定を無効とすることを決定。以来、男女の別のない長子相続による王位継承が行われている。

 現在の王位継承順位1位は、エリザベート王女(23)。ベルギーの公用語であるオランダ語、フランス語、ドイツ語のほか、英語、中国語が堪能な才女で、英国のオックスフォード大学に進学すると、歴史学と政治学を学び、さらに夏休みなどを利用して士官学校の課程も受講。24年9月からは米国のハーバード大学ケネディ行政大学院で公共政策を学んでいる。

男女平等の原則と矛盾

 今夏、トランプ大統領による留学生ビザの発給停止問題が起きてしまったときには、王女は特別扱いを避けベルギーに帰国。現在はハーバード大学に復帰しているが、優秀で謙虚な王女を多くの国民が誇らしく思っているという。

 スペイン王室も次代は、フェリペ6世の長女、レオノール王女(19)が王位に就くことが決まっている。

 もともと男子優先の王位継承が行われていたスペインで、議論が大きく動いたのは、04年のことだ。

 この年の総選挙で勝利したスペイン社会労働党は、長子相続制の導入を選挙公約に掲げており、野党第1党となった国民党やその他の主要な政党全てが「男子優先制は憲法で確立された男女平等の原則と矛盾している」という合意に達した。

 翌05年に生まれたのが、レオノール王女だ。その後、現在まで「性別に関係なく長子を優先する」という法改正は行われていないため、弟が誕生すれば王位継承権は弟が優先となるわけだが、その可能性は現実的ではない。主要政党すべてが合意したという経緯もあり、次の王位継承者として、国民から支持されているという。

オランダ王室/(右から)アレクシア王女、アリアーネ王女、王位継承予定の長女カタリナ=アマリア王女。3姉妹は「トリプルA」と呼ばれ、国民に人気がある(撮影:アフロ)

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ベルギー王室/ハーバード大学ケネディ行政大学院で学んでいるエリザベート王女(中央)。父であるフィリップ国王(左)の後を継いで即位すれば同国初の女王となる(撮影:アフロ)

 日本となじみが深い英王室も、性別に関係なく長子が王位を継承することになっている。他の王室と異なり、その歴史は古く、1500年代から女性君主を認めていて、エリザベス1世(在位1558‐1603)はスペインの無敵艦隊を破ったことで知られ、ビクトリア女王(同1837‐1901)は大英帝国を黄金期へと導いた。

 ただ、女性君主が登場するのは、兄弟に男子がいないときに限られてきた。

 1936年、エドワード8世が米国人のシンプソン夫人と結婚するために退位し、弟のジョージ6世が王位に就いた。このとき、ジョージ6世の長女であるエリザベス女王は自分の空恐ろしい運命を察知し、母親のエリザベス王妃(当時)に「弟を産んで」と懇願。「それは神様にお任せしましょうね」と母が答えたというエピソードが残る。

 そんな歴史を持つ英王室だが、13年に王位継承法が制定され、男女の区別なく長子(第1子)が王位を継承することになった。ただ、チャールズ国王(76)、ウィリアム皇太子(43)と続き、その次は、長男のジョージ王子(12)となるので、女王の誕生はまだ少し先になりそうだ。

性別に関わらず長子

 こうして世界の王室の王位継承について書いてくると、1990年代ごろから「男系男子」から「性別に関わらず長子」へと世界の潮流が変わってきたことがわかる。それは、まさに時代の大きな転換でもあるだろう。

 各国の女王たちは今後、それぞれの結婚、戴冠、出産など、ことあるごとに顔を合わせ、絆を深めていく。それぞれの王室は政治に直接関与しないものの、女王たちがソフトパワーを発揮して世界平和に寄与しようとする姿勢を見せるとき、きっと大きなうねりを起こすと期待されている。

(ジャーナリスト・多賀幹子)

AERA 2025年10月27日号

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お茶の水女子大学文教育学部卒業。東京都生まれ。企業広報誌の編集長を経てジャーナリストに。女性、教育、王室などをテーマに取材。執筆活動のほか、テレビ出演、講演活動などを行う。著書に『英国女王が伝授する70歳からの品格』『親たちの暴走』など
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