日米関税交渉、為替がカードに 財務相間で議論へ

  • 記事を印刷する
  • メールで送る
  • リンクをコピーする
  • note
  • X(旧Twitter)
  • Facebook
  • はてなブックマーク
  • LinkedIn
  • Bluesky
多様な観点からニュースを考える

日米関税交渉の材料に為替が浮上した。米国側が交渉の主導役に指名したベッセント財務長官は8日、非関税障壁などと並んで「通貨問題」を議論する構えを示した。日本は円安によるコストプッシュ型のインフレが続く。水準是正で思惑が一致する可能性がある。

ベッセント氏は8日(日本時間)、日米首脳による7日の電話協議で決まった関税を巡る今後の協議について、自身が担当閣僚に指名されたとX(旧ツイッター)で明らかにした。

「日本は引き続き緊密な同盟国であり、関税、非関税障壁、通貨問題(currency issues)、政府補助金を巡る生産的な取り組みを楽しみにしている」と、為替も交渉のテーマに据える考えを示した。

日本側は8日、関税を巡る交渉で赤沢亮正経済財政・再生相を担当閣僚に起用した。ただ為替問題はこれまで通り、加藤勝信財務相が担う方針だ。日米の財務相同士で議論する体制を続ける。

米側の担当には米通商代表部(USTR)のグリア代表も含まれる。日本の財務省幹部は「ベッセント氏も例えば自動車のことは所管していない。通商は通商、為替は為替という形だ」と解説する。

交渉カードの一つに浮上した為替問題だが、議論をどう進めるかは手探りとなる。

「貿易交渉では、どの国とも為替問題を協議していく。日本を例外にすることはない」。第1次トランプ政権の財務長官だったムニューシン氏は2018年、後に日米貿易協定となる協議に向け、通貨安誘導を封じる為替条項を求める考えを示した。

結果的に19年に最終合意した日米貿易協定には、為替条項は含まれなかった。日本側が為替と通商は分けて議論するべきだとの姿勢を示したことが背景にある。米国が17年に離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)にも同様の条項は含まれていない。

トランプ大統領は、米国の製造業の輸出競争力を低下させるドル高・円安をかねて問題視する発言をしてきた。日本は22〜24年にかけて、日米金利差や投機筋の円売りを背景とした過度な円安を抑えるため、円買い介入を断続的に実施してきた。輸入物価の上昇を緩和するために、円安是正で折り合う余地はある。

日米で協調介入をしたとしても、為替市場は規模が大きく効果は見通せない。なにより「ドル安」誘導は、恣意的な為替誘導を禁じた主要7カ国(G7)の合意に抵触する。現時点では「米国の出方も見えない」(別の財務省幹部)のも実情だ。

20年に発効した自由貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」では、為替レートの操作を避けるといった条項がある。今後の交渉ではこうした取り決めが参考とされる可能性もある。

一方でベッセント氏が交渉相手となったのは日本にとっては好都合な面がある。

2月の日米首脳会談では、為替に関する議論は「第1次トランプ政権時と同様に専門家の日米財務相の間で緊密な議論を継続する」(石破茂首相)と整理された。

政府関係者は「トランプ氏が日本を通貨安誘導と批判することを見越して、先手を打った面がある」と打ち明ける。その真意はトランプ氏を為替政策から遠ざける「トランプ介入封じ」だともいえる。

ベッセント氏は長官就任前はヘッジファンドの幹部を務めており、為替相場や債券市場などに明るい。かつては頻繁に来日し、日本の金融機関の幹部との面識もある。為替問題を財務相同士の議論に限定できれば、日本側の意向を反映しやすくなる。

実際に円安・ドル高を是正することになれば、日銀の金融政策にも好影響を及ぼす可能性がある。

日銀は円安による国内の物価上昇に追われるように金融正常化を進めてきた。日銀内には円安是正でインフレの速度が緩やかになれば「利上げを判断する時間的な余裕が生まれる」との声がある。

輸入物価の上昇を通じた物価高が和らげば、国民の負担や企業の仕入れコストの上昇が抑えられる。過度な円安傾向が是正され、実質賃金のプラス定着につながれば消費にも好影響を与え、日銀が目指す賃金と物価の好循環の方向性と一致する。

もっとも日銀内には「程度問題」として過度な円高に進むことへの懸念もくすぶる。ある関係者は「為替は国際政治そのものだ。日米間の金利差は一因ではあるが、そんな単純なものではない。一気に何十円と円高が進む可能性はある」とみる。

財務省内にも「過度な円高になれば、企業の経営計画や業績の予見可能性が失われる」と危惧する声もある。円安による輸出企業の収益を押し上げる効果も剝落すれば、米国の関税引き上げとあわせてダブルパンチとなる。賃上げの機運もしぼみ、内需成長に向けた好循環が遠のく。

  • 記事を印刷する
  • メールで送る
  • リンクをコピーする
  • note
  • X(旧Twitter)
  • Facebook
  • はてなブックマーク
  • LinkedIn
  • Bluesky

こちらもおすすめ(自動検索)

フォローする

有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。

春割で無料体験するログイン
記事を保存する

有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む

記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。

春割で無料体験するログイン
図表を保存する

有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

春割で無料体験するログイン
エラー

操作を実行できませんでした。時間を空けて再度お試しください。

権限不足のため、フォローできません

日本経済新聞の編集者が選んだ押さえておきたい「ニュース5本」をお届けします。(週5回配信)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

関連記事: