「人食い山」、世界で唯一合法的にダイナマイトを買える町 ボリビア

南米ボリビアのポトシは、一般人が合法的にダイナマイトを購入できる世界で唯一の場所だ/Giles Clarke/Getty Images via CNN Newsource

(CNN) ヘルメットと厚手のオーバーオールを着た6人の観光客が、ひざをつく隙間もほとんどない狭い坑道でじっとしている。現地のツアーガイドが使い捨てライターを取り出し、明るい緑色の導火線に火をつけ、落ち着いた様子で全員を後方へ誘導する。

次の瞬間、強い衝撃がトンネルを突き抜け、砂ぼこりが舞う。

ガイドは、観光客の1人が地元の市場で買ったダイナマイトを爆発させた。13ボリビアーノ(約280円)だった。南米ボリビアの鉱山都市ポトシは、一般人が合法的にダイナマイトを購入できる世界で唯一の場所だ。

ガイドによると、扱い方を知らなければダイナマイトは危険だが、鉱山労働者にとってそれは最も重要なものだという。ダイナマイトを使うことで採掘の速度が大幅に上がるからだ。

何世紀にもわたる歴史を持つポトシの鉱山網は広大だ。労働者たちは古びたレールに乗せた、破砕された岩を積んだトロッコを押しながら細い坑道を走って行き来する。「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」さながらの光景だ。

ポトシは世界でも有数の標高を誇る都市で、海抜は4000メートルを超える。狭い通りや建物の赤いかわら屋根としっくいの壁は、スペインの植民地時代をほうふつとさせる。

採掘の多くは、隣接する赤色の「セロ・リコ」(富める山)で行われている。この名前は、かつてこの町にばく大な富をもたらしたことにちなんで付けられた。ツアーガイドによれば、現在、「ポトシはボリビアで特に貧しい地域の一つと考えられている」という。

セロ・リコの銀鉱床

伝説によると、セロ・リコの豊富な銀鉱床は1545年にアンデス先住民の探鉱者ディエゴ・グアルパによって偶然発見され、その後ほどなくして、うわさを聞きつけたスペインからの入植者たちがセロ・リコの豊富な銀を採掘し始めた。スペイン人はこの数年前に同地域にやってきていた。

米テュレーン大学教養学部のクリス・レーン教授は「ここはあっという間に悪夢のような場所へと変貌(へんぼう)した」と話す。「法律を無視した強制労働の場だ」

レーン氏によると、先住民はスペイン国王のために働き、貢ぎ物を捧げるよう義務づけられた。その状態は「奴隷制に酷似していた」という。

1585年ごろのポトシの様子を描いた絵/Heritage Images/Getty Images

世界中から裕福な商人が押し寄せ、インフラを建設して鉱山から利益を得始めた。技術が向上するにつれて、状況はさらに悪化したとレーン氏は指摘する。例えば、精製工程に有毒な水銀が導入され、それが周囲に浸出して多くの人が亡くなった。セロ・リコは「人食い山」として知られるようになり、この名前は今でも鉱山労働者の間で語り継がれている。

ポトシはすぐにキリスト教世界で4番目に大きな都市へと成長。その人口は16世紀末の時点で20万人超に及んだ。当時、世界の銀の60%を供給し、スペイン帝国など世界中の王朝に財を提供していたと考えられている。

しかし、時が経つにつれ、かつて無限と思われた銀の埋蔵量は枯渇し始めた。ボリビアが1825年に独立を宣言したころには、銀はほぼ採掘され尽くし、ポトシは抜け殻のようになっていた。

採掘は今でも続いているものの、その多くはスズや亜鉛などの安価な鉱物だ。数百キロに及ぶ坑道によって鉱山は不安定になっており、その結果、鉱山は今、最も危険な時期を迎えているという。

悪魔崇拝

ツアーガイドによれば、それでもなお、「採掘に関してはあまり変わっていない」。ポトシの鉱山労働者たちは、何世紀も前の先祖たちと同じ神々に祈り、同じ儀式を執り行い、同じ呼吸器疾患で亡くなっていくという。

ポトシの坑道の入り口には、角のある悪魔のような彫像が飾られており、地元では「エル・ティオ」(おじ)と呼ばれている。

かつては植民地の支配者らが先住民労働者を威嚇するためにエル・ティオを取り入れたが、「今ではエル・ティオが私たちに幸運をもたらしてくれる」とガイドは語る。

坑道にある「エル・ティオ(おじ)」の像/Phil Clarke Hill/Corbis/Getty Images

ボリビアの鉱山労働者の平均寿命は40歳程度とみられている。

早死にの一般的な理由は、鉱山で頻発する事故や、珪肺(けいはい)症だ。珪肺症は、シリカを吸い込むことで起こる慢性肺疾患を指す。

レーン氏によると、「マスクを着けないことは、強さの表れだった」が、これがいかに問題を悪化させるかを説いた。「そして、ボリビアの鉱山労働者は、最もタフな人々とみなされている」

ボリビアの法で定められた最低就労年齢は14歳だが、抜け穴があるため、これよりもはるかに幼い子どもが仕事をすることはよくある。ボリビアの鉱山で6歳の子どもが働いていることを示唆する報告もある。

しかし、レーン氏は「この一見恐ろしい空間に、仲間意識や創造性が見つかる。音楽はこの場所から生まれ、興味深い詩や、多くの文化的蛍光が発せられる」と語る。

ポトシでは毎年2月から3月にかけて活気に満ちた「鉱山カーニバル」が開催され、大勢の旅行者が訪れる。伝統的に、鉱山労働者たちは作業着を身につけ、ビールを飲みながら「エル・ティオ」の人形を手にして街を踊り歩く。地元の女性たちは、華やかなドレスを身にまとい、マーチングバンドの音楽に合わせた振り付けを披露するという。

関連記事: