「大気から直接」CO2回収、世界に勝てる…RITEが国内最大級のDAC実証でつかんだ手応え|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

RITE未来の森の正面。DACの吸引口が見える

大気中の二酸化炭素(CO2)を直接回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)の装置が、大阪・関西万博の会場で稼働している。地球環境産業技術研究機構(RITE)による国内最大級のDACの実証だ。大阪ガスやエア・ウォーターと連携して回収したCO2で合成メタンを製造し、会場内で使う「カーボンリサイクル」も展開中だ。万博の会期が後半に入り、RITEのチームは実証の成果に手応えをつかんでいる。

RITE、実証は着々 合成メタン製造→会場の燃料

来場者でにぎわう広場から離れたエリアに「RITE未来の森」がある。白いフェンス越しにダクト3本の先端が見える。内側に回ると下部に配管とタンクがある。上部のダクトが吸引口となっており、内部でファンが稼働して空気を吸い込んでいる。

空気は網目状の基材に通す。その基材にはCO2を化学結合する吸収剤が固定されており、空気中のCO2を捕まえる。蒸気を投入すると熱で化学結合が解かれ、排出されたCO2を回収してタンクにためる。1日の回収量は300キロ―500キログラム、濃度は95%だ。

吸収剤はRITEが開発したアミン(RITEアミン)。RITE化学研究グループの余語克則リーダーは「CO2を吐き出しやすい」と解説する。吸収剤に使われる一般的なポリエチレンイミン(PEI)は吸着したCO2の排出に100度C以上の高温が必要。RITEアミンは60度Cで排出するため、省エネルギー化による運転コスト低減を見込める。

DACの3基の吸引口と余語リーダー

また、PEIは高温にさらし続けると劣化し、CO2を吸着しなくなる。RITEアミンはCO2吸着量ではPEIに劣るが、劣化への耐性があって長持ちする。吸収剤の交換頻度の低減もコスト削減に有効だ。

DAC装置は万博開幕前の1月から試運転している。RITEアミンは気温が低いと多くCO2を吸着し、高温になると吸着量が低下する性質がある。冬から秋にかけて評価できる万博は絶好の実証の場だ。

DACの吸引口。内部のファンで大気を吸い込む

ここまで機器にトラブルがなく、装置は計画通りに稼働している。「実用化を考えるとエンジニアリング力も非常に重要」(余語リーダー)と実感する。装置は三菱重工業が建設した。

DAC実証は、関係府省・機関が推進するムーンショット型研究開発事業としてRITEと金沢大学が取り組んできた研究事業の成果。実機による実証によって「性能アップとコスト削減のための材料とシステムが見えてきた」(同)と語る。海外企業がDACの実用化に向けて先行するが、運転実績が少なく比較は難しい。だが、「勝てる感触をつかみつつある」(同)と手応えを感じている。

DACで回収したCO2は、隣接する大阪ガスの施設「化けるLABO」に送っている。ここには、水を電気分解して水素を製造する装置がある。万博会場には関西電力が脱炭素由来電力を供給しており、製造時にCO2を排出しない「グリーン水素」を作れる。施設内のメタネーション設備で、この水素とDACの回収CO2から合成メタンを製造している。

合成メタンを製造する大阪ガスの「化けるLABO」に回収しCO2を送る

さらに、万博内で発生した生ゴミからもメタンを抽出している。大阪ガスカーボンニュートラルメタン開発チームの伊藤大樹副課長は「どこまでメタンを増やせるのか検証している」と狙いを話す。

合成メタンは会場内にある迎賓館の厨房(ちゅうぼう)やコージェネレーション(熱電併給)設備の燃料として使われている。このコージェネの排ガス中のCO2も循環させている。大ガスの隣の施設「地球の恵みステーション」で、エア・ウォーターがナトリウム鉄系酸化物を吸収剤に使った装置で排ガス中のCO2を回収。そのCO2を大ガスに供給し、合成メタンに再生している。

大ガスの施設で1時間に製造する合成メタンは7立方メートル。これは170世帯分に相当する。本格的なカーボンリサイクルが展開されており、万博が「未来社会のショーケース」であることがうかがえる。

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