トランプ氏、シカゴやボルティモアなどへも州兵派遣の意向 「権力の乱用」と州知事ら反発

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画像説明, 米公園警察アナコスティア作戦施設を訪れたトランプ米大統領(21日、ワシントン)

犯罪やホームレス問題への対処を強化するためだとして、米首都ワシントンで州兵を展開しているドナルド・トランプ米大統領は、州兵の派遣をほかの州へ拡大する意向を示している。州知事らは、こうした動きは「権力の乱用だ」などと反発している。

トランプ氏は都市部における犯罪行為の取り締まりの一環として、すでにコロンビア特別区(DC、首都ワシントン)に約2000人の部隊を派遣している。

こうした中、トランプ氏は22日に、米中西部イリノイ州シカゴや東部ニューヨークでもこの政策を実施するつもりだと述べた。ワシントン、シカゴ、ニューヨークの市長はいずれも野党・民主党所属。

イリノイ州のJ・B・プリツカー知事(民主党)は23日、シカゴに州兵を派遣するというトランプ氏の計画は権力の乱用だと非難。知事は声明で、イリノイ州への州兵派遣を正当化するような緊急事態は存在しないとし、トランプ氏が「危機をでっちあげようとしている」と主張した。

シカゴのブランドン・ジョンソン市長(民主党)は22日、トランプ氏の発言に対し、州兵派遣に関する情報は一切受け取っていないとの声明を発表した。

市政府として部隊派遣に「重大な懸念」があるとしたうえで、トランプ氏の対応は、「調整不足で、出過ぎた、妥当性を欠く」ものだと批判した。

ジョンソン氏はさらに、「非合法な派遣」は「住民と法執行機関との緊張を高め」、犯罪の減少に向けた市の前進を脅かす可能性があると付け加えた。

トランプ氏は24日にも、東部メリーランド州ボルティモアへも州兵を派遣する可能性を示唆。メリーランド州の「ウェス・ムーア(知事)が、ロサンゼルスでギャヴィン・ニューサム(カリフォルニア州知事)がそうだったみたいに、助けを必要としているなら、(メリーランド州に)近いワシントンで行われているように、私が『部隊』を派遣して、犯罪をすばやく一掃する」と、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。

メリーランド州のムーア知事(民主党)は先に、ホワイトハウスに書簡を送付していた。ムーア氏は21日付の書簡の中で、メリーランド州内の犯罪は減少しているとし、トランプ氏を同州に招待し、「効果的な公共安全政策について協議」したいと提案していた。

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画像説明, メリーランド州のウェス・ムーア知事(右)は、トランプ大統領の戦略を頻繁に批判している

トランプ氏の戦略を頻繁に批判しているムーア氏は、トランプ氏の犯罪対策をめぐる発言は「非常に的外れで無知に聞こえる」と述べた。

「それは、彼らが我々の街を歩いたことがないからだ」と、ムーア氏は続けた。「我々のコミュニティーに足を踏み入れたこともない。それなのに、我々について決まり文句を繰り返すことに何のためらいもない」。

トランプ氏の24日のトゥルース・ソーシャルへの投稿は、ムーア氏の書簡への直接的な反応とみられる。トランプ氏は投稿の中で、ムーア氏の論調は「不快」で「挑発的」だとした。

トランプ氏は、「私が大統領として、そこ(メリーランド州)へ『散歩』に行く前に、(ムーア氏に)この犯罪の惨状を片付けてもらいたい」と続けた。

米メディアによると、今後数週間で19州に最大1700人の州兵が動員される見込みで、テキサス州に最も多くの部隊が配備されるという。

州兵は、移民関税捜査局(ICE)の活動支援や、「目に見える抑止力」としての役割を担うと報じられている。

こうした中、ピート・ヘグセス国防長官は、ワシントンを巡回する州兵の武器の携行を命じた。これは、トランプ政権が「制御不能な」犯罪が起きているとするワシントンをめぐる対応の一環とされる。

先週の時点では、国防総省と米陸軍は、約2000人の派遣部隊は武器を携行しないとしていた。

トランプ政権は州兵派遣を称賛している。しかし、民主党の牙城であるワシントンでは、多くの住民がこれに強く反対していることが、世論調査で示されている。

国防総省は声明で、州兵は「間もなく、任務と訓練に基づき、支給された武器を携行して任務に就く」と説明した。

今回の決定により、ワシントンにおける州兵の役割が変化するのかは不明だ。

これまでのところ、地元警察や連邦機関の職員が担っている法執行活動に、州兵は関与していない。州兵はナショナル・モール国立公園やユニオン駅など、市内の主要ランドマーク周辺に配置されている。

ワシントンのミュリエル・バウザー市長(民主党)は、武器の携行をめぐる今回の決定についてコメントしていない。

トランプ氏は22日、ホワイトハウスの大統領執務室で、この任務はワシントンに「完全な安全」をもたらしたと述べた。

「ワシントンは地獄のようだった」が、「今は安全だ」と、トランプ氏は主張した。

トランプ氏は、ワシントンでの任務は成功したと宣言しているが、州兵の派遣期限が切れるタイミングで、国家非常事態を宣言することを検討しているとも述べている。

「ここの状態はすばらしいと、私が思えるならそれでいい。だが、私がそう思えなければ、国家非常事態を宣言する」と、トランプ氏は述べた。「国家非常事態宣言があれば、部隊を好きなだけ長く留め置くことができる」。

南部のサウスカロライナ州やウェストヴァージニア州など、共和党知事が率いるいくつかの州からも、部隊が派遣されている。

米紙ワシントン・ポストとシャー・スクールが先週公表した世論調査では、ワシントン市民の約80%が、連邦職員や州兵の派遣、コロンビア特別区首都警察の指揮権が掌握されることに反対していることが示されている。

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