ポルトガル首都のケーブルカー脱線、3歳児救出 市民に事故の衝撃広がる
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ポルトガルの首都リスボンで3日に発生したケーブルカーの脱線事故の現場には、4日も多くの人が集まった。ケーブルカーの残骸を見つめる人々の顔には、事故への衝撃がはっきりと表れていた。この事故ではこれまでに16人の死亡が確認されている。一方で、3歳のドイツ人の男児が救出された。
男児は脱線したケーブルカーから救出された。父親は死亡したと報じられている。母親はこの事故の負傷者20人以上の1人となった。
警察によると、死者にはポルトガル、韓国、スイス、カナダ、ドイツ、ウクライナの国籍を持つ人々が含まれているとみられる。
事故の原因は今も分かっていない。ケーブルカーを運行する公共交通機関カリスは、独立した事故調査を開始したと発表。すべてのケーブルカーの点検も実施するとした。
4日夜には、聖ドミニク教会で犠牲者を追悼する礼拝が行われ、ポルトガルの政界の有力者らが参加した。
教会の外では、徹底的な事故調査を求める人々が集まった。「ここは安全な場所だと、みんなに知ってもらう必要がある」と、参加者の女性が声を上げると、周囲の人々はうなずいた。
事故現場を通りかかった地元住民の1人はBBCに対し、何が起きたのか「まだ整理できていない」と語った。現場には、脱線して建物に衝突したケーブルカーの残骸が横たわったままだ。
集まったほかの人々は、残骸の写真を撮ったり、静かに現場を見つめたりしていた。シンガポールから来たという観光客2人は、3日にケーブルカーに乗るつもりだったが、直前で予定を変更したという。
「恐ろしい。(中略)もしかしたら、私たちが乗っていたかも」と、1人が語った。「人生観が変わる出来事だ。こんなことが起こるなんて、誰も予想しないので」
ツアーガイドのマリアナ・フィゲイレド氏は、3日夜の事故の現場に居合わせた1人だった。目撃した光景に精神的な衝撃を受けたという。
フィゲイレド氏は大きな衝突音を聞いて駆けつけた。現場は、自分のトゥクトゥク(3輪自動車)を停めていた場所の近くだったという。
「5秒くらいで現場に着いた」と、フィゲイレド氏は述べた。「坂の下で停まっていたケーブルカーの窓から、人々が飛び降り始めるのが見えた。それから、(坂の上の方に)つぶれたケーブルカーが見えた」。
「人を助けようと坂を登ったが、たどり着いた時には何も聞こえず、静寂しかなかった」
フィゲイレド氏がほかの人たちとケーブルカーの屋根を取り外すと、車内に複数の遺体が見えたという。
その後、子どもたちが救出されるのを見守り、骨折した人を助け、動揺する人たちを落ち着かせようとしたと、フィゲイレド氏は話した。
「周囲では大勢が泣いていて、すごくおびえていた。私はみんなを落ち着かせようとした」
事故当時、坂の下に位置していた別のケーブルカーに乗っていたという男性は、死ぬかと思ったと、記者団に語った。
「この先何年生きようと、ケーブルカーにはもう二度と乗らない」
警察は死傷者の名前を公表していないが、4日の記者会見で、死者にはカナダ人2人、ドイツ人1人、ウクライナ人1人が含まれる可能性があると明らかにした。
警察は先に、ポルトガル人5人、韓国人2人、スイス人1人の身元が確認されたと発表していた。
ポルトガル運輸労組によると、ケーブルカーのブレーキ係だったアンドレ・ジョルジ・ゴンサルヴェス・マルケス氏も死亡した。
慈善団体「サンタ・カーザ・ダ・ミゼリコルディア」は、職員4人が事故で死亡したと明らかにした。同団体の職員らは通勤にケーブルカーを使っているという。
同団体の職員ヴァルデマー・バストス氏はBBCに対し、急な坂の上にある職場に向かうのに、観光客や高齢者らと一緒によくケーブルカーを利用していたと語った。
「いつも安全だと感じていた」と、バストス氏は述べた。「こんなことが起こるなんて思いもしなかった」。
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ケーブルカーを運行する公共交通機関カリスの責任者ペドロ・ゴンサロ・デ・ブリト・アレイショ・ボガス氏は4日、市内のすべてのケーブルカーを、技術点検が完了するまで運行停止にすると発表した。
事故が起きたグロリア線については、将来的に新しい車両で運行を再開すると、記者団に述べた。
また、ケーブルカーは2007年以降、正常に稼働してきたとし、カリスは整備費を増やしてきたとした。ただ、この10年で整備コストは2倍以上に膨れ上がっているという。
事故調査の結果については、近く公表されるとしつつ、具体的な時期については明言を避けた。
ソーシャルメディアで共有された映像には、黄色のケーブルカーが石畳の通りで横転し、つぶれている様子が映っていた。煙が立ち込める中、人々が現場から逃げる姿も確認できる。
地元当局によると、ケーブルカーの残骸の中に数人が閉じ込められていたが、助け出されたという。
リスボン当局は当初、死者数を17人と発表していたが、病院で死亡した人を二重に数えていたことが判明し、後に16人に訂正した。
ケーブルカーは、急斜面を行き来する鉄道システムの一種。リスボンでは、石畳の急坂を移動するための重要な交通手段となっている。
市内のケーブルカー(グロリア線、ラヴラ線、ビカ線、グラッサ線)は観光名所としても人気が高い。黄色の路面電車のような車両が、狭くて坂の多い通りを縫うように走っている。
グロリア線のケーブルカーは、1885年の開業から約30年後に電化された。
今回事故を起こした車両は、リスボン中心部のレスタウラドーレス広場から、絵画のように美しい石畳の街並みが広がるバイロ・アルト(高台地区)までの約275メートルの距離を、わずか3分で結ぶ路線を走っていた。
グロリア線のケーブルカーは2両で、電動モーターが動力源となっている。2両はけん引式ケーブルでつながっており、一方が坂を下ると、その重さでもう一方が坂を上がる仕組みになっている。これにより、2両は同時に昇降することができ、輸送に必要なエネルギーを抑えられる。
損傷を免れた車両は、事故車両からわずかしか離れていない坂の下で停止した。