空爆に口閉ざすレバノン住民「沈黙の方が安全」 背後にある恐怖
そのアパートは、最近まで人々が生活していたとは思えないほど、無残な姿をさらしていた。側面にはコンクリートの破片がぶらさがり、部屋の中がむきだしになっている。周辺には家具やゴミが散乱しており、住民の姿は見当たらない。
イスラエル軍は4月8日午後、わずか10分間のうちにレバノンで100カ所以上を攻撃した。標的になったのは、イランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラの本拠地や軍事拠点など。米国とイランが停戦合意を発表したわずか数時間後のことだった。
地中海に面したレバノンの首都ベイルートのアインムレイセ地区にあるこのアパートも標的になった場所の一つだ。
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口を閉ざす住民たち
5月中旬の昼下がり。この地区を訪ねると、海に面した通りは、モスク(イスラム教礼拝所)に向かう男性やジョギングを楽しむ人たちでにぎわっていた。だが、路地を一本入ると、雰囲気はがらりと変わった。7階建てのアパートは壁面が崩れ落ち、隣の建物にも大きな穴が開いていた。
ヒズボラは、米国とイスラエルの軍事作戦でイランの最高指導者ハメネイ師が殺害されたことを受け、3月2日にイスラエルに「報復」を開始。イスラエルも応戦し、ヒズボラの本拠地であるレバノン南部やベイルート南郊に攻撃を繰り返した。
ただ、アインムレイセ地区を含むベイルート中心部は比較的平穏だった。それだけに、4月8日の空爆は市民に衝撃を与えた。レバノンではこの日だけで民間人を含む300人以上が死亡した。のちに「暗黒の水曜日」と呼ばれるようになったゆえんだ。
空爆があった当時の話を聞こうと、付近の住民ら15人に声をかけた。しかし、記者と名乗った瞬間、ほとんどの人が「何も話したくない」と顔をこわばらせ、逃げるように立ち去った。
なぜ、住民らはこれほどおびえているのだろう――。
地区を覆う緊張感
取材を続けていると、バイクで路肩に止まっていた…