UAE、ヨルダン川西岸地区併合は「越えてはならない一線」と警告 イスラエル閣僚の発言受け

画像提供, Reuters

画像説明, パレスチナ・ヨルダン川西岸地区のイスラエル入植地の一つ「マーレ・アドゥミム」(2025年8月14日撮影)

アラブ首長国連邦(UAE)は3日、イスラエルがパレスチナ・ヨルダン川西岸地区を併合すれば、「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えることになると警告した。UAEとイスラエルの関係を正常化した「アブラハム合意」の精神を損なう動きだとしている。

ヨルダン川西岸をめぐっては、イスラエルの極右のベザレル・スモトリッチ財務相がこの日、同地区の約5分の4を併合する案を発表した。

スモトリッチ氏はエルサレムでの記者会見で、併合の「時が来た」と主張。「国を分割し、その中心にテロ国家を樹立するという考えは、きっぱりと捨て去らなければならない」と述べた。

スモトリッチ氏は会見で、国防省の入植管理局の案だという、西岸地区の約82%に「イスラエルの主権を適用する」ことを示す地図を提示。「最少のアラブ人と最大の土地」という原則に沿ったものだと説明した。

残りの18%は、パレスチナの6都市(ジェニン、トゥルカルム、ナブルス、ラマラ、ジェリコ、ヘブロン)周辺の、孤立した飛び地の合計となっている。

スモトリッチ氏は、「(パレスチナ人は)自分たちの生活を管理し続ける。当面は、パレスチナ自治政府を通じた現在と同じ方法で、のちには、それに代わる地域の民間機関を通してだ」と述べた。

この発表のあと、UAEのラナ・ヌセイベ政務担当外相補佐官は、イスラエルによる西岸地区併合の動きは、同国とパレスチナの紛争における「2国家解決」の可能性を消滅させることになると述べた。

ヌセイベ氏は、「当初から私たちは(アブラハム)合意を、パレスチナ人とその独立国家への正当な願望を継続的に支援するための手段と考えていた」と表明。「ヨルダン川西岸の併合は、UAEにとってレッドラインとなる」と述べた。

パレスチナ自治政府の外務省は、UAE側の表明を喜ばしいものだとした。

イスラエルは、1967年の中東戦争でヨルダン川西岸とパレスチナ人が将来の国家建設で首都として望んでいる東エルサレムを占領して以来、約160の入植地を建設し、70万人のユダヤ人を住まわせている。こうした入植地では、ユダヤ人と共に、推定330万人のパレスチナ人が暮らしている。

アメリカの仲介で2020年に結ばれたアブラハム合意では、UAEのほか、バーレーンとモロッコが、イスラエルと完全な外交関係を樹立した。

UAEが署名した際の主な条件には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の前政権が、入植地やヨルダン渓谷を含むヨルダン川西岸の部分併合計画を中止することだった。ネタニヤフ氏は当時、この計画の「一時停止」には同意したが、「交渉テーブルの上」には残るとしていた。

入植を支持している現在の右派連立政権では、閣僚の多くが、ヨルダン川西岸の一部または全体の併合を主張している。ただ、イギリスやフランス、その他の多くの国が最近、パレスチナ国家を承認する意向を表明しており、そうした状況でも計画を進めるべきか、政権内で議論になっているとされる。

ネタニヤフ首相は、2023年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃の後にパレスチナ国家を承認するのは、「テロに報いる」のに等しいとしている。

UAEは、すでにパレスチナ国家を承認している国連加盟147カ国の一つ。

多くの国際人権団体は、イスラエルがすでにヨルダン川西岸でアパルトヘイト(人種隔離)体制を敷いていると結論付けている。イスラエル政府はこれを否定している。

国際司法裁判所(ICJ)は昨年、イスラエルの「パレスチナ占領地での継続的な駐留は違法」であり、同国は「可能な限り速やかにその違法な駐留を終わらせる義務がある」とする勧告的意見を出した

これに対しネタニヤフ氏は当時、同裁判所が「うその判断」を示したと批判した。

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