日産、経営再建へ猶予は1年-26年に迫る過去最高の「社債償還の壁」
日産自動車では2026年に社債の償還額が過去最高に達する見通しだ。経営不振で資金調達能力に懸念が高まる中、向こう1年で業績と信用力を安定させる必要がある。
ブルームバーグのデータによると、日産とグループ会社は26年に総額56億ドル(約8700億円)近くの社債が償還期限を迎える。これはデータを確認できる1996年以降で最も多い。「償還の壁」が迫る中、日産の信用リスクを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は2023年3月以来の高水準に達し、円建ておよびドル建て社債のスプレッド(上乗せ金利)は今年最高水準に拡大している。
直近の日産株は乱高下している。今期(25年3月期)業績予想の下方修正と9000人の人員削減を発表し急落したが、その後はアクティビスト投資家による株式取得が判明して急騰した。クレジット市場では海外で投機的等級に格下げされ、いわゆる「堕天使」になりかねないとの懸念が投資家心理を悪化させている。米国の大統領選挙でトランプ前大統領が勝利し、日本の自動車メーカーなどが関税引き上げに直面するとの警戒感も高まっている。
SMBC日興証券の原田賢太郎チーフクレジットアナリストは、「現在の状況下では日産は格下げのリスクがある」とし、投資家から「相応のスプレッドが要求される可能性がある」と話す。フィッチ・レーティングスかムーディーズ・インベスターズ・サービスのいずれかで格下げとなると外貨建て社債はジャンク級となる公算が大きく、投資適格債指数から除外されると指数に組み入れられている銘柄のみを対象とする投資家は投資できなくなると言う。
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日産広報の永井志朗氏は、9月末時点で自動車事業におけるネットベースの現金が1兆3000億円を超え、十分な流動性を有しているとコメントした。自動車および販売金融事業の両方で国際的な主要行と信用供与枠契約を結んでおり、9月末時点の利用可能額は1兆9000億円以上だと説明。利益を上げている販売金融事業からの配当や新規社債の発行を含め、今後5年間に満期を迎える社債の元本返済については「多くの資金源」があると述べた。
ブルームバーグのデータによると、日産の格付けはムーディーズが「Baa3」、フィッチが「BBBマイナス」で、いずれも投資適格級で最も低い。一方、S&Pグローバル・レーティングは「BBプラス」と既に投機的等級となっている。格付け見通しはいずれも「安定的」で、当面は格付け変更の可能性は低いことを示唆している。
懸念の一つは自動車部門からのフリーキャッシュフロー(FCF)が4-9月期に赤字に転落したことだ。S&Pはリポートで、4400億円超の赤字は業績の悪化と投資負担の増加によるものだとした上で、今後も中長期的に電気自動車(EV)の開発や自動運転など次世代技術開発のための多額の投資負担が続くため、業績を早期に安定化させてFCFの黒字化基調を維持できない場合、格付けへの下方圧力が強まるとの見解を示した。
日産はまた、日本の自動車メーカーの中で収益に対する借入金が圧倒的に多い。ブルームバーグが集計したデータによると、前期のEBITDA(支払利息・税金・償却・減価償却前利益)に対する借入金の比率は8倍。一方、トヨタ自動車は4.9倍、ホンダは4.7倍、日経平均採用企業の平均は3.3倍だった。
CMAのデータによると、日産のCDSは今月初めに23年3月以来の高水準となる約178ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に上昇した。日本の大手企業の中でCDSが日産よりも高い債務不履行リスクを示すのは3社しかない。
社債価格も同様の動きとなっている。ブルームバーグのデータによれば、30年に満期を迎えるドル建て債のスプレッドは234bpと、今年の最低水準から50bp急拡大した。金融部門が発行した27年満期の円建て債も、スプレッドは今年の最低水準である約51bpから約80bpまで急騰した。
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日産にとって主要市場の一つである米国では、次期大統領のトランプ氏がメキシコで生産された自動車の輸入に対して200%を超える高関税率を課す意向を示している。同国は日産にとって重要な製造拠点と販売市場である上、トランプ氏は他の国々からの輸入品についても関税を引き上げる可能性を示唆している。
S&Pの美澄祐太アソシエイトディレクターは、「自動車業界全体について見通しをやや慎重に見る局面になってきている」とした上で、もともと収益性が弱かった会社が環境悪化の影響をより受けやすい部分はあると話した。