樹木にはCO2吸収以外にも気温を下げる効果が。目指せ植林1兆本

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バスタブの水を減らしたかったら、おちょこでかき出す前に、まず蛇口を閉めないとって話よね。

木を植えれば二酸化炭素を吸収して温度が下がる。地球温暖化対策の切り札のように扱われることが多い植林や森林再生ですが、そんな期待の裏側で、新たな研究によって意外な事実が明らかになりました。

科学者によると、これまで見過ごされてきた大気中の化学反応によって、植林の冷却効果がより高まる場合があるそうです。しかし、木を植えるだけでは温暖化は止められないとのこと。

CO2吸収だけが樹木の取り柄じゃない

カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームが、科学誌『Communications Earth & Environment』に発表した研究結果によると、地球上の森林を産業革命前の規模に戻せるならば、地球の平均気温を0.34度下げる可能性があるそうです。

産業革命前から世界平均気温が1.2~1.3度上昇しているので、その約4分の1に相当することになります。0.1度でも気温が下がると大きいので、0.34度はめちゃくちゃデカい。

「森林を産業革命前の規模に戻す」というのは簡単ですが、実際にどれくらいの規模になるのかというと、世界中でアメリカ全土の約1.3倍にあたる1,200万平方kmにわたって、1兆本の木を植えなきゃいけないのだとか。

1日あたりどこかで木を100万本植えたとして、100万日かかっちゃうんだけど、大丈夫でしょうか? 2,740年かけて気温を0.34度下げる分の木を植えるのか…。

気を取り直しましょう。この研究の注目すべき点は、樹木の二酸化炭素吸収能力だけでなく、これまで気候モデルがあまり考慮に入れてこなかった別の重要な側面を明らかにしたことです。

樹木は「生物起源揮発性有機化合物(Biogenic Volatile Organic Compounds: BVOCs)」として知られる物質を放出しています。BVOCsは、空気中の他のガスと反応すると、太陽の光を反射する微粒子が形成されたり、雲ができやすくなったりします。この2つの作用が、大気を冷やす効果を強めているといいます。

研究を主導したカリフォルニア大学リバーサイド校の気候科学者であるボブ・アレン氏は、「こういった化学的影響も考慮に入れると、地球を冷却する効果はより顕著になります。これは全体像を理解するうえで非常に重要な要素です」と、大学のプレスリリースで語っています。

大気との化学反応が気温上昇を抑制

樹木の葉っぱの暗い表面は、太陽の熱を吸収しやすく、周囲の温度を上昇させてしまいます。

しかし、興味深いことに、BVOCsの放出によって大気で起こる化学反応は、この効果を打ち消し、正味の冷却効果が損なわれないように機能していることが判明したそうです。

この化学反応がなければ、葉の暗さが、樹木の炭素吸収量増加に伴う冷却効果の45%を帳消しにしてしまうところなのですが、化学反応のおかげで、マイナスの影響を45%から24%にまで減少させるといいます。

しかし、植林による恩恵は、どこでも同じように得られるわけではないようです。

研究結果によると、より効率よく炭素を吸収し、BVOCsをより多く生成する熱帯林はより強い冷却効果をもたらすことを示唆しているとのこと。また、熱帯林は、高緯度地域と比較して、樹木の葉の暗い表面が地表を温める効果も小さいといいます。

植林だけでは不十分?

研究チームは、今回モデル化された「過去に木があったすべての場所で森林を再生させる」というシナリオが、かなりむちゃぶりなことを認めています。

森林だった場所は住宅地や農地、牧草地などに変わってしまっていることも多く、そこを森に戻すとなると、住居の確保や食料の安定供給、土地利用の優先順位などで、難しい問題を数多く抱えることになります。

世界人口は80億人を超えて、今後もまだまだ増えていきます。そのすべての人々に住居と食べ物が行き届くようにと考えると、宅地や農業、畜産に適した地域を避けながら、すさまじい勢いで木を植える必要がありそうです。たしかにむちゃぶりっぽい気がする。

万能薬じゃなくても、未来への確かな一歩に

今回の研究は、もともと大学院の授業での課題として始まって、それが共同研究論文へと発展したそうです。地球システムのモデル構築と土地利用データを使用して、現実的なスケールでどこまで森林を再生できるかを検証したところ、慎重ながらも楽観的な結論に至ったといえるとのこと。

研究チームは、森林再生を重要な気候変動対策としつつ、化石燃料の使用を相殺する手段にはならないと強調します。化石燃料によるCO2排出量を削減しないと、焼け石に水なんですよね。

そして、今回の研究は、大規模な植林でなくても意味があることを示唆しているそうです。

研究の共同執筆者で、カリフォルニア大学リバーサイド校地球惑星科学部の大学院生であるアンソニー・トーマス氏は、「小さな取り組みでも、地域の気候に確かな影響を与えることができます。変化をもたらすために、すべての場所で同時に森林を再生させる必要はありません」と話しています。

アレン氏も、「気候変動はリアルです。そしてどのような規模であっても、森林再生に向けた歩みのすべてに意義があるのです」と、小さな行動がもたらす成果について述べています。

地球規模の問題は、いきなりホームランを狙うよりも、シングルヒットを重ねていくことが大事。

といっても、国際社会や各国政府の気候変動対策の進み具合を見ていると、ヒットがなかなか出ないというか、振らなきゃバットに当たんないじゃんという状況かも。ノーヒットノーランだけは避けないと…。

Source: University of California Riverside, Meteored

Reference: Allen et al. 2025 / Communications Earth & Environment, EurekAlert!

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