万博で進行する実利重視の外交 「税金で出展、成果不可欠」 ウクライナは金銭と一線

万博ナショナルデーの式典であいさつするトルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領=4月14日、大阪市此花区

2025年大阪・関西万博の参加国による「万博外交」が本格化している。各国首脳は自国の式典開催日に合わせて来日し、石破茂首相や日本政府関係者との会談を通じた経済協力などの関係強化に躍起だ。自国を世界にアピールする舞台でもあるが、対立と分断の時代に国際社会の結束を示す上で、開催国日本の求心力が不可欠となる。

「第1号」にこだわり

万博会期中、日替わりで参加国・地域が式典やイベントを行い、当該国・地域への理解を深める「ナショナルデー」。第1号は、中央アジアのトルクメニスタンだった。

ベルドイムハメドフ大統領は開幕翌日の4月14日、式典参加者に「全ての国と協力し、共同プロジェクトを実施する用意がある」と宣言し、「われわれは世界有数のエネルギー大国であり、パートナーの国々とともに重要なプロジェクトを実施している」と訴えた。

大統領は翌15日に官邸で石破首相と会談し、天然ガスの活用拡大などに向けた協力を進める方針を確認。民間企業との経済フォーラムにも出席するなど精力的に動いた。

関係者は、トルクメニスタンが最初のナショナルデー開催に「強くこだわった」と明かす。メディアの注目を集めながら日本と国際社会にメッセージを発信しようとした意図がうかがえる。

首脳らがアピール

トルクメニスタンだけではない。オランダのスホーフ首相は4月21~22日にパビリオン除幕式への参加に加え、石破首相との会談や、オランダ企業と取引がある半導体メーカーの北海道工場の視察もこなした。

ポーランド政府関係者によると、トゥスク首相が9月30日の投資フォーラムに合わせて来日し、対日関係強化の文書に署名することを計画している。10月1日の万博ナショナルデーにはトゥスク氏の出席も見込まれる。

自国アピールの舞台であるナショナルデーなどのイベントには、各国の首脳や賓客が出席するのが通例だ。単に儀礼的な訪問で終わらせず、中長期的視野で実益を期していることは間違いない。

22年にドバイ万博を訪れた韓国大統領は、開催国であるアラブ首長国連邦(UAE)の首相と会談し、韓国のミサイル防空システムを輸出することで合意した。

ある欧州政府関係者は各国が展開する「万博外交」について「税金を使って出展している以上、最大限の成果を得たと自国民に示す狙いもあるだろう」と指摘する。

首相の手腕いかに

日本にとっても、万博は国際社会で存在感を示す機会となる。岩屋毅外相は開幕後の記者会見で「各国のカウンターパートと積極的に会談し、協力関係を強化したい」と意気込んだ。

実際、参加国と個別に首脳会談を重ね、経済や防災分野などでの連携を確認してはいるものの、政府のリーダーシップが期待されるのは、万博のレガシー(遺産)に注目が集まる会期後半から終盤にかけてとみられる。大阪府は「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを巡り、各国との共同宣言採択を目指しており、合意形成に向けて石破首相の手腕が問われそうだ。

イスラエルの展示が物議

「万博の華」といわれる海外パビリオンも、国際社会に外交上のメッセージや自国の立場などを発信する舞台になる。代表例が、ロシアの侵略を受けるウクライナの展示だ。

「NOT FOR SALE(非売品)」。ウクライナは複数の国・地域が出展する共同館における展示で、こうしたメッセージの看板を掲げている。

「NOT FOR SALE(非売品)」の看板が掲げられたウクライナの展示=4月15日、大阪市此花区

陳列された子供用の人形やタイヤなどの複製にはバーコードが添付され、専用端末で読み取ると、戦時下でどのように利用され、現地の人々がどういった生活を送っているかといった映像が流れる。

「非売品」というメッセージには、ウクライナが死守せんとする国家の独立と国民の生命、自由、財産が、金銭と引き換えに売り渡すことはできないものだという覚悟が込められている。

物議を醸す展示もある。中東のイスラエルはパビリオンの展示で、ユダヤ民族のルーツから現代に至る歴史や文化などを紹介しているが、エルサレムの旧市街から運び出した約2千年前の要塞の一部とされる古代の石を出展した。

ただ、旧市街がある東エルサレムは、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領した係争地という側面を持つ。

今回は、エルサレムの帰属を争うパレスチナも出展しているが、「未来への遺産と希望」を前面に掲げ、展示品は戦争と一線を画した伝統工芸品が多い。パレスチナの担当者は「イスラエルの展示は非常に悲しい」と語った。(黒川信雄)

政府、自治体、企業の連携に意義

村田晃嗣・同志社大教授(外交史)の話

同志社大の村田晃嗣教授

多数の国や地域が一堂に会する万博は、間接的な外交ツールとしての側面を持つ。国家間同士の通常の外交とは異なり、政府や自治体、企業が共同で、外国と接触する機会を持つことができるところに意義がある。

例えば近年、経済安全保障の問題などがクローズアップされているが、これは政府だけが努力しても実現できるものではない。企業や自治体の協力が欠かせない。3者が連携して外国政府と接することは、経験を積み、人材を育成する意味というでも重要だ。

大阪万博が開催された1970年当時と違い、日本経済は縮小する方向にある。現代の日本が万博を通じ、海外の首脳らに最新技術などを見せることができれば、日本が長期的に成長できることを示すことにもつながるだろう。(聞き手 黒川信雄)

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